高断熱と暮らしのあいだ#1 築40年の家に住む設計士が考えること

私が今住んでいる家は、築40年のプレハブ住宅です。
この家を選んだのは「性能が良いから」ではありません。

たとえば、内部の建具。
当時流行っていたラワン材がしっかりと使われていて、年月を経て独特の風合いを持っています。
新建材では絶対に出せない質感で、家全体の雰囲気にしっくりと馴染んでいる。
木の建具が好きな私にとっては、大きな満足ポイントです。

また、ビニールクロスはDIYで塗装を重ねたり、自然素材の「タナクリーム」を自分で塗っています。
床材だけはDIYでは仕上がりに納得できなさそうだったので、大工さんにお願いしましたが、
その材料もわざわざ千葉の山武市まで行ってサンブスギを調達しています。

思えば、高断熱高気密住宅に目覚める前は「性能」にほとんど関心がありませんでした。
だからこそ、この家では“感性”の部分で存分に楽しむことができたのだと思います。
それが、今もここに住み続けている理由の一つかもしれません

当然、断熱材などの性能面では限界があります。
でも、普通の在来木造住宅と違って、この家は“規格住宅”なんですね。
それが住んでいると何となく見えてきて、在来の木造住宅のように自由にはできない…
そういう“リノベの限界”もまた、日々実感するところです。
(これはまたいつか、もっと詳しく書きたいテーマです。)

高断熱高気密住宅に憧れはあります。
でも、私が一番大事にしてきたのは「どんな材料で作られているか」。
そして、経年変化しても“味わい”が残る自然素材かどうか。
そういう意味では、この家は「性能」ではなく「素材の強さ」で、
私の暮らしを支えてくれています。

とはいえ──
“寒さ暑さ”もまた“感性の一部”であるので、
やっぱり、人間が本当に快適だと感じる温熱環境で暮らすことは、すごく大切です。

それを最小限のエネルギーで実現することが、設計の使命だと私は考えています。
そのためには、もう「勘」ではダメで、ちゃんと理屈、計算が必要です。
シミュレーションソフトを駆使して、科学的な裏付けを持って設計する。
そこに設計者の役割の本質みたいなものがあると思います。

私はパッシブハウスの設計など高気密高断熱の設計をしますが、「持続可能性」が最も大切だと考えています。だからこそ、高断熱高気密という技術は、これからの時代に欠かせないものなんです

改めて考えてみると、
私がこの家で感じているのは、単なる「性能の良し悪し」ではありません。

経年変化によって深みを増す素材、
大工とともに作った床、
自分で手を加えた壁や建具。

快適性は確かに大切ですが、
それを支えるのは、性能という「理屈」だけではなく、
暮らしの中で積み重なる「実感」や「記憶」だと思っています。

設計という仕事は、その両方をつなぐ役割を持っています。
性能を確実に押さえること。
そして、その上で、時間が経っても意味を持ち続ける空間をつくること。

私はこれからも、その両方を問い続けながら設計を続けていくのだと思います。

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