建築探訪 千葉県文化会館

建築家、大高正人さんの設計した千葉県文化会館と千葉県立図書館を建築探訪してきました。
どちらも大高雅人さんの設計した築50年になる貴重な近代モダン建築です。

千葉県文化会館では石橋館長にお話を聞くことができました。
昨年は50周年のシンポジウムも開催され、その参加者の多さに驚いたとのこと。
オリジナルの保全に努めている一方、現在のニーズに合うような改修をしながら丁寧に運営していらしゃいます。

エントランスホールはまるで宗教建築のような荘厳な雰囲気。建物はコンクリート打放しですが、表面ツルツルの仕上げではなくて、表面を細かくはつった、はつり仕上げ等もありその表情は豊かです。柱や壁も垂直ではなくて少し斜めになっていたり、曲線を描いていて有機的。

大ホールのホワイエはトップライトから差し込む水色の光と壁面の水色の相乗効果で、まるで水底から水面を覗いているような不思議な感覚になります。コンクリートの表面が荒々しく力強く感じます。

現代の建築とは違った表現力、まさに近代モダン建築です。

ですが築50年になる建築なので、問題点となるのが設備面の不具合です。人間も50年の年月を重ねれば不具合が出てきますから、建築も同じです。

トイレは竣工時の数では足りなくなっていて、数回増設をしているようです。当時と違って基準も変わり、現在のホールはトイレの数が多いですからね。
ホールの空調関係は、暑さ寒さなどの室温問題で利用者さんからクレームがあるようですが、配管類が埋め込みのために設備更新が難しいようです。旧式の空調設備を運用しているようですが細かい設定ができないようで、運営者としての苦労も多いようです。今の空調設備はボタン一つで細かな設定が可能ですからそれと比べると細かな温度調整は難しそうです。
細かいところでは建物案内のピクトサインもオリジナルはもっとシンプルだったそう。こちらも利用者さんの声で現在のピクトサインになったようです。
また補修部材の多くが廃版になっており、床のPタイルの補修なども苦労されています。
オリジナルのモダン建築の雰囲気の良さは残していきながら、建物利用者の要望をどの程度反映させていくことができるか課題となっているようです。

今回はパッシブハウスジャパンの高本さんと一緒に見学したのですが、高本さんから”この建物の温熱改修依頼がきたらどうします?”なんて問いかけが!さすがの温熱の専門家です。

コンクリート打放しが特徴の名建築。このコンクリートが熱橋となるのでその対策が難しい。ある程度の熱橋は我慢する、いや、カーテンウォールで覆ってしまう等アイディアが浮かびます。ファイナルアンサーは”ガラスだけは複層にしてコンクリートの熱橋問題は目をつぶる”では専門家として失格?

不思議と建物は使っていないとドンドン傷んできます。室内の空気が停滞すると湿気も停滞してカビ等で建物をむしばんでいきます。
千葉県文化会館は唯一無二の貴重な近代モダン建築。オリジナルの良さを残しながら性能面を改善して、少しでも長く利用されることを願います。

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いま見ても斬新なプレキャスト工法 千葉県立中央図書館

千葉県文化会館と千葉県立中央図書館をケンチク探訪してきました。建物は大高正人の設計。この隣会う二つの建物と千葉県立美術館を総合的に設計されていたようです。

千葉県立中央図書館はDOCOMOMO Japanに選定されている近代モダン建築の一つです。千葉県立中央図書館はDOCOMOMO 096ですね。

 

 

地下2階地上5階建ての建物ですが、隣の千葉県文化会館からアプローチすると敷地に高低差があるのでこの方向からは2階建に見えます。

丁寧に割り付けられたカーテンウォールが繊細で美しいです。
軒が深く張り出しているのでカーテンウォールに陰影が映るのでさらに美しく見えます。

ワッフル状のPCaスラブ。美味しそうなディテール。

持ち出しの梁端部を注意深く観察するとプレキャスト工法で建設されていることに気が付きました。
またエントランスの庇部分も建物本体と同じワッフル状のスラブ材で構成されているのがヒントに。
大高正人の設計とは知っていましたがまさかのプレキャスト工法。当時は目新しい工法だったに違い無いです。

PCa・PC工法とは?
工場で製作された柱・梁などのプレキャスト部材を、プレストレスにより一体化し建築物を構築する工法です。
柱梁接合部を場所打ちコンクリートで施工する場合や、柱を鉄筋コンクリート造にするなど、敷地や工期・コストなどの条件により様々なバリエーションがあります。

株式会社建研さまHPより
2階の閲覧室から隣の文化会館へつながるブリッジ。文化会館と一体に計画されていたんですね。残念ながら通行禁止。

建物内部に入ってみると天井のワッフル状のスラブ材が目に飛び込んできます。
現場打ちのコンクリートと違いプレキャストのコンクリート表面は美しいです。
2階の閲覧室も落ち着いた雰囲気。
閲覧用の机や椅子も当時からの物が使われていました。

ですが設備更新が難しいようで後付けの配管類がいたるところに見えています。
照度も足りないようで照明も追加されていたり、検索用のPC周りも配管だらけ。当時は検索用のPCなどありませんから仕方がないですね。

さらに耐震診断で危険と判断された箇所は立ち入り禁止になっていました。

「千葉県立図書館基本構想案」p23より
平成24年に実施した改修計画事前調査の結果、耐震改修が技術的に難しい
問題を抱えていることが判明しており、他にも改修に伴う工事費の不経済性、建物の
老朽化やバリアフリー不足、書庫不足などの様々な問題点を考慮すると、建物自体の
建替えを最も現実的な選択肢として検討する段階にあると言えます。

残念ながら、この建物の特徴となっているプレキャスト工法が耐震改修を難しくしているようです。
貴重な建築ですが設備の老朽化、耐震性からは目を背けることができません。
ですが、やはり貴重な文化遺産です。保存も検討されることを望みます。

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里山と板倉建築

神社が近くにある里山の一角に、昔ながらの建て方、板倉工法で建てられた建物を見学してきました。板倉工法で建てられた建物を実際に見学するのは初めて。

一般的な在来工法と違う建て方なのだから、きっと住まいや暮らし方もきっと違うはずです。そんなことを考えながらの見学です

伝統工法から進化

板倉工法は柱の間に溝を掘ってそこに厚板を落とし込んで壁をつくる工法です。4寸角の柱と一寸厚の板で基本構造をつくります。柱と柱の間に筋交いや構造合板で耐力を確保する、在来工法や2×4と違い主要構造部には接合用の構造金物をつかわずに、大工さんによる木組みの継手で建てられています。

 

柱と横架材の接合も大工さんの手仕事による仕口に込栓と呼ばれる木製のピンを打ち込んで接合しています。板倉工法は落とし込んだ厚板の室内側がそのまま仕上げとなってくるので、構造と仕上げが一体になった無駄の無い仕組みが魅力的です。

 

 

里山の暮らしを再現する

見学した住宅は土間を中心とした吹き抜けが中心となっていて、丸太を加工した事がわかる太鼓梁や登り梁を見事にくみ上げた小屋組も見応えがありました。在来工法のような定形材を使ったリズミカルな小屋組も美しいですが大工さんの手仕事がわかる小屋組も見応えがあって良いですね。

 

室内建具には一部古い建具が使われていて新築なのにまるで古民家のような雰囲気。土間にはマキストーブ、給湯はマキやペレットを燃やしてお湯を沸かす給湯器が使われています。この建物が建てられているのは里山の一角です。燃料としてマキを調達することができれば、まるで昔ながらの里山の暮らしが実現出来そうです。

国内材の流通をデザインする

また板倉工法の材料は主にスギが使われてます。国内で調達しやすい材料を選んでいるそうです。スギは日本各地で植樹されていて調達のしやすい材料。

ですが安価な輸入材に押されて国産材のスギの需要が低迷。森林の手入れができずに荒れているニュースを見かけます。日本の森林から伐採されて木材となり建物になる。こんなサイクルを取り戻す事ができれば輸入材を減らすことができます。

板倉工法のようにスギ材を有効利用できる工法が一般化して、使用量が増えれば森林の荒廃を食い止める1つの方法になりそうです。

今回の建物は千葉のサンブスギを使って建てられていました。地元の良い材料を集め、大工さんが腕を振るったようです。職人不足で大工さんも減っている建設業界。腕のたつ経験豊富な大工さんも減っていますが、施工会社の石井工業(株)さまは板倉工法のような仕事ができるように様々な取り組みをされているようです。

板倉工法と復興住宅

また板倉は復興用の仮設住宅にも使われています。他工法のプレファブの住宅と比較すると板倉工法では無垢の木が仕上げに使われているので生活をしていると気持ちが安らぐようです。災害時の緊急用の仮設住宅の役目を終えた後も、解体をされて復興住宅として再利用されているようです。このような再利用ができる事も板倉工法の特徴の1つです。

板倉工法は金物を使わないので古民家の改修にも適していそうです。古民家を改修するときも耐力壁の追加が必要になるのですが、古民家のような金物を使わない構造に板倉工法は馴染みそうにです。施工方法の検討が必要ですが機会があれば採用してみたい工法です。

見学会を開催してくださったお施主様、板倉工法を詳しく説明していただいた(株)里山建築研究所さま、施工の石井工業(株)さま、貴重な機会をありがとうございました。

秩父の高性能住宅を体感してきました

秩父パッシブハウスで有名な埼玉の高橋建築(株)さんが開催するオープンハウスに参加してきました。

オープンハウスが開催された建物と遠くに見える名物の断層「ようばけ」

高橋建築(株)の代表高橋さんは数多くの高性能住宅を建てられているので高気密高断熱への知識や経験が豊富です。今回のオープンハウスも今まで高橋さんが積み上げてきたパッシブハウスのノウハウがつまった住まいとなっていました。

当日はクルマで伺ったのですが、遠くから見えてきた建物が秩父の山の稜線や名物の断層「ようばけ」をバックに景観になじんでいます。

これは建物に付属するカーポートも木の外壁できれいにつくられているのがその理由の1つでしょう。アルミのカーポートだとどうしても景観となじまな雰囲気になってしまいます。

当日の外気温は36度。ですが室内に入ると、冷房で急激に冷やされる嫌な感じでは無くジンワリと汗が引いていきます。普通の性能の家だとエアコンに扇風機を追加して身体に当たる風で涼しさを得ることが多いのですが、この建物では身体に風が当たる感覚がほとんど無しで心地良い涼しさを感じます。

高性能住宅では夏になると湿度が上がってしまい蒸した感覚を感じることもあるのですが、そんな感覚も全く感じません。

後日、高橋さんからサーモ画像が送られてきました。2階の室内を撮影した画像ですが青→赤の順で温度が高くなっています。よく見ると天井面が青くなっていますね。天井と壁の隅の部分が一番温度が低くなっていて、まるで冷気のカーテンが降りているようです。しかもエアコンが見えません。この仕組みは高橋さんのblogで!
普通の性能の家の2階天井面は直射日光で温められた屋根の熱で熱くなってしまいます。その熱くなった天井面が室内を温めてしまうのです。ですが、この建物は天井面を冷やすことに成功しています。冷気は暖気と比べると重いので冷気が自然落下してくるので涼しく感じる仕組みになっています。説明するのは簡単ですがこれを実現するのは大変だったみたいです。その苦労話は直接高橋さんへ!

高橋さんはこの建物を設計するときに”ハワイの木陰”を目指したと話されていました。実は高橋さんも私もハワイの木陰を経験したことがないのですがきっとこんな感じに違いないと思います。

屋根勾配が「ようばけ」の勾配とほとんど同じ!

この建物は大きな吹き抜けがあるリビングからの景色が最高に美しく、吹き抜けの東側の窓からは名物の「ようばけ」を観ることができます。

ですが、パッシブハウスの設計では建物の東側の窓は小さめがセオリーとなっていて、この建物ではあえてセオリーに従っていません。

この事を高橋さんにお聞きすると、今回の敷地は東側には化石が発見される有名な断層「ようばけ」が位置しているので、あえてセオリーを無視して、「ようばけ」が見えるように東面に大きな窓を設けたそうです。

設計にあたって、セオリーを守って建物性能の為に暮らしの楽しみを奪ってしまうようなことをせずに、2つの要素を比較検討して、必要ならば建物性能をむやみに追求しないようなバランスを保っているように感じました。これも数多くの高性能住宅を作ってこられた高橋さんならではの技術だと思います。

室内の造作家具や建具も高橋さん自ら造作されているので落ち着いた雰囲気が心地良いです。杉の無垢材でつくられているので経年変化が楽しみな雰囲気です。造作カウンターも厚板の杉の無垢材で造られているので、お客さんも喜ばれるそうです。

”有名ハウスメーカーさんと競合しても大丈夫”と笑って話す高橋さん。建物を体感してみると、高橋さん以外に頼む理由が見つかりません。

一般公開に前日に伺ったので高橋さんはエアコンのセッティングの真っ最中。そんな忙しい中いつもの笑顔で迎えてくださいました。PHJの仲間と言うことで質問にも丁寧に答えていただき感謝しています。

私も高橋さんが目標とされている”木陰のような涼しさ”を目標にしたいと思います。

オープンハウスを開催してくださったお施主さま、高橋建築(株)さま、貴重な機会をありがとうございました。