「目黒本町の家」の内覧会に参加しました

建物は住まい手さんに引き渡される前に行われる内覧会はとても貴重な体験です。建物は体感してみて解ることも多くてとても勉強になります。

今回は「目黒本町の家」の内覧会に参加してきました。
設計・監理は戸田晃建築設計事務所さんです。
戸田さんは、新築の建物に古い建具や建材を上手に組みこんで設計されていて、古い住まいが持っている思い出を上手に引継いでいます。

 

私も古い建具や建材を取り入れますが、現場では大変なことが多いです。古い部材を再利用するために壊さないように丁寧に解体するのはとても大変で大工さんに丁寧に解体をお願いしたりします。どうにか解体したのはいいのですが、解体した部材の保管場所を探したりするのもひと手間です。最後に部材を取り付ける段階になっても苦労が続きます。部材の痛みが激しかったり、反ってしまったりと簡単に取り付けができなかったりと大変なことばかり。工務店さん、大工さんに申し訳がありません。。。でも、そんな苦労を乗り越えて新しい部材の中に古い建具がさりげなく納まっている姿はとても雰囲気が良いと思っています。

さて、「目黒本町の家」では新旧の部材の組み合わせが絶妙でした。また古い部材が張りぼてに見えないような見事な設計で上手に建物に組み込んでいるところが見どころです。各職方さんの仕事も丁寧で息のあった仕事は不思議と見ているこちらがと楽しくなってきます。

また新しい建具類も無垢の木からつくられていて、こちらも経年変化でどんどん美しくなっていくはず。古い物と新しい物の境界がわからなくなっていくのも天然素材を使う楽しみだと私も思います。

 

古い建物の壁材を腰壁として再利用
新しい部材をバックにして古い板壁と障子が生えます
スイッチも雰囲気があります

 

 

 

 

 

 

遊び心もたくさん

 

 

 

 

 

 

 

やはり古い建具や部材は新しい部材にない魅力をもっていて、上手に組み合わせるとさらに魅力を増すことを感じました。その魅力は時間を重ねたきれいな経年変化です。そこには新建材の組み合わせでは決してできない魅力がありますね。ギャップ萌えです。大工さんの手わざも見事なもので、ホントほれぼれしました。

戸田さんとお話しする中でも、新旧を組み合わせるスタイルは苦労することが多いけれども古い部材の魅力は変えるものが無いと話されいたのが印象的で、私も全面的に共感します。

また、この建物はスキップフロアになっていて、建て方も随分苦労したとのこと。プレカット業者さんにもお会いしましたが相当悩んだようです。現場担当の監督さんも笑顔を見せながらの苦労話をしていました。ですが、その笑顔は素晴らしく「目黒本町の家」の出来栄えを象徴しているように思えました。

「目黒本町の家」の住まい手さんは、過去のオープンハウスに参加されて、戸田さんの設計思想に触れ設計が大きく前進したお話を聞きました。住まいが完成するまでは長い時間が必要ですから、住まい手さんと設計者の付き合う時間は必然的に長くなってきます。そんな長い時間を一緒に走り切るには深い部分での共感が大切だと改めて感じます。

「目黒本町の家」のお施主さま、戸田晃建築設計事務所さま、森屋建設株式会社さま、改めて貴重な体験をありがとうございました。

 

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「阿佐ヶ谷書庫」の内覧会に参加しました

「6坪の敷地に一万冊の蔵書と実家にある一族の仏壇がおさまる書庫を設計してください。」
もしあなたが建築家だったら、こんな依頼がきたらどんな設計をしますか?

内覧会に参加することができた「阿佐ヶ谷書庫」は社会経済学者の松原隆一郎さん夫妻がオーナー、建築家の堀部安嗣さんが設計を手がけた建物です。

扉の向こうは別世界

画像 阿佐ヶ谷書庫プロジェクト より

「阿佐ヶ谷書庫」は地上2階建、地下1階の建物。

扉を開けて中に入ると建物の真ん中が円柱の吹抜になっています。

建物3階分の高さの円柱の吹抜内部が全て本棚になっていて、一万冊の蔵書と仏壇がきっちりと納まっています。

吹抜の頂上には円形のトップライトがあり、そこから自然光が降りてきます。吹抜の最下部、建物の一番下に座っても、トップライトからのやわらかい光を感じることができます。井戸の底から見上げた景色はきっとこんな感覚なんだろうなと思うけど、井戸の中より居心地が良いと思います。小さなトップライトから10メートル下まで降り注ぐ自然光を視ていると、太陽光の力強さありがたみを感じます。

本棚の内側にはらせん階段が取りついていて本を手にすることができます。
本の背表紙を眺めなが進んでいくと螺旋状に上下して自分の立ち位置がわからなくなってきます。
加えて平面も円形なので方向もわからなくなります。

しかも本棚に切れ目が無いので永遠に連続するような不思議な感覚です。

1万冊の蔵書と仏壇の関係

画像 ozonestaff blogより

ですが、唯一区切りとなる場所があります。

それは本棚の一部をくり抜くように設置された仏壇です。

内覧会の冒頭、松原先生は”堀部さんが設計した「阿佐ヶ谷書庫」は、一万冊の蔵書が収まった本棚と仏壇で松原家の歴史や記憶を再構築しているようだ”と話されていました。

一万冊の蔵書が連続する本棚のなかで切れ目なく続いているのは、歴史や記憶が続いてることと同じように思えます。
仏壇は暮らしの中でご先祖様を意識する場所。人の死を意識する場所。
歴史の中で時折訪れる人の死。人生の歩みのなかで一度立ち止まる場所です。
本棚の中で区切りとなる仏壇が、「阿佐ヶ谷書庫」で再現された松原家の歴史の中で死を表しているのでしょう。

「阿佐ヶ谷書庫」の中に仏壇があることが大きな意味を持っているように思えます。

アーティスト作品がキラリと光る

貴重な体験がもう一つ、アーティスト前川秀樹さんが制作した像刻にも出会えましたした。
それもそのはず、松原夫人は阿佐ヶ谷のにある器とカフェ”ひねもすのたり”のオーナーさんで、お店にも前川秀樹さんの像刻が飾ってあります。玄関の扉や表札もアーティストが作ったのでは?と感じる仕上がりで、これも松原夫人のアーティスト人脈ならではと思います。

「阿佐ヶ谷書庫」では、前川秀樹さんの像刻は螺旋階段の頂上部にが飾ってありトップライトのやわらかい光の中で見る作品は、ギャラリーで見るときよりも神秘的に感じました。

建物完成後もプロジェクトが続く

「阿佐ヶ谷書庫」の内覧会に参加するにあたって、建物が完成するまでの全過程をまとめた書籍を読みました。
「阿佐ヶ谷書庫」が完成するまでの過程をまとめた物語なのですが、内覧会に参加してみると、その物語がまだまだ続いているように感じました。
今回の内覧会に合わせるように、松原隆一郎さんは祖父の松原頼介さんの生涯を追いかけた頼介伝を出版されました。
住宅は施主の個人的な思いを建物にしたものなのでそれぞれが個性的になります。
”二度と建てることができない建物”というぐらいの個性的な「阿佐ヶ谷書庫」は松原隆一郎さん夫妻、堀部安嗣さんだからこそ建築することができた建物だと強く感じました。そしてまだまだ続いていくプロジェクトのように思えます。

今回の内覧会は「堀部建築建」を体験できるだけでなく、「阿佐ヶ谷書庫」物語の一部に触れる貴重な体験となりました。

前川秀樹さんの像刻作品集です。書影に像刻が映っていないのが残念。
本当に素晴らしい作品です。[amazon_link asins=’4899772564′ template=’ProductGrid’ store=’sachisogo-22′ marketplace=’JP’ link_id=’4efc4151-79bb-11e8-9a0d-d75aa5acfe7d’]

温かい家と「脳年齢」「健康寿命」の関係 -日経アーキテクチャ 2018/06/14号より

省エネ住宅って性能が良いのはわかるけど何が良いのでしょうか。省エネですから エネルギーの使用量が少ない=お財布にやさしい 事はもちろんです。

省エネ住宅は冬の室内が暖かいので健康のためにも良い関係があるようなのです。

今回は日経アーキテクチャ 2018/06/14号 の記事を紹介します。この雑誌は建築の専門誌なので本屋さんでは目にする機会がないと思います。その中の特集記事で省エネ住宅と健康についての内容です。

慶応義塾大学の伊香賀俊治教授と「省エネNext」編集長の小原隆編集長の対談記事になります。

温かい家と「脳年齢」「健康寿命」の関係

伊香賀俊治教授の研究によると住環境の改善が住まい手の健康寿命を左右することが少しずつ解ってきているようなのです。以下記事から抜粋します。

  • 住まい手の死亡件数が冬季に多いのは国別を問わない。
  • 断熱住宅(二重サッシまたは断熱ガラスを備えた住宅)の普及率と冬季の死亡率は関係がある。その割合いは北海道や東北などの外気温が低い地方ほど少ない傾向がある。つまり断熱住宅の普及率が高いほど死亡リスクが低い傾向がみられる。
  • 深夜零時の室温が18℃以上を保つ住宅と18℃未満の住宅では、高血圧の発症率は後者のほうが対象人数ベースで6.7倍
  • 足元の温度が3℃暖かい家に住む人の方が脳年齢が6歳若い状態に匹敵する

なるほど、特に冬の室内温度が大切で、冬に温かい家と「脳年齢」や「健康寿命」に関係性が見えるとのことです。

断熱住宅と死亡率の関係は意外でした。東北に住んでいる人が関東に遊びにくると、”関東の家は寒くて大変”という愚痴をよく聞きますが、寒い家は死亡率も高めてしまう危険があるわけです。

実際、海外では室内の温度の最低基準が決められている国もあるくらい冬の室内温度は健康に重要です。伊香賀俊治教授によると総合的なエビデンスを確立するまでには調査研究が必要なようですが、断熱性能を備えた冬に温かい家が健康に良いことは間違いないです。

断熱リノベーションで健康に

新築住宅や、最近建てられた住宅は断熱住宅であることが多いです。ですが国内の古い住宅では断熱効果が低いものや、断熱材が入っていないものが多いとする調査結果があります。
古い建物では冬の住まいを効率よく温かくするために断熱リフォームが必要になってきます。
寒い冬、無断熱の家で一部屋だけ石油ストーブで暖房をしていては効率が悪いですし、お風呂やトイレでの温度差も気になります。
一人暮らしになってしまったご両親にセコムが安心だけど、健康のためにも暖かい住まいになるように断熱リノベーションを計画してみたらいかがでしょうか?
断熱リノベーションは暮らし方や予算に合わせて計画することができます。
家全体を断熱する大規模なものかから、生活する部分を想定して断熱する「ゾーン断熱」まであります。

長生きのために生活習慣、食事習慣を改善する指導もあるけれど、住まいの改善指導ができる時代がやってきて欲しいです。

健康になる食事についてはこの本が参考になりました

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持続可能な木造建築とは? ヘルマン・カウフマン氏講演会

木造建築でここまで出来る驚きがありました

先日、建築家ヘルマン・カウフマン氏の講演会に参加してきました。

建築実務者としても向上心を抱くこともできた素晴らしい講演でしたので、自分にとっての忘備録としても残しておきたいと思います。

Big セミナー2018 「持続可能な省エネ・木造建築自然と調和する建築デザイン」

フォアアールベルク州の建築システムとプレファブ技術

講演内容はカウフマン氏の実例からの紹介がメイン。どの実例も素晴らしい建築でした。シンプルなデザインですがそれを実現する納まり、ディテールが丁寧に練られています。

また、フォーアベルク州の建設システムがカウフマン氏設計のプレファブシステム木造建築を建設可能にしているようです。日本のプレカットとは違う、大型パネルを制作できる仕組みです。紹介された映像からは、屋根のついた工場で温かい環境でビルダーさんが作業をしている様子が紹介されてました。

シンプルで美しいデザインと経年変化の価値

カウフマン氏の建築のデザインはとてもシンプル。表面を化粧材で仕上げることなく木材、ガラスなどを素材そのままにあらわしています。木部も特に塗装をしていないようです。

このため建物全体が自然の色合いのままでとても美しいと感じます。また使用する建材を素材・形についても極限まで絞り込んでいるので、余分な線がほとんど無いシンプルなデザインになり建築全体の美しさを際立てます。

ディテールがアップになっても美しく、さらに徹底したプレファブ工法がその美しさをさらに高めているようです。落ち着いた作業環境で作業の精度が高まり、さらに設計が極限まで精度を高める好循環が働いているように思えます。

オーストリアの美しい景観に建てられてる建築のどれもが景観に見事に溶け込んでいるようにみえます。日本でも景観保護で外装の色が決められている地域もありますが、それともまた違う雰囲気。コンビニとかガソリンスタンドの看板がブラウンに塗られているあの景色。シルバーグレーに変色した外壁が山間部の岩肌になじんでいる様子は一味違う雰囲気。その理由の一つとして部材への経年変化への意識がありそう。

日本では完成直後の美しさを求めてしまいがちですが、経年変化によって色あせていく事を良しとしているようなのです。外壁仕上げの無垢の木材にも、表面に塗装仕上げをしていないのです。ですから年月が経つと木材がシルバーグレーに変色しますがそれを良しとしています。この点はカウフマン氏だけでなくフォーアベルク州全体でのデザインコードへの認識のようでした。

設備を裏方に徹し、建築の美しさを引き立てる

もう一つの特徴は、設備の設計です。空調等の設備類は裏方として緻密に隠されて表にはほとんど現れません。これは、建築の美しさを最大限に保つための設計思想です。

実例では相当規模な設備システムを必要としていましたが建物内部の見える部分ではその存在を感じません。このような設備面などの工夫が、さらに建物をシンプルに美しく見せているようです。

持続可能な木造建築とパッシブハウスレベルの高性能

建物性能についてもエネルギー消費量を少なくする設計で、パッシブハウスレベルの高性能なものです。公共建築においてもトリプルサッシが使われていて一次エネルギの削減に効果を上げているようです。

*パッシブハウスレベルとは、ざっくりですが窓ガラスがトリプルガラス、断熱材の厚みが30センチ位のレベルです。

 

こちらのパンフレットは「フォーアールベルク州における持続可能な建築」の日本語翻訳版 です。 Dotプロジェクトさんが会場で販売してくれました。 フォーアベルク州の取り組みが詳しく紹介されているので今回の公演内容をさらに理解できる内容でした。¥500で販売されています。

地域材とプレファブ建築の未来

またフォーアベルク州の建築は、工務店や大工さんと共働して地域活性に取り組み効果を上げている点も見逃せません。

プレファブ工法も建築家と工務店・大工さんなどの職工さんとの共働によるもので、工事の精度・工期の短縮・作業環境の安全など全ての面で成果を上げています。

フォーアベルク州の建築が、住まいとしての成果をあげるのはもちろんですが、地域経済を牽引していく一つの原動力になることはとても望ましい事だと思います。

日本でもできる事がある

現在、私達がとり組んでいる高断熱・高気密の住まい作りを積極的に進めていく事はもちろんですが、性能を少しでも高めるためにも工務店・大工さんなどの職工さんと一緒に知識や理解を深める勉強が必要になってきます。

また千葉県はフォーアベルク州と同じような豊かな山林があります。先日もBlog記事でスギ材の良さを紹介したばかりですが、千葉県はスギの産地では有名ですのでスギ材を積極的に活用してその良さを広めていきたいところです。まず、私にできることは情報を発信することですね。

『DETAIL JAPAN』2008年8月号との出会い

”ヘルマン・カウフマン”をキーワードにしてカウフマン氏について調べていた際に偶然手元にあった『DETAIL JAPAN』2008年8月号に彼の建築が特集されていたことに気づきました。10年前の私は、その記事を読んだものの、内容を深く理解することはできませんでした。

しかし、2018年の講演会に参加し、実際のプロジェクトや技術的な解説を聞くことで、ようやくその一部を実感できるようになりました。カウフマン氏の建築が「デザイン」だけでなく、「プレファブ技術」や「持続可能な地域材の活用」を含むシステムとして機能していることが明確になりました。

カウフマン氏が中心となってフォーアベルク州では木造建築が地域をけん引しています。同じように日本では豊かな森林があり木造建築が作られています。一朝一夕ではカウフマン氏のような、フォーアベルク州の活動はできないと思います。

ですが木造建築の可能性がまだまだ広がっていることに気が付くことができました。その技術を住まいづくりに還元していけば10年後に何か変わっているはずです。

このように、一つのテーマを時間をかけて理解していくことは、建築実務者にとって重要なプロセスであると改めて感じています。

10年後の木造建築の未来へ

木造建築の未来は、単なる設計や技術革新だけでなく、地域の資源を活かしながら、持続可能な仕組みを築くことが鍵となります。カウフマン氏の建築哲学が示すように、地域材・プレファブ技術・エネルギー効率の向上を掛け合わせることで、よりよい未来を創ることができるでしょう。

10年後、日本の木造建築がどのように進化しているのか。その可能性を探りながら、引き続き学び、実践していきたいと思います。


 

関連本記事の内容は2018年時点のものですが、関連する新しい情報として以下のリンクを追加しました。記事・参考リンク(2024年追記)

Facebook投稿: モック工場のプレファブ実践

プレファブシステムの実践:モック千葉工場での経験とサンブ杉の可能性

千葉県の地域材活用の可能性:千葉県産サンブスギを活かした住まいづくり

断熱リフォームで温かい住まいへ:窓の交換

冬の室内を暖かく保つ断熱リフォーム

リフォームは間取りを新しくして暮らしやすくするだけでなく、断熱の方法を工夫して断熱性能を高め、冬場の室内を暖かくして暮らしやすくすることもできます。

断熱リフォームは住まいに合わせ工事内容が異なるのですが、共通して重要なポイントは窓の性能向上です。

窓の断熱方法

ウレタン発泡工法による窓枠のカットサンプル。新規サッシは栗原さんの樹脂サッシ、k-window

窓の断熱にはいくつかの方法があります。たとえば、ハニカムスクリーンの取り付け、内窓の追加、または断熱サッシへの交換などです。特に断熱サッシへの交換は最も効果的ですが、方法やコストを考慮する必要があります。

今回は、窓交換の新しい工法の見学会に参加しましたので、その内容をブログにまとめてご紹介します。

見学会の開催:有限会社佐藤工務店

見学会を開催してくださったのは有限会社佐藤工務店さんです。この度は貴重な実例を公開していただきありがとうございました。

有限会社佐藤工務店

築40年の鉄骨造建物(外壁はALC)の事務所を断熱改修する計画が以前からあったそうですが、適切な工法が見つからず実行できなかったとのこと。私も鉄骨造建物での窓改修に関心があり、参加を決めました。

私も古い建物に価値を見出し、リフォームによって再利用することの重要性を感じています。築40年の建物を断熱改修する姿勢に共感を覚え、見学会への参加を決めた理由のひとつです。

新しい断熱リフォームの方法:ウレタン発砲工法

ウレタン発泡工法の施工状況

今回紹介された窓交換の新工法は、ウレタン発砲工法です。写真にあるように、古いサッシの内側に断熱サッシ(白いサッシ)を取り付け、発泡ウレタンを使って固定します。
新しいサッシの固定方法として発砲ウレタンを使っています。新しい白いサッシの外側に発泡したウレタンが見えています。このウレタンで白いサッシを固定しています
。ウレタンが古いサッシと断熱サッシの隙間にしっかりと充填されているため、強固に固定されます。

また固定方法がウレタンを充填するだけですから、この発泡工法により、従来の工法よりも工期を短縮できる可能性があります。

【発泡工法】【RAKUE】この発泡工法「RAKUE」を提供しているのは、株式会社BACです。株式会社BAC

外壁断熱工法:既存の外壁を活かした外断熱

外断熱の上に直接施工する「ビオシェル」工法の予定

また壁の断熱には、既存の外壁に断熱材を張る「外断熱」工法が採用されています。この工法では、ポリスチレンを原料としたポリスチレンフォーム材が断熱材として使用されました。

仕上げには、ホタテの貝殻を用いた左官仕上げの材料が使われるそうで、既存の外壁を壊さずに断熱性能を高めることができます。既存の外壁を壊すことなく断熱改修することができるのは、コスト面と雨による湿気対策として魅力がありますね。

この「ビオシェル」工法を提供しているのは、あいもり株式会社です。 あいもり株式会社 

断熱リフォームの効果


断熱リフォームの完了後は、建物全体の性能が向上し、室内の温熱環境がさらに快適になることが期待できます。

この度は貴重な機会をありがとうございました。

ウレタン発砲工法の開発背景:沖縄の厳しい気象条件

今回、ウレタン発砲工法の考案者である饒平名(よへな)さんに、工法開発の背景を伺うことができました。私は特に「なぜ沖縄でこの工法が考案されたのか?」に興味があり、質問しました。
沖縄は、勢力の強い台風が何度も上陸するため、建物が頻繁に痛む環境です。特に窓ガラスの痛みが激しく、 そして傷んだ窓ガラスを交換していつ最中に次の台風が来てしまうと大変なことになってしまいます。 そこで開発された工法が発泡工法だそうです。
沖縄の厳しい気象条件の中、性能を確保しながら素早い施工を目指した工法が、断熱改修に活用されている事に、改めて興味を抱きました。

素足で心地よく暮らすために:杉の無垢材が生み出す快適な住まい

天気予報では、あと数日で梅雨入りになるようです。

梅雨入り前のこの短い期間、今日のような晴天が気温も湿度も丁度良く快適に過ごせます。この時期がもう少し長く続いて欲しいですね!

素足で過ごす快適さと住まいの関係

こちらの床材はパイン材です

住まいの中で室温が安定してくると、素足で過ごすのはとても気持ちが良いです。

忙しい日常の中でも素足で過ごしていると季節にも敏感になるように思えます。

気持ちよく素足で暮らすためには、木材の無垢板材をお薦めしたいです。

そのためにもある程度の厚みのある無垢板材が大切で、木材の表面がカチカチに塗装されたフローリングパネルではその気持ち良さを感じ事ができません。

無垢材がもたらす心地よい温もり

パイン、オーク、ナラなど沢山の樹種の中でも、特に杉の無垢板は他の木材と比べ柔らかい材料なので素足で歩くと気持ちが良いです。

なぜ心地が良いと感じるのかにも理由があります。

杉の無垢材の特長——やわらかく温かみのある素材

肌で触れてもぬくもりを感じて気持ちが良い。特に寒い時期はこれを感じます。

木材を顕微鏡で拡大すると、導管と呼ばれるパイプ状になった細胞が束ねられた状態になっています。パイプ状の細胞の内側には熱を伝えにくい空気で満たされているので熱を伝えにくくなっています。

ですから直接木材に手を触れても体温を奪われる事が無く、心地良いと感じるわけです。

クッション性と快適性——杉材ならではの歩きやすさ

パイプ状の細胞がクッションの役割もするのでコンクリートの床等堅い床材と比較すると疲れにくいように思われます。

このことは革靴で歩いているよりもソールが柔らかいスニーカーのほうが歩いていて疲れないないと同じですね。

無垢材の傷と向き合う——メンテナンスと経年美化

施工中の杉無垢板です。白身を中心に薄めの赤身を集めて施工した部分です。全体的に薄いピンクに見えとてもきれいですね。

特にお子さんが小さいととても気になりますね。事実、杉の無垢板では小さな物を落としただけでも傷が付きます。スマホを落としたら確実に傷がつきます。大工さんも”小さな道具一つ落としただけでも傷が付くから気を遣うよ”といっていました。

ですが小さなへこみ程度の傷ならば簡単に復活させる事も可能なのです。やり方は簡単。雑巾を堅く絞って傷の部分にあて、その上から軽くアイロンをかけるだけなのです。やってみると意外と楽しく、天気が良くて気持ちに余裕のある日に作業するとリフレッシュに良いと思います!

*木材の細胞が切れてしまった深い傷は修復できません

家族の時間が刻まれる——無垢材が育む思い出

上の写真の約2年後です。数年たつとこのような風合いになります。全体的に日に焼けて色の差も気にならなくなります。細かい傷もありますが良い雰囲気だと感じます。

もう一つは欠点を良い点だと考えることもできます。それは小さな傷を欠点だと思わずに、経年変化、味わいが出たと考えることです。

真っさらな傷一つない床板も綺麗で素敵だと思います。

ですが丁寧に使っていても付いてしまった傷は家族にとっての思い出にもなります。

  • 子どもがランドセルを置いていた場所はベルトの金具で細かい傷が付きます。小学校の時の思い出になります。
  • うっかりスマホ落としてしまった場所は戻らないへこみ傷が残っています。その時、何をしていたか覚えているかもしれません。
  • 子どもが座るテレビ前の定位置はなんとなく手足の脂で光っています。今はスマホゲームばかりでテレビも観なくなったな。等など…

その時その時の傷が、住まいの中で家族が過ごしていた成長の記録になります。

持続可能な木造建築としての杉材の魅力

住まいづくりで使う天然素材には全て同じ事が言えます。傷がついてしまったり経年変化で色が変わってしまったり。

でも無垢板を触った時、心地良いと思う感覚があるのならば何ものにも代えがたいと思います。

完成したときが一番綺麗なのでは無く、経年変化を経て深みをました時が綺麗だと感じる物を選びたいですね。

五月晴れと太陽光発電

5月も終わりになってしましまいますが、5月はもっとも過ごしやすい月だと思います。五月晴れは本当に気持ちが良いです。今年は夏日になる日が何度かありましたが、5月の爽やかな風は本当に心地良いものです。

子育て世代にとって大きなイベントの一つに運動会があります。小中学校の運動会が残暑の残る9月開催から5月開催に変わってきているのも子ども達、見学に行く親にとっても有難いです。私の住む地域では5月開催だったので本当に助かりました!

5月は、他の月と比較すると日射量も多く、平均気温が20℃以下、湿度も低く心地良く感じる条件が揃っています。

 

日射量の多い月は?

5月は人間にとって過ごしやすい月ですが、太陽光発電にとっても良い月なのです。

1年の中で太陽光の売電量は5月が一番なのです。

多くの人が5月は日差しが多いと感じていると思いますが、事実、太陽からの全天日射量は8月が多く、並んで5月も多いのです。太陽光発電は日射量に応じて発電量が増加するので、8月と5月の太陽光発電量が同じぐらいになってきます。

太陽光発電の設置で配慮するところ

ちなみに太陽光発電に大きく影響を与えるのは方位です。

  • 真南の向きに設置した場合を100%とすると、東西は85%程度、北は67%程度になります。*屋根の角度30の場合°
  • 傾斜角については水平面から30°程度で最も効率が高くなりますが10°から40°まではほとんど差がありません。

なので、屋根に設置する太陽光発電は方位さえ気にすれば屋根勾配は特別な配慮が必要無いとも言えます。

売電量の多い月は

ですから売電量については5月と8月の売電価格を比較すると、8月は猛暑と湿気によってエアコンがフル稼働するので、ほとんどエアコンを使用しない5月の売電量が一番になるのです。

もう一つ、8月の猛暑は身体にこたえますが太陽光発電も厳しい条件のようです。

梅雨明けの7月から8月の気温の高さと湿度を思い出すだけでもイヤになってきますが、太陽光発電装置の一つ、パワーコンディショナーも高温によって効率が落ちるので8月は厳しい月のようです。

5月は私達にとって快適に過ごせる月ですが、同じように太陽光発電にとっても過ごしやすい(発電しやすい)月と言えそうです。

もうすぐ5月も終わります。沖縄からは梅雨入りの声も聞こえてきました。その前に残り少ない五月晴れを楽しみたいですね!

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バタフライスツール60周年企画展:カタチの原点 柳宗理

バタフライスツールが発表され、2016年で60周年とのこと。企画展も巡回で開催されています。

私もバラフライスツールが好きなので建物の撮影時にインテリアとして持ち込む事があります。ひと目みればバタフライスツールとわかるそのデザイン。

私はバタフライスツールをみると、鳥居や「天」の形を連想します。その連想の為か、なんとなく神々しいものを感じ、空間がバタフライスツールに負けてしまいそうです。押しが強いデザインともいえますね。

 

バタフライスツールの構造を考える

構造はとてもシンプル。2枚の成形合板を金具一本でつないでいるだけなのです。

この構造が無ければバタフライスツールが存在しない、ユニークなデザインと表裏一体になっているところが魅力的です。

バタフライスツールをながめていると、“一体、どうすればこんなデザインを発想できるのだろう?”と本当に不思議に思います。一般的なスツールの形、座面と脚の関係なんてどこにもありません。

 

手遊びから生まれたデザイン

60周年企画展ではバタフライスツールのアイディアの原点となった模型が置いてありました。

柳宗理さんも「こんなイスを作ろう」と言う考えからではなく、紙を切ったり、折ったり、曲げたりしているうちにバタフライスツールの形を発想したそうです。

たしかに紙一枚に折り目を一ヶ所いれるだけで紙が立つのですが、これを応用してバタフライスツールになるなんて驚きの発想です。

 

柳宗理 デザインへの姿勢:手を動かす大切さ

こんな発想も普段の柳宗理さんの仕事に向き合う姿勢から生まれたようです。

柳宗理さんのスタジオでは常に原寸のモックアップを作ってデザインの検討をしていたのとのことです。

頭の中でデザインを思い描くのでは無く、手を動かしてデザインを積み上げていく作業だったのでしょう。

私は仕事ではパソコンを使った作業が多く、作業に埋もれて目標を見失うことがありがちです。そんな時にはパソコンから離れ手を動かし、目標を再設定します。すると時には新しいアイディアを思いついたりします。手を動かすことはやはり大切なことです。

あらためて柳宗理さんのバラフライスツールのような、デザインと構造が表裏一体となった発想に憧れます。

建物の設計ではデザインと構造、さらに温熱環境が加わります。

その三要素が表裏一体となった設計を心がけ、バラフライスツールのような無駄の無い建物を提案できるようにこころがけていきます。

鳥の目でみると

クリックするとコマ送りで動きます

さんむの家の撮影では建物外観を上から撮影することができました。

通常、建物を上方から撮影する機会はほとんどありません。ドローンや高所作業車を使用すれば撮影できますが、大変です。

またとないチャンスです。

カメラマンの花澤さんに相談してみると ”おもしろそうですね!” と良い感触です。色々相談し、ミニチュアジオラマ風に撮影をお願いしました。

結局、撮影日が一日増えてしまったりと色々と面倒な事をおかけしましたが仕上がりは予想通りです。記念写真のような、かしこまった雰囲気では無く、ちょっと不思議な写真を撮影することができました。

さらに、この画像を編集してみると、なんとコマ送りの動画が完成。コマ送りの効果もあってか、さらに現実感が希薄になって本物のミニチュアのようです。

設計するときは建物が街の中でどのように見えるのか色々と想像を膨らますのですが、鳥の目線まで想像を上げる事は少ないので貴重な写真です。

今回はカメラマンの花澤さんの協力があって、面白い写真を撮影することができました。改めてコミュケーションとコラボレーションの大切さを実感しています。良い撮影ができて感謝しています。

グリコのおまけのような、ちっちゃいけど楽しいご褒美でした!

 

 

 

 

 

 

さんむの家改修工事 お引き渡しをしました

さんむの家のお引渡しをしてから数ヶ月がたちました。

お施主さまが新しい建物での暮らしにもなじんでこられたようで、一安心をしています。

この記事の画像全て 撮影: 花澤一欽

さんむの家は築40年の住宅をリノベーションした住宅になります。

お施主様はいくつかの選択肢の中から、築40年の住宅をリノベーションすることを選択されました。

私達は、古い物を大切にして継承する価値観に共感し、設計監理をしてきました。

記憶も継承する

設計を始める前に、基本方針として古い部材を積極的に活用することを決めました。

そのためには、建物を新しい部材で覆い被せ新築のようにするのでは無く、古い部材、柱、梁を現しにする、また再利用して活かしたいと考えました。

そうすることにより物質的に家を継承するだけでは無く、新しい暮らしの中でも、古い部材を目にした時に、古い建物で起きたことを思い出し、記憶をも継承して行くことが出来ます。

さらに、デザイン的に古い部材を活用するだけでは無く、新しい技術も取りいれ、地震に強く、居心地の良い住宅を目指しています。

新旧交ざり合うような材料

新しく使用する材料については、月日を重ねることにより風合いが増すような材料を選んでいます。いわゆる天然素材、工業部材と呼ばれる材料です。

建物が5年、10年と月日を重ね、古い部材と今回修繕した部材が一緒に古びていき、区別が付かなくなる事を期待しています。

外観はさりげなく

建物の外観は大きな変化を加える事無く、軒の出、窓の大きさ等を微調整する程度にしています。

外壁はガルバリウム鋼板の小波板を貼ったのですが、ご近所様からは“ブリキ板を貼って大丈夫かい?”と聞かれたことがあるそうです。

一見、簡素な素材ですが耐候性に問題ありませんからご心配なくとお答えしました。

 

実は、建物正面から見ても気がつかないのですが、2階の屋根には太陽光発電パネルが載っています。

こちらの太陽光パネルは発電パネルでありながら屋根部材も兼ねているので見た目をスッキリ納めることができました。

お引き渡しをしてから数ヶ月たちましたがシミュレーション結果と同等の発電をしているようです。

発電量を示すモニターも解り易く、天気の良い日は発電していることを知らせてくれるモニターを見るのが楽しみとのことです。

建物の暑さ寒さについて

最後に、建物の温熱性能についてです。外皮性能はUa値 が0.57 実測C値が2.5です。

外皮性能については2020年の省エネ義務化基準が0.87ですから、それ以上、HEAT20 G1基準の 0.56手前の性能となります。

結果についてですが、今となってはもう少し頑張ることが出来たと考えています。

この建物は、平成27年度の住宅省エネリノベーション補助金を取得する事を前提としてスタートしました。

恥ずかしながら、当時の私は仕様規定を満足するだけで精一杯でした。現在は色々と勉強を重ねた結果、外皮性能については改善したい所があるのが正直なところです。

しかしながら、古い建物では電気ヒーターを使っていた水回りも1月現在では不必要とのこと。朝になっても夜の暖かさが残っているようです。

冷暖房はルームエアコンを使用していますが、古い建物と比較すると全室が暖かいとのことです。

まだまだ寒い日が続きますし、夏はまだ未体験ですが、色々と調整をして住みやすい環境、快適な暮らし方のお手伝いをして行きたいと思います。

施工に関しては(株)進和建築様に大変お世話になりました。新築とは違う、手間のかかる仕事を丁寧に工事していただきありがとうございました。

HPにも事例集としてアップしました。

建築事例集 さんむの家