私たちが考える、自然と共生する設計の基本

自然と共生する設計は、単に「エコ」や「環境にやさしい」という言葉だけでは語り尽くせません。
私たちは、自然エネルギーを最大限に活かし、住む人の快適さと建物の持続可能性を両立させることを目指しています。その中でも特に注目しているのが、「日射取得」 の工夫です。


日射取得のための窓の配置を考える

建物を設計する際、まず重要になるのが、敷地の日影を考慮したシミュレーションです。
このプロセスでは、太陽の動きを観察し、日射の角度や季節ごとの変化を検討します。そして、太陽光が効率よく差し込む窓の位置を慎重に決定します。

たとえば、周囲を建物に囲まれた敷地では、日射が届くポイントが限られることがあります。このような場合、ピンポイントで「日射取得」を確保する工夫が求められます。窓を設置する壁面の位置が建物全体の性能を左右するため、シミュレーションの結果をもとに、最適な配置を導き出します。


窓の役割はそれだけではありません

窓には日射取得の役割だけでなく、建築基準法を満たすための採光や換気を確保するという重要な機能もあります。
そのため、窓の配置を考える際には、自然エネルギーの活用と法規上の要件を同時に満たすことが必要です。これを実現するためには、設計者の技術と工夫が求められます。


自然の力を最大限に活かすために

自然と共生する設計は、単なるデザインの工夫や高性能な設備に頼るだけではなく、精密なシミュレーションを活用した自然エネルギーの利用が鍵となります。
今回ご紹介した日射取得を意識した窓の配置は、その一つの具体例です。
建物が自然と調和することで、住む人にとって快適で、環境にも配慮した住まいが実現します。

厳しい規制の中で生まれる創造性:カウフマン建築が教えること

先日投稿しました建築家ヘルマンカウフマン氏の講演会の続きになります。
今回の記事では、竹中工務店との協力による日本の施工現場での実践例に注目しました。

一方、前回の記事では、ウッドステーションやモックの技術進化について触れています。それらの技術が背景にあることで、本記事で取り上げるパッシブタウン第5期街区の事例にも、さらに深い意義が生まれています。


(※前回の講演記事はこちら

施工技術と設計哲学:パッシブタウン第5期街区

 YKK不動産が推進する「パッシブタウン」プロジェクトの最終街区が公開されました。このプロジェクトは、富山県産材を87%使用し、脱炭素建築を目指しています。RCコア構造により地震力を軽減し、耐火性を備えた木質ハイブリッド構造が特徴。Power to Gas技術やプレファブ工法の活用による効率的な省エネ設計が、持続可能な社会への一歩として注目されています。 

記事のリンクはこちらから

木質ハイブリッド構造でつくる最先端の脱炭素建築(※日経クロステックより要約)」

YKK Passivetown, Kurobe Hermann Kaufmann + Partner ZT GmbHより


環境と技術の最適解を求めて

カウフマン氏の日本の地震に対する法規や消防法への対応は、非常に大変だったとのことでした。(通訳の方が訳した「消防法」という言葉は、おそらく「防火規定」を指しているのでしょう)

講演中にカウフマン氏の基本図面と実施図面を比較する機会がありました。センターコアの占める割合や厚さ、カーテンウォールの厚さなどが大きく異なり、これらを比較することで、日本の規制が建築デザインに与える影響を具体的に理解することができました。またオーストリアのフォアアールベルク州にあるLifeCycle Tower (LCT ONE)との比較も行われ、コア(LCT ONEでは片側偏心コアでしたが)の割合の違いは一目瞭然でした。


カウフマン氏の設計では、スラブの薄さやカーテンウォールの軽やかさがとても魅力的ですが、日本の厳しい耐震・防火規定により、設計の見直しが必要となりました。その中で、竹中工務店と協力し、RCコアを増強しつつも木材の活用を最大限に引き出したハイブリッド構造という革新的な解決策が生まれました。


建築設計において、与えられた条件の中で最適解を導き出すプロセスは、単なる制約への対応ではなく、新たな価値を創造する機会となります。このパッシブタウン第5期街区プロジェクトは、まさにその典型例といえるでしょう。このような厳しい制約の中から、新しいアイディアを生み出している姿勢がとても印象的でした。


施工中の雨とプレファブ工法の役割

また、カウフマン氏は講演では、施工中の雨による木材の濡れを極力避けることの重要性についても触れていました。木材は湿気を含むことで品質が低下する可能性があるため、建材の搬入スケジュールや現場の雨対策が設計と同じくらい重要だと強調しています。

オーストリアと比較し、『施工途中で雨が降っても雨漏りしない』という竹中工務店の施工技術を高く評価していました。この点は、日本の施工現場における優れた管理体制と技術力を象徴していると言えます。日本の施工現場では、雨のリスクを避ける工夫が投稿などで話題になるように、雨対策は日本の施工現場において、重要な管理項目の一つです。日本の施工体制の素晴らしいポイントの一つです。

迅速施工を実現するため採用されたプレファブ工法には、木材を湿気から守りながら作業効率を上げるという、カウフマン氏の哲学が反映されています。

持続可能な技術としての可能性


カウフマン氏の設計は、シンプルなデザインと精緻なディテールなど、その意匠面に注目が集まりがちです。ですが、その設計を実現するために、直面した条件から逃げず、粘り強く問題解決を重ねるカウフマン氏の姿勢に強い印象を受けました。

竹中工務店の雨対策や迅速施工の技術は、プレファブ工法の可能性をさらに広げ、日本独自の建築価値をさらに深化させました。また、カウフマン氏が示した厳しい規制の中で創造性を発揮する設計哲学は、私たちの未来の建築を導く重要な示唆に満ちています。この技術の進化は、単なる効率化ではなく、持続可能な社会に向けた新しい価値創造の一環です。こうした建築の可能性を、私たちの生活や環境にどのように活用できるのか、一緒に考え続けたいと思います。

前回の記事はこちらからどうぞ

パッシブハウス認定と断熱性能の試行錯誤、北海道建築探訪 | 幸総合設計

パッシブハウス認定に向けた挑戦

パッシブハウス認定を目指して、ヒートブリッジやインストールψの解析に取り組んでいます。これはパッシブ設計における重要な要素であり、特に日本の寒冷地での性能を左右するものです。

案件が保留となり多少の時間ができたため、この機会に解析をマスターしようと考えていましたが、先輩コンサルの経験を追体験しているようで、その道の険しさを実感しています。

解析の試行錯誤

ソフトの習熟には時間がかかるタイプなので、解析作業にも多くの試行錯誤がありました。肝心なポイントを見逃して最初からやり直すこともあり、時間だけが過ぎていく日も多々ありました。それでも、パッシブハウス認定に求められるヒートブリッジやインストールψの解析は非常に重要な要素なので、粘り強く取り組んでいきたいと思っています。ソフトの習熟に時間がかかるタイプなので、ソフトの習熟だけでも精一杯。肝となるポイントを見逃して最初からなんて事も数回。時間ばかりが過ぎていくなんて日が多かったです。


北海道での建築探訪と温熱環境の発見

2月の後半は家族と一緒に冬の北海道へ。旅の中盤には寒波に見舞われ、冬の北海道の厳しさを味わいましたが、それでも楽しい旅となりました。

家族との旅行でしたので、建築オタク旅とはなりませんでしたが、外気温がマイナスでも建物内は半袖でも過ごせるような暖かい北海道仕様ならでは 名物 ”おうちアイス” も経験!
愛車の95プラドで峠を越えながら、旧いクルマを大切に使い続けることの楽しさも感じつつ、ゴールデンレトリーバーのテンテンとも一緒に網走で氷点下の散歩を楽しみました。寒さの中でも堂々と歩くテンテンの姿は頼もしい限りです。

雪煙でバックドアが真っ白。さらに過酷な雪道に…
愛車の95プラドで峠を越えます。旧いクルマを大切に乗ってます。4輪駆動車でも緊張の峠越えでした。
-6でも平気なワンコと凍える私
網走の能取湖湖畔をゴールデンレトリーバーのテンテンとお散歩。氷点下5度でも平気そうでした。

北海道の建築と温熱環境に関する発見

以下は北海道での建築や温熱環境に関する印象的なポイントです:

・樹脂サッシとペアガラス:樹脂サッシのペアガラスが一般的で、トリプルガラスはあまり見かけませんでした。特にYKKの製品が多かったように感じます。

・リノベーション物件:樹脂サッシ+ペアガラスの二重サッシが多く、旧い木製引戸や単板ガラスと組み合わせ、レトロな雰囲気を残しながら断熱性能も上げているのが見事な演出。少し室温が下がるものの、適材適所と感じられる工夫がなされていました。

・賃貸アパート:賃貸でも樹脂サッシ+ペアガラスが標準で、FIX窓とすべり出し窓の組み合わせが多く見られました。バルコニーや引違いの掃き出し窓は無く、暖房はFF式ストーブ(灯油)が主流です。

・非住宅の施設:パネルコンベクター(コロナ製)が多く使用され、網走の旅館でもFF式ストーブが採用されていました。また、宿泊施設では夏用のエアコンが設置されているものの、冬は使用されていません。

・パネルヒーターの快適さ:湿度コントロールがどのように行われているかは不明ですが、パネルヒーターによる室内環境は非常に快適でした。

北海道の建築探訪は、関東とは異なる熱源やサッシの設計を見るだけで十分に興味深く、温熱環境の違いを実感しました。

北海道の建築と温熱環境に関する発見

実際に北海道を旅してみて、書籍や講座で聞いた設計手段や設備について、体感することで少しずつ腑に落ちてきた気がします。「百聞は一見に如かず」とはこのことでしょうか。

この経験をさらに深めるため、次回は「ミライの住宅さん」主催の北海道断熱修行の旅にも参加を検討しています。より深く北海道の断熱技術を学び、自身の設計に活かしていきたいと思います。

パッシブハウスジャパン全国大会2023:発表の舞台裏

2023年11月16日に開催されたパッシブハウスジャパン全国大会2023で、実例報告として発表する機会をいただきました。壇上での発表は貴重な経験であり、今後同じような機会があるかどうかわからないため、特別な思い出となりました。

左から 池田組の池田さん 森代表 当日登壇したFabWorksの中さん 発表が終わって安堵する私

発表内容:NOIL新築工事の事例報告

発表では、現在進行中のプロジェクトNOIL新築工事についてご紹介しました。このプロジェクトは、ローエナジービルディング認定を目指す建築であり、私は解析チームの一員として、また池田組の池田さんは施工者代表として、二人で登壇しました。

発表当日の朝には、最新の現場写真への差し替えやDesignPHのリアル操作などもあり、緊張がピークに。しかし、出来栄えはともかく、無事に発表を終えることができました。

外部開口部の解析:高性能化への挑戦

このプロジェクトでは、外部開口部の性能と耐久性向上に力を入れました。

意匠設計→施工図作成→解析のフローを数回繰り返し、解析を重ねた結果、納得のいく仕様を実現しました。

外部開口部の解析では、Certified PH Consultantの高岡利香さんが多大な努力をしてくださいました。

また、外部開口部は山崎屋木工さんのキュレーショナー、木製サッシ+トリプルガラス仕様の高性能仕様となっています。ZEB認定の建物なのに、窓周辺に座ると何となく肌寒いということがあるのですが、本物件では快適に過ごすことが出来るはずです。

PHPPとDesignPHの活用

NOIL新築工事は非住宅の建物なのですがPHPP+DesingPHで性能を解析することが可能です。

DesignPHとは?

プレゼン中の画面に赤く塗られた建物が映っていましたが、これはDesingPHで解析した結果になります。赤く塗られた部分は断熱の外側になっていて、このデータをPHPPに読み込んで計算することができます。

PHPPのメリットと課題

PHPPは工法や建材を問わずに解析できる柔軟性が魅力です。悪い面は特に無いと思いますが、あえて言うならば国産ソフトと比較すると操作方法がアナログなことでしょうか。

厳しい環境下での現場進行状況

厳しい寒さと雪の中、また能登半島地震などありましたが、池田組さんの報告によると現場は着々と進行中とのこと。ホント、.雪国の方々の粘り強さには感服するばかりです。

厳しい環境下での現場進行状況

NOIL新築工事は、ローエナジービルディング(申請予定)を目指しており、工事の進行に合わせ、再解析等これから検討する要件が残っています。引き続きチームで力を合わせ、より良い結果を目指してコツコツと取り組んでいきたいと思います。