先日投稿しました建築家ヘルマンカウフマン氏の講演会の続きになります。
今回の記事では、竹中工務店との協力による日本の施工現場での実践例に注目しました。
一方、前回の記事では、ウッドステーションやモックの技術進化について触れています。それらの技術が背景にあることで、本記事で取り上げるパッシブタウン第5期街区の事例にも、さらに深い意義が生まれています。
(※前回の講演記事はこちら)
施工技術と設計哲学:パッシブタウン第5期街区
YKK不動産が推進する「パッシブタウン」プロジェクトの最終街区が公開されました。このプロジェクトは、富山県産材を87%使用し、脱炭素建築を目指しています。RCコア構造により地震力を軽減し、耐火性を備えた木質ハイブリッド構造が特徴。Power to Gas技術やプレファブ工法の活用による効率的な省エネ設計が、持続可能な社会への一歩として注目されています。
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「木質ハイブリッド構造でつくる最先端の脱炭素建築(※日経クロステックより要約)」
YKK Passivetown, Kurobe Hermann Kaufmann + Partner ZT GmbHより
環境と技術の最適解を求めて
カウフマン氏の日本の地震に対する法規や消防法への対応は、非常に大変だったとのことでした。(通訳の方が訳した「消防法」という言葉は、おそらく「防火規定」を指しているのでしょう)
講演中にカウフマン氏の基本図面と実施図面を比較する機会がありました。センターコアの占める割合や厚さ、カーテンウォールの厚さなどが大きく異なり、これらを比較することで、日本の規制が建築デザインに与える影響を具体的に理解することができました。またオーストリアのフォアアールベルク州にあるLifeCycle Tower (LCT ONE)との比較も行われ、コア(LCT ONEでは片側偏心コアでしたが)の割合の違いは一目瞭然でした。
カウフマン氏の設計では、スラブの薄さやカーテンウォールの軽やかさがとても魅力的ですが、日本の厳しい耐震・防火規定により、設計の見直しが必要となりました。その中で、竹中工務店と協力し、RCコアを増強しつつも木材の活用を最大限に引き出したハイブリッド構造という革新的な解決策が生まれました。
建築設計において、与えられた条件の中で最適解を導き出すプロセスは、単なる制約への対応ではなく、新たな価値を創造する機会となります。このパッシブタウン第5期街区プロジェクトは、まさにその典型例といえるでしょう。このような厳しい制約の中から、新しいアイディアを生み出している姿勢がとても印象的でした。
施工中の雨とプレファブ工法の役割
また、カウフマン氏は講演では、施工中の雨による木材の濡れを極力避けることの重要性についても触れていました。木材は湿気を含むことで品質が低下する可能性があるため、建材の搬入スケジュールや現場の雨対策が設計と同じくらい重要だと強調しています。
オーストリアと比較し、『施工途中で雨が降っても雨漏りしない』という竹中工務店の施工技術を高く評価していました。この点は、日本の施工現場における優れた管理体制と技術力を象徴していると言えます。日本の施工現場では、雨のリスクを避ける工夫が投稿などで話題になるように、雨対策は日本の施工現場において、重要な管理項目の一つです。日本の施工体制の素晴らしいポイントの一つです。
迅速施工を実現するため採用されたプレファブ工法には、木材を湿気から守りながら作業効率を上げるという、カウフマン氏の哲学が反映されています。
持続可能な技術としての可能性
カウフマン氏の設計は、シンプルなデザインと精緻なディテールなど、その意匠面に注目が集まりがちです。ですが、その設計を実現するために、直面した条件から逃げず、粘り強く問題解決を重ねるカウフマン氏の姿勢に強い印象を受けました。
竹中工務店の雨対策や迅速施工の技術は、プレファブ工法の可能性をさらに広げ、日本独自の建築価値をさらに深化させました。また、カウフマン氏が示した厳しい規制の中で創造性を発揮する設計哲学は、私たちの未来の建築を導く重要な示唆に満ちています。この技術の進化は、単なる効率化ではなく、持続可能な社会に向けた新しい価値創造の一環です。こうした建築の可能性を、私たちの生活や環境にどのように活用できるのか、一緒に考え続けたいと思います。
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