丹波山村村営住宅見学会レポート:大型パネル工法と地域材の未来

大工仲間に誘われて、丹波山村村営住宅の見学会に行ってきました。今回見学したのは、大型パネル「ハーフ住宅」を活用し、スピード建設が行われたプロジェクトです。今年度4月に事業採択され、8月に上棟、そして年明け1月10日には完成見学会という驚くべきスピード感!公共事業では珍しいプロポーザル方式が採用され、この結果、効率的な予算化と短期間での建設が可能になったそうです。

上野原I.Cから国道139号を経由して向かいました。山深い道中はヘアピンカーブの連続。途中には、金属製の屋根をかぶせた茅葺きの古民家や、松本~高山周辺で見られる切妻の軒が深い古民家など、地域の個性豊かな景観が広がっていました。一方で、ハウスメーカーのような住宅はほとんど見かけません。
山が深くなるにつれ、集落の間隔は広がり、山々の存在感が増していきます。道中では落石対策工事を多く見かけましたが、こうした地域では土木の仕事はあっても建築工務店の仕事は少ないのかもしれません。

小菅村庁舎近くの木造大断面集成材を使った建物

現場では、大型パネル工法による効率的な施工方法について学びました。一緒に参加した大工仲間たちと工事手順や納まりについて議論を重ねた結果、「熟練した工務店と大工だからこそ実現できる工期だ」という結論に至りました。それでも私たちも努力次第で挑戦できるはず。新年会を兼ねて勉強会を開こうという話になり、私は丹波山村モデルをモデリングしてさらに検討してみたいと思っています。


また、事業関係者の話を聞くと、工務店や大工が得意とする住宅分野でプロポーザル方式を採用したことが、今回の成功の鍵だったそうです。海外では、公営住宅こそ高性能住宅(パッシブハウス)が採用される例が多く、こうしたプロジェクトが地域にとっても建築業界にとっても大きな一歩になると感じました。

ここまで見学会で感じたことをお伝えしてきましたが、さらに考えを深める中で、地域と建築の関係について新たな視点が見えてきました。

丹波山村村営住宅を訪れる道中では、集落に点在する古民家や小さな住宅が印象的でした。それらは地域の風土や暮らしに根付いた、控えめで素朴な存在感を持っています。一方で、村営住宅や村庁舎のような施設は、大規模で立派な建物です。特に庁舎はその存在感が際立っていて、道中で見た集落とのスケール感の違いに少し驚かされました。


この違和感は、地域の建物の「役割」によるものかもしれません。庁舎や施設は、地域の中心機能を担う場であり、建物の規模やデザインにもその意図が反映されています。しかし、その大規模さが、時に周辺との調和を考えるきっかけにもなります。


また、今回の村営住宅では、当初は山梨県産材の利用が検討されていましたが、最終的には集成材工場の関係で長野県の齋藤木材工業が供給するカラマツが採用されました。地域材を使う意図があったものの、実際の供給体制の問題などもあり、すべてが地元産材ではないという現実があります。こうした背景も含め、建築が地域の風景や文化にどう関わるかを考えることが必要だと感じます。

丹波山村HPはこちら


丹波山村庁舎の詳細はこちら

丹波山村庁舎 内観

地域材を活用する上で直面する課題の一つが、効率的な供給網の構築やコストの管理です。こうした課題を解決する手段として、デジタル技術の活用が注目されています。


たとえば、私が以前参加したVUILDの「まれびとの家」プロジェクトでは、デジタルファブリケーション(デジタル設計と加工技術)を活用し、地域材を効率よく加工し建築に取り入れる取り組みが行われました。このプロジェクトでは、地域材を短期間で製品化する手法が確立され、建築の迅速な施工と材料の有効活用が実現しました。


一方、今回の丹波山村村営住宅では大型パネルが活用されています。大型パネルの主な特徴は、「山から建築までのデータ共有」を実現する点です。

現在、「新しい林業」事業として木材の伐採場所や加工情報をデジタルデータで一元管理することで、材料のトレーサビリティを確保し、地域材の利用率向上や持続可能な森林活用を可能にする試みが林野庁の実証事業が行われています。このデータ共有の仕組みが実現されると、材料の流通と施工プロセス全体が効率化され、大型パネルの活用が建築全体の合理化に貢献しすることになります。さらに、大型パネルは供給網全体の透明性を向上させ、建築プロセスをよりスムーズに進めるための重要な基盤を提供することになります。
また、大型パネルの利用は建築プロセスの効率化にも貢献しています。工場でプレファブリーケーションされたパネルを、大工が迅速に組み立てることで、上棟までの工期を大幅に短縮しました。この方法により、大工が不足している地域でも、短期間で効率的に建築を完成させることが可能になっています。この効率化は、地域の建築需要に応える上で、非常に重要な一歩となっています。


こうした取り組みを通じて、建築業界全体が持つ課題(コスト、材料供給、効率性)を解決する糸口が見えてきます。地域材を最大限活用し、デジタル技術を効果的に取り入れることで、地域と建築が新たな形で結びつく未来を作り出すことができるでしょう。

VUILD:「まれびとの家」の詳細はこちら

大型パネルの詳細はこちら

参考図書:森林列島再生論


丹波山村村営住宅の見学会を通じて、大型パネル工法やプロポーザル方式の可能性を学ぶとともに、地域材活用の課題や地域と施設のギャップについて考えさせられました。デジタル技術の活用や効率的な仕組みづくりを通じて、地域と建築の新たなつながりを生み出していくことが求められます。
今後もこうしたプロジェクトに注目しながら、地域材を活用した建築の未来を探っていきたいと思います。

2024年を迎え~新年のご挨拶に代えて~

元旦に発生致しました「令和6年能登半島地震」でお亡くなりになられた皆様に、先ずは被害に合われた皆様には謹んでお見舞いを申し上げます。

年明けから石川地震や日航機炎上事故のニュースが続き、お正月気分どころでは無かった方も多かったのではと思います

地震は自然災害の一つではありますが、台風のように事前対策がとれるような時間が無く、前触れ無しで突然襲いかかってきます。ですから備えは平時の時から備えていなくてはなりません。

対策としては建物の「耐震化」になりますが、新築建物と既存改修工事ではそれぞれの方法がありますが「構造計算」が必要となります。

また昭和56年以前の建物の耐震性はそれ以降の建物に比べて耐震性が低いと言われています。56年以降の建物が安全かと言えば、「4号特例問題」等があり、「構造計算」を行い安全性を確認するということがほとんど行われていない悲しい事実もあります。

地震による被災は予想ができません。ですが事前に検証をして対策することはできます。既存建物の「耐震化」も可能です。

数年前、富山の現場に通った時期があるのですが、黒瓦葺の屋根の建物が多く、建物のプロポーションも千葉の民家と違って洗練されていて、美しい街並みが印象的でした。

しばらくは現地からの速報を見守り、しかるべき時期に支援等の協力ができればと考えています。

2024年も大激動が予想されていますが、本年もよろしくお願いいたします。

生活工房の表現者たち

生活工房さんの展示会を観てきました。

生活工房さんの作品は、知的・発達障害の方の創作活動、アール・ブリュット、アウトサイダー・アートと呼ばれています。

 

 

豊かな色彩、楽しくデフォルメされた形を見て ”そういえばこの部分こんな形してたな”。

繊細な表現の作品をみていると ”こんなふうに見えるよなあ”。

とか、たくさんの気づきがあり自然と笑顔に。

”こうやって素直に表現すればいいんだよなー”と気づかされます。

それよりも何よりもその豊かな色彩や形がとても気持ち良い。

 

また支援をされている方とお話をすることができました。

作品をつくるときもには皆さん 一人一人の個性を活かした支援をされているようです。

すべての作品が展覧会や水族館など実際に現地に足を運んだり、目で見たものを作品にしているそう。

展覧会に行ったり実際に体験することはとても時間がかかるけど、そのことが基になって作品の完成度を高めているのでしょう。丁寧に描かれている作品をみてそう想いました。

やっぱり、行ったつもりはやっぱり良くないなと私も反省…

もりんぴあこうづのギャラリーは、それぞれのの作品が映えるような広い展示スペースです。

展示の仕方も工夫されていて作品展としてもとても見応えがありました。

 

期間が1月30日(水)までと短いのですが是非足を運んでみてください 。

生活工房の表現者たち http://morinpiakozu.jp/event/seikatsukobo-7/

生活工房 http://www.narita-seikatsukobo.jp/

 

 

 

ブロック塀の改修:安全と景観を両立させた選択

ブロック塀への不安とご相談

2018年夏、自宅のブロック塀に対する不安を抱えた住まい手様から「どうにかなりませんか?」とのご相談がありました。特に小学校の通学路に面しており、塀の高さが1.8メートルほどある部分が心配だとのこと。また、ヒビが目立ち始めていたため、気になる部分が増えてきたとのことでした。

大阪の事故をきっかけに塀の安全性を見直す

2018年6月、大阪で発生したブロック塀の事故をきっかけに、住まい手様もご自身の塀について気になり始めたとのことです。

改修プランの検討

擁壁とブロック塀の現状

改修前

この塀は道路に3方向面しており、土地に高低差がありました。大谷石の土留めの上にコンクリートブロックが積まれており、古い開発地ならではの2段擁壁(ようへき)の形状をしていました。です。この地区は古い開発地で、残念ながら大谷石+コンクリートブロック2段擁壁が多いのです。

予算に合わせた提案と軽いフェンスの選択

改修前

完全な安全を目指すにはRC造(鉄筋コンクリート)で塀を作り直すことが理想ですが、予算の関係で現実的な選択肢を模索しました。上部3段をカットして軽いフェンスに変更する提案や、板塀や補助金の出る生垣の提案もしましたが、結果としてネットフェンスを選ばれました。

フェンスと生垣で庭の魅力を引き出す

モッコウバラ、ピラカンサの生垣になるのが楽しみです

住まい手様は樹木の手入れが好きな方で、ネットフェンスにモッコウバラを絡ませることで生垣にするのが楽しみとのことでした。

ピラカンサの日のあたらなかった部分も芽が出て生垣になります。

明るい日陰でリュウノヒゲしか定着しなかった花壇も、日当たりが良くなるので花を植えることできるので楽しみとの事でした。これにより庭の景観が一層豊かになり、ピラカンサの生垣も育つことで、外観が明るくなります。

 

改修後の効果

マキが根元から見えると雰囲気よし

庭の見通しと景観の改善
ネットフェンスに変更したことで、庭の樹木が通りから見えるようになり、庭の雰囲気が良くなりました。やはり庭、樹木は雰囲気をつくるのに需要ですね。

また、道路の角からの見通しが良くなったことで、運転がしやすくなり、ご近所からも好評でした。

工務店の経験とコスト削減
施工を担当した工務店は、2018年に同様の工事をいくつか経験しており、ブロック解体技術が向上したことで、見積もりよりも安価で工事を完了できました。

 外構工事と庭づくりの重要性

街並みを変える外構の工夫

日経アーキテクチャ2018 12-27 p10.11

ブロック塀の改修工事は、安全性が第一です。建築の専門誌、日経アーキテクチュアでも2018年の10大ニュース第3位はブロック塀の倒壊事故でした。

そして上手に工事をすれば、街並みの雰囲気も変えることができます。庭をすべてコンクリート土間にしてしまった住まいも見かけますが、個人的には殺伐とした雰囲気を感じます。夏の照り返しもきついですしね。やはり造園工事は大切。樹木1本で全体の雰囲気が和らぎます。外構工事はアイデア次第で、住まいの魅力を引き立てることが可能です。

ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり

ほしい暮らしは自分でつくる

千葉駅は駅ビルの建て替えがほぼ完了して賑わいを取り戻しています。ですが千葉パルコ、三越が閉館して通りに人が少なくなってきているようです。
古い建物が取り壊されコインパーキングに変わっていく景色は寂しいです。古い建物を上手に使えば楽しい仕組みが作れるのに残念です。
一方福岡では古い建物を上手に使い、まちづくりをしています。そんな福岡から始まったリノベーションまちづくりが全国各地で広がっています。

ぼくらのリノベーションまちづくり嶋田洋平氏講演会@千葉に参加してきました。リノベーションまちづくりについては書籍や雑誌でなんとなく内容は知っているつもりです。ですが、実践者の話を聞く事が一番参考になりますし、嶋田さんの人柄にも触れてみたいので、迷わず参加しました。80人のホールは満席。会場内は行政、民間の人が半々くらいでしょうか?顔見知りの人も何人かいらっしゃいました。

 

敷地に価値なし、エリアに価値あり

講演で気づいた事の要点です。

  • 地域を活性化する時に、行政からの補助金頼みは止め、自ら稼げるようになる。
  • 建物はそのままで中身、コンテンツをつくることを考える。
  • リノベーションまちづくりはコンテンツ作り。
  • 地域の価値が上がり資金の回収が見込めるようになってから資本を投入して改築、新築で効果を高める。
  • 地域の価値が高まると、人が集まり、コミュニティが復活する。
  • 次世代に地域を価値ある状態でバトンタッチする。
 ”敷地に価値なし、エリアに価値あり”  このことは呪文のように唱えてくださいと話されていました。
講演会を通して、嶋田氏の明るく、求心力のある人柄が魅力的でした。

数多くのプロジェクトをこなしてきただけあり、プレゼンテーションも簡潔で解り易かったです。プロジェクターに映し出される資料も明快で解り易い!

自分のメインスキルを考える

嶋田さんの日々の仕事に視点を移してみると、これからの自分の仕事について気づきがありました。
従来、建築設計事務所の業務内容は建物の設計・監理ですが、嶋田さんの業務では、その先の運営管理までも業務内容に入っています。
プロジェクトに対して、自ら借り入れを起こし貸借して返済に充てる等、従来の建築設計事務所でほとんど無かった業務をこなしています。

従来の仕事の枠を取り払い、自分のメインのスキルを生かしながら新しい分野に参入していく姿勢は今後の全ての仕事に必要だと思います。
個人で全てのジャンルの専門家になることは不可能ですから、仕事毎にプロジェクトを組みながら共働する体制になってくるわけです。

従来の仕事の枠がどんどん無くなっていく中、自分のメインスキルは何か?そのメインスキルで何が貢献できるか?が大切になってきます。

日々の仕事の中では目の前の業務をこなすことで精一杯、現状維持を続けたくなります。ですが、メインスキルを意識して少し軸をずらした仕事をしてみると、案外簡単に新しい分野に参入していくきっかけになりそうです。

まずは小さなステップから初めて見たいと思います。

点字名刺で広がる出会いと地域のつながり

仕事で初めて顔を合わせる際の名刺交換。
どんなにデジタル化が進んでも、名刺交換の文化はなくならないと感じています。

名刺の作り方にはさまざまな方法があり、それだけでも興味が尽きません。たとえば、ある材木店さんの名刺は、木材を紙のように薄く加工したものに印字されていました。
「これ、作るの高いんですよ」と笑顔で名刺の説明をしてくれたことを覚えています。

ほかにも、不定形のデザインや厚みのある紙、艶のある仕上げなど、名刺にはその人の個性が詰まっています。

ある仕事で視覚障害者の方とお付き合いする機会があり、その際に名刺に点字を入れることができると知りました。
それ以来、私の名刺には点字を取り入れています。

名刺交換の場面では、こんな会話をすることがよくあります。
「これは点字名刺なんですが、私、いつになっても読めなくて…。視覚障害の方は本当にすごいですね!」
このやり取りをきっかけに、相手が興味を持って点字について話題が広がることも少なくありません。

名刺には、点字で「サチソウゴウセッケイ」と表記されています。点字は視覚障害者にとって重要な情報手段であり、名前を指で読み取ることができる仕組みです。

点字名刺
点字で さ ち と記入されています。

点字の読み方に興味を持つ方も多く、名刺交換の際に「どうやって読むの?」という質問を受けることもあります。この名刺を通じて、点字の世界に少しでも触れていただけたら嬉しいです。

名刺作成をお願いした
「(社福)千葉県視覚障害者福祉協会 ワークショップ四街道」は、四街道市にある視覚障害者支援施設です。名刺交換のたびに、「地域でこんな施設があるんですね」と驚かれることもあります。

実は、私も名刺を作っていただくまでは知らなかったのですが、こうして地域の方々と関わりを持つ機会ができて、ちょっと嬉しく思っています。

きっと、あなたの住んでいる地域にも同じような施設があるはずです。ぜひ探してみてください。新しい出会いがきっとあると思います!