敷地と環境を活かす建築デザイン: シミュレーションの力

建築デザインのプロセスでは、シミュレーションが理想の形を見つけるために重要な役割を果たします。
理想の形を実現するには、好みのスタイルや建築法規など、さまざまな要件があります。しかし、シミュレーションは自然環境を十分に活かすために欠かせないツールです。

例えば、あるプロジェクトでは、周囲を建物に囲まれた敷地が課題となりました。

そこで、日影シミュレーションを活用することで、採光を確保できる建物配置を見つけることができました。

このように、周辺環境の影響を把握するためには、シミュレーションが欠かせません。

建物の外皮性能(断熱材の厚さ)やUa値だけでは、燃費の良い建物は実現できません。
例えば、冬季に十分な太陽光を取り入れるための南向きの窓配置や、夏季の強い日射を遮る庇(シェーディング)の設計は、シミュレーションを通じた確認があって初めて適切に行えます。
パッシブハウスの設計では、断熱や気密などを重視した5つの基本原則があります。この5原則に加え、太陽光をどのように取り入れ、遮るかというバランスも重要なポイントです。

こうしたプロセスを経て、自然環境を最大限に活かした建物配置を実現しました。
シミュレーションは、理想のデザインを形作るための強力なサポートツールです。技術を活かして、より快適で持続可能な住まいを目指していきたいですね。

本記事では、シミュレーションの重要性について概要をお伝えしました。具体的な実例については、追記していく予定ですので、引き続きご覧いただければ幸いです。

— #建築デザイン #シミュレーションの力 #パッシブハウス

厳しい規制の中で生まれる創造性:カウフマン建築が教えること

先日投稿しました建築家ヘルマンカウフマン氏の講演会の続きになります。
今回の記事では、竹中工務店との協力による日本の施工現場での実践例に注目しました。

一方、前回の記事では、ウッドステーションやモックの技術進化について触れています。それらの技術が背景にあることで、本記事で取り上げるパッシブタウン第5期街区の事例にも、さらに深い意義が生まれています。


(※前回の講演記事はこちら

施工技術と設計哲学:パッシブタウン第5期街区

 YKK不動産が推進する「パッシブタウン」プロジェクトの最終街区が公開されました。このプロジェクトは、富山県産材を87%使用し、脱炭素建築を目指しています。RCコア構造により地震力を軽減し、耐火性を備えた木質ハイブリッド構造が特徴。Power to Gas技術やプレファブ工法の活用による効率的な省エネ設計が、持続可能な社会への一歩として注目されています。 

出所:YKK不動産、竹中工務店

記事のリンクはこちらから

木質ハイブリッド構造でつくる最先端の脱炭素建築(※日経クロステックより要約)」

YKK Passivetown, Kurobe Hermann Kaufmann + Partner ZT GmbHより


環境と技術の最適解を求めて

カウフマン氏の日本の地震に対する法規や消防法への対応は、非常に大変だったとのことでした。(通訳の方が訳した「消防法」という言葉は、おそらく「防火規定」を指しているのでしょう)

講演中にカウフマン氏の基本図面と実施図面を比較する機会がありました。センターコアの占める割合や厚さ、カーテンウォールの厚さなどが大きく異なり、これらを比較することで、日本の規制が建築デザインに与える影響を具体的に理解することができました。またオーストリアのフォアアールベルク州にあるLifeCycle Tower (LCT ONE)との比較も行われ、コア(LCT ONEでは片側偏心コアでしたが)の割合の違いは一目瞭然でした。


カウフマン氏の設計では、スラブの薄さやカーテンウォールの軽やかさがとても魅力的ですが、日本の厳しい耐震・防火規定により、設計の見直しが必要となりました。その中で、竹中工務店と協力し、RCコアを増強しつつも木材の活用を最大限に引き出したハイブリッド構造という革新的な解決策が生まれました。

出所:YKK不動産、竹中工務店


建築設計において、与えられた条件の中で最適解を導き出すプロセスは、単なる制約への対応ではなく、新たな価値を創造する機会となります。このパッシブタウン第5期街区プロジェクトは、まさにその典型例といえるでしょう。このような厳しい制約の中から、新しいアイディアを生み出している姿勢がとても印象的でした。


施工中の雨とプレファブ工法の役割

また、カウフマン氏は講演では、施工中の雨による木材の濡れを極力避けることの重要性についても触れていました。木材は湿気を含むことで品質が低下する可能性があるため、建材の搬入スケジュールや現場の雨対策が設計と同じくらい重要だと強調しています。

オーストリアと比較し、『施工途中で雨が降っても雨漏りしない』という竹中工務店の施工技術を高く評価していました。この点は、日本の施工現場における優れた管理体制と技術力を象徴していると言えます。日本の施工現場では、雨のリスクを避ける工夫が投稿などで話題になるように、雨対策は日本の施工現場において、重要な管理項目の一つです。日本の施工体制の素晴らしいポイントの一つです。

迅速施工を実現するため採用されたプレファブ工法には、木材を湿気から守りながら作業効率を上げるという、カウフマン氏の哲学が反映されています。

出典:Hermann Kaufmann Architekten: Architecture and Construction Details

持続可能な技術としての可能性


カウフマン氏の設計は、シンプルなデザインと精緻なディテールなど、その意匠面に注目が集まりがちです。ですが、その設計を実現するために、直面した条件から逃げず、粘り強く問題解決を重ねるカウフマン氏の姿勢に強い印象を受けました。

竹中工務店の雨対策や迅速施工の技術は、プレファブ工法の可能性をさらに広げ、日本独自の建築価値をさらに深化させました。また、カウフマン氏が示した厳しい規制の中で創造性を発揮する設計哲学は、私たちの未来の建築を導く重要な示唆に満ちています。この技術の進化は、単なる効率化ではなく、持続可能な社会に向けた新しい価値創造の一環です。こうした建築の可能性を、私たちの生活や環境にどのように活用できるのか、一緒に考え続けたいと思います。

前回の記事はこちらからどうぞ

旧いクルマとパッシブハウス:日本の「クリーン・コール」を考える

先日、Climate Action Tracker(CAT)の記事を読みました。


日本の「クリーン・コール(Clean Coal)」(クリーンな石炭)政策について批判的な視点でまとめられた内容で、その一部には頷ける点がありましたが、同時に「本当にそこまで単純な話だろうか?」という疑問も浮かびました。

今回の記事では、CATの記事をきっかけに、「クリーン・コール」の意義や矛盾点を日本の具体例と共に掘り下げてみたいと思います。
詳細はこちら Climate Action Trackerの記事

はじめに:旧いクルマ、パッシブハウス、そして「クリーン・コール」

私は旧いクルマを大切にしています。それは単なる趣味ではなく、「持続可能な選択肢の一つとして、今あるものを最大限に活用する」という信念に基づいています。一方で、私は建築士として、パッシブハウスという素晴らしい技術を普及したいとも考えています。パッシブハウスは、エネルギー効率を高め、自然との調和を目指す住まいづくりの理想形の一つです。

この二つの価値観は、一見すると矛盾しているように見えます。しかし、両者に共通するのは「無駄を省き、持続可能性を追求する」という考えです。

では、「クリーン・コール」はどうでしょうか?

この技術は、石炭という旧来のエネルギー資源を「効率化」し、持続可能な未来を目指す取り組みです。ただ、その可能性と限界を見極めることが重要です。


クリーン・コールとは?

「クリーン・コール(Clean Coal)」とは、石炭火力発電における環境負荷を軽減するための技術や政策を指します。具体的には、以下のような技術が含まれます:

  • 超臨界圧・超々臨界圧発電:燃焼効率を向上させ、CO2排出を削減する技術。従来の亜臨界圧発電と比較して、発電効率を約40%から最大50%まで向上させることが可能です。
  • 炭素回収・貯留(CCS):発電時に発生するCO2を回収し、地中に貯蔵する仕組み。理論上、CO2排出量の90%以上を削減できる可能性がありますが、高コストと技術的課題が実用化の障壁となっています。
  • 排ガス処理技術:硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質を削減。最新の技術では、これらの汚染物質を90%以上削減することが可能です。

これらの技術は、石炭利用を続けながらも環境負荷を軽減しようという試みです。しかし、冒頭のCATの記事のように、多くの環境団体や気候科学者は、「石炭自体の利用を継続する限り、パリ協定の目標達成は困難」と指摘しています。


日本の具体例:福島のIGCC発電所

福島県いわき市にある勿来(なこそ)IGCC(石炭ガス化複合発電)発電所は、日本のクリーン・コール技術の実証プロジェクトの一つです。この発電所では、石炭をガス化して効率的にエネルギーを取り出し、CO2排出量を従来の石炭火力発電所より約15%削減しています。
出典:TDKのWEBコンテンツ「テクマグ」第183回 進化する石炭火力発電より

しかし、この取り組みは持続可能性の観点からは賛否両論です。

一部では「震災復興のシンボルとしての役割」や、高効率発電技術の実証という観点から評価されています。一方、再生可能エネルギーへの移行を遅らせるリスクが指摘されています。

国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までにネットゼロ排出を達成するためには、先進国は2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止する必要があると提言しています。

これを、旧いクルマのレストアと例えるならば、「寿命を延ばす試み」としては意義があるものの、最終的に新しいエネルギーソリューションが必要であることに変わりはありません。

詳細はこちら 第183回 進化する石炭火力発電 〜環境にやさしいIGCC、IGFC〜


パッシブハウスとクリーン・コール:共存と矛盾

パッシブハウスは、「自然の力を活用しながらエネルギー消費を最小限に抑える」理想的な住まいづくりを目指しています。対して、クリーン・コールは「現存する石炭技術を効率化する」というアプローチです。

両者の共通点は、持続可能性を目指していることです。しかし、パッシブハウスが「未来のエネルギーの在り方」を象徴するのに対し、クリーン・コールは「現在の課題への現実的な対応」としての位置づけにとどまります。

持続可能性の観点から、最終的にはパッシブハウスや再生可能エネルギーの方が優位性を持つと考えられます。クリーン・コールは短中期的な移行技術として位置づけられており、長期的には再生可能エネルギーへの完全な移行が必要とされています。

やはり、持続可能性のための最終的なロードマップはパッシブハウスや再生可能エネルギーに軍配が上がるでしょう。


結論:古いものを大切にしながら未来を考える

私が古いクルマを大切にするように、今あるものを最大限活用することには大きな意義があります。それは、無駄を減らし、持続可能な選択をするための一つの重要な考え方です。しかし、「クリーン・コール」のような技術が持つ限界を正直に見極めることも必要です。

最終的に、私たちは再生可能エネルギーやパッシブハウスのような未来志向の選択肢に向かうべきです。 そのためには新しいものやテクノロジーを無条件に受け入れることではなく、今ある価値を活かしながら知恵を絞りよく考え、少しでもより良い未来を思い描き行動することです。

歴史ある酒蔵がアートスペースに – 猪苗代町「はじまりの美術館」探訪

はじまりの美術館 アプローチ

美術館の概要と現在の企画展

福島県猪苗代町のはじまりの美術館に行ってきました!
どこか懐かしく、でも新鮮な体験ができるこの美術館は、建築好きやアート好きにとって一度は訪れたい場所です。

企画展「ここから、まざりあう」

「はじまりの美術館」はアール・ブリュットの美術館ですが、今回は企画展を開催中でした。

ウォールアートフェスティバルふくしま in 猪苗代 2024

展来会概要はこちらから 「ここから、まざりあう」

出展作家:

  • 淺井裕介+はじまりの美術館
  • ウォールアートプロジェクト
  • 水川千春
  • ワィエダ兄弟

展示作品との出会い

参加されていた作家さんの世界観が大きく、目の前に広がる作品の深度にクラクラしながらも時間をかけてゆっくりとレベル調整。どの作品も素晴らしかったのですが、特に印象に残った水川千春さんの作品についてご紹介します。

水川千春さんの作品について


水川千春さんの作品は和紙に水で絵を書き、あぶり出しによって色が浮かびあがってくる手法。小学校の頃のミカン果汁であぶり出しをした記憶が何故か浮かびあがり興味が湧きましたが、そんなボンヤリとした作品ではありません。正面に描かれた磐梯山は精緻な線で描かれていて、あぶり出しのグラデーションの濃淡との対比が見ていて飽きません。焦げた臭いが微かにするのでそれも薪ストーブを焚いているような感覚もあり、猪苗代の冬に訪れる磐梯山の雪景色を思い出しました。

水川千春さんの作品
水川千春さんの作品詳細。精緻なラインと炙り絵もコンストラクトが幻想的

地域と繋がるアートプロジェクト

去年までは猪苗代の小中学校にアーティストを招待して壁画を作成するプロジェクト(ウォールアートプロジェクト)もあったようで、見逃していたことが残念です。

プロジェクトのアーカイブ記事はこちらから 猪苗代アートプロジェクト

竹原義二による建築の魅力

小さな美術館ですが、竹原義二さんの建築は見どころが多く、東北で竹原建築を観ることができる数少ない場所だと思います。建築探訪好きはもちろん、古民家好きにもお勧めです。

古民家の現代的解釈

築約140年の酒蔵「十八間蔵」を改修して誕生した小さな美術館の通り、立派な通し梁や架構の大工仕事はもちろん、空間構成の素材としてコンクリートブロック、鉄骨も取り入れられています。入れ子になったこのボックス構造も構造体として荷重を受けているのかな?これは調べてみたいですね。入れ子になった空間によって、古民家のダイナミックな架構だけでなく、歩きまわることによって素材ごとに空間が変化していく面白さを楽しめます。古民家のイメージは立派な梁やダイナミックな架構の大きな空間を想像するかと思うのですが、実際は建具の高さも低く小さな部屋で構成されているので、その空間を異素材で表現しているのかと想像します。

気になる外部建具・断熱方法

サイズの大きな外部建具は新しい物ですが、サイズの小さな明り取りの小窓は古い物をアウトセットさせて取り付けてあり新旧の対比と工夫が綺麗でした。ガラスももちろんペアガラスにアッデートされていました。

はじまりの美術館 小窓

断熱については室内側から軸組が全て見えているのでおそらく付加断熱でしょう。軒の出も頬杖で補強されていたので屋根から壁までグルっと付加断熱でくるまれてるのかな。床にも吹き出しグリルが設置されていたので、冬は床下を温かい空気を循環させて床も暖かくなるはず。※脚注 付加断熱:断熱効果を高めるために外部に追加した断熱材

古材の見せ方

そのほかにも見どころが沢山あります。新旧部材、礎石、柱の取り合い、古い伝統の飾りなどまだまだ見逃しているような部分もありそうです。トイレの空間も古民家の軸組の良さを生かした、設備の取り付け方と可愛い小物のディスプレーも一見の価値ありです。

ユニークな展示体験

展示室には靴を脱いで上がるアットホームなスタイルです。床仕上げも空間によって異なってています。もちろん普通の木床仕上げではありません。

踏触で楽しむ仕組み

手斧で仕上げた滑らかなナグリ床は大きな丸の彫刻刀でザクザクと削ったような仕上げ。角材の小口面表してタイルのように敷詰めたゴツゴツとした床については、遠目から見ると100角くたいののタイル仕上げのようですが近づいて良く見ると模様に見えていた物は年輪と分かり驚きました!通常はこの向きで床仕上をしませんから、きっと施工は大変だったろうなと余計な心配をしてみたりで、一見の価値ありです。

その仕上げは少し足裏を刺激してくれるようで、マッサージを受けているような痛気持ち良さがあり、慣れるまでくすぐったい不思議な感覚。視覚だけでなく、足裏の触覚も変化して楽しめます。手斧仕上げのスペースはピクチャーウインドの前に座りこんで鑑賞でき、縁側に座っているような懐かしい気持ちになりました。目線が地上のレベルに近いので、雪の降る日ここから積もっていく雪景色をゆっくりと眺めるのも良さそうです。

はじまりの美術館 ピクチャーウインド
ランドスケープを眺めながらゆっくりできるピクチャーウインド

お土産と周辺散策

カフェ・ショップコーナーも併設しており、コーヒーも飲みながらのんびりできます。ショップコーナ―ではアール・ブリュット好きの私は可愛らしい手作りコースターを購入しました!可愛くてコーヒーカップを置くことができそうもありません…


美術館周辺には美味しい食堂もあり、猪苗代町内を前述のウォールアートプロジェクトの作品を探しながらの散策も楽しいです。猪苗代町はユニークなカフェが点在しているのでレンタカーで探索もお勧めです。

この場所で得た感動をぜひ味わってみてください。猪苗代の自然と歴史ある建築の中で、アートと建築の融合を体感できる特別な場所です。

#WAF猪苗代  #はじまりの美術館

#WAF猪苗代 駅前の壁画
猪苗代駅前のウォールアートプロジェクト作品。すぐに見つけられます!#WAF猪苗代
この日は快晴、きれいな夕日と磐梯山を東側から見る。

THERM解析で理解するヒートブリッジ:学生からプロまでの活用法

THERMで進めるヒートブリッジ解析と設計改善

建物の外皮性能が向上すると、特に気になり始めるのがヒートブリッジです。ヒートブリッジとは、建物の構造部分で断熱性能が低く、熱が集中して逃げやすい箇所を指します。主に壁と床の接合部や窓枠、バルコニーの取り付け部分などで発生し、断熱性が弱い部分でエネルギーが無駄に消費され、冷暖房効率が下がるだけでなく、結露やカビのリスクも増えることがあります。

THERMは、このヒートブリッジをシミュレーションし、視覚的に解析できる非常に有効なツールです。このソフトウェアを使うことで、どこに熱のロスがあるかを明確にし、設計の改善に役立てることが可能です。


THERMの主な特徴

THERMは、建築部材の熱伝達を計算し、視覚化できるソフトで、特に教育や設計実務において有用です。主な特徴を以下にまとめました:

  1. 等温線と熱流束ベクトルの視覚化
    建物のどこから熱が逃げやすいかを示す等温線や、熱の流れを示すフラックスベクトルを通じて、ヒートブリッジや結露のリスクを視覚的に確認できます。
  2. 材料や構造変更の影響を解析
    木材や鋼材など、異なる材料が建物の熱性能に与える影響を数値で比較でき、設計段階での最適な材料選びに役立ちます。
  3. U値による断熱性能の評価
    U値は部位ごとの断熱性能を示し、建物の全体性能を決めるのに役立ちます。

グラフィックによる解析結果の可視化

THERMがシミュレーション結果は数種類のグラフィックで表現されます。その中でも、以下のグラフィック結果がわかりやすいです。

  • 等温線:カラーで表示され、断面の温度勾配や熱応力が視覚的に示されます。熱の出入りや結露リスクを予測するのに役立ちます。
  • フラックスベクトル:熱流束の量と方向を矢印の長さと向きで表現し、どこから熱が集中して出入りしているかを把握できます。
  • U値:全体的な熱伝達率を示し、断面の断熱性能を定量的に評価します。

例えば、基礎りの断面解析では、等温線とフラックスベクトルがどのように分布しているかを確認すると、基礎立上りと底盤のジョイント部分から多くの熱が逃げていることがわかります。また底盤から外部の地上面に熱が逃げている様子もわかります。底盤下の断熱材を全面に敷詰めるか、ペリメータのみにするか等もシミュレーションしても面白いですね。
このようにシミュレーションすることで問題点を特定して改善策を講じることができます


教育ツールとしてのTHERM

以上の情報は「teaching-2dheat-transfer-therm2-0」という資料から翻訳し、要約したものに私の感想を加筆しています。THERMを使った建築部材の熱解析や、エネルギー性能向上の学習に非常に有効だと思います。建築を学んでいる学生さん、温熱の勉強をはじめて間もない人など、理論と実践を結びつけるサポートになるのではないかと思います。
teaching-2dheat-transfer-therm2-0


実際の設計での活用

THERMを活用したヒートブリッジ解析を行うことで、設計の初期段階から建物全体のエネルギー効率を最適化し、問題箇所を明確にすることができます。シミュレーションを基に設計を改善することで、住まいの快適性や断熱性能が向上します。

私が大切にしている「あるべきところに自然に納まる」という考え方にも通じるところがあります。THERMのシミュレーション結果は、建物の各部分が本来持つべき性能を発揮し、快適でエネルギー効率の高い空間を実現するための道筋を示してくれます。このステップを重ねることにより、美しく調和のとれた空間を創り出しながら、エネルギー効率を高めることが可能だと考えています。

THERMで進めるヒートブリッジ解析と設計改善

建物の外皮性能が向上してくると、特に気になり始めるのがヒートブリッジです。まずは、ヒートブリッジについてGPTに尋ねてみました。

ヒートブリッジとは?

ヒートブリッジは、建物の構造部分で断熱性能が低く、熱が集中して逃げやすい箇所を指します。主に次のような場所で発生します:

  • 壁と床の接合部
  • 窓やドアの枠まわり
  • 屋根やバルコニーの取り付け部分

これらの箇所では、断熱性が弱いためにエネルギーが無駄に消費され、冷暖房効率が下がってしまうことがあります。

ヒートブリッジの重要性

高性能住宅、特にパッシブハウスの設計において、ヒートブリッジの最小化はエネルギー効率を高めるために非常に重要です。ヒートブリッジを放置すると、断熱性能が低下し、エネルギー消費が増加するだけでなく、結露やカビの発生リスクも高まります。

ヒートブリッジ解析に使用するツール

ヒートブリッジをシミュレーションするためのツールとして、THERMという無料ソフトがあります。日本ではまだ知名度が低いですが、海外ではよく使われており、窓周りの解析にも使用できるようです。また、困ったときにはフォーラムでの情報交換も活発に行われています。

今回、私は基礎周りの解析にTHERMを使用してみました。最初の課題は、CADデータの読込で、ブロックが読み込まれない問題が発生しました。そのため、THERMで読み込んだ下絵を手動でトレースする作業が必要でした。また、シミュレーションの途中で強制終了が連発する問題にも直面しましたが、作図をやり直すことで無事に解析が完了しました。

結果と感想

THERMでの解析結果は、他のソフトに比べて数値が大きくなる傾向がありましたが、計算結果を視覚的に表現するグラフィックが非常に分かりやすく、解析内容を理解するのに役立ちます。

ヒートブリッジは、建物の断熱性能を考えるうえで見逃せないポイントです。パッシブハウスのような高性能住宅では、ヒートブリッジを最小限に抑えることが、快適さやエネルギー効率の向上に直結します。THERMのようなシミュレーションソフトを使うことで、どこに熱のロスがあるかが一目でわかり、設計の段階から対策を講じることが可能です。

シミュレーション結果は、ただの数字ではなく、グラフィックで分かりやすく表示されるので、クライアントにも説明しやすいのが魅力です。これによって、住まいの性能をさらに高める提案ができるのはもちろん、長期的に見てもエネルギーコストを抑えることができます。

ヒートブリッジの解析は、建物をより快適でエネルギー効率の良い空間にするための大切なステップです。

プレファブシステムの実践:モック千葉工場での経験とサンブ杉の可能性

1年前にFacebookでプレファブシステムについて投稿しましたが、あれからの経験や考えを少し更新しつつ、改めて振り返りたいと思います。特に、モック千葉工場での実践を通じて、プレファブ工法の可能性と現場での課題を深く実感しました。

モック千葉工場では、親会社である山長グループの紀州材を使用しています。その品質管理の高さには非常に感銘を受けました。プレファブ工法における安定した材質の提供は、施工の精度と効率に直結し、大きなメリットをもたらします。しかし、私は地元千葉県のサンブ杉をもっと活用できないかと考えています。

そこで、サンブ杉をプレファブ工法に適用するための方法を模索してきました。特に、山長の紀州材と同等の品質管理を実現できる千葉県内の製材所を見つける必要があると感じています。もしサンブ杉がその基準を満たせば、地元資源を使ったサステナブルな建築の可能性がさらに広がります。

この取り組みが、地域経済の活性化にも貢献することは間違いありません。今後も地元の工務店や職人との連携を深め、地域資源を最大限に活かした建築に取り組んでいきたいと思います。

詳しくはこちらの記事もご覧ください:
1年前の記事ですが、今でも大切な経験です) Facebook投稿リンク

木造技術の進化と可能性 ~ ヘルマン・カウフマン氏の視点


先日、建築家ヘルマン・カウフマン氏(以下H.K氏)の講演会に参加してきました。
2018年にも同氏の講演を聴講しましたが、今回は6年ぶりの再講演です。(※2018年の講演記事はこちら

今回の講演テーマは以下の通りです。

「木造建築の未来 ~ 木造技術とモダン建築の融合:地域経済を拓く伝統と革新」

H.K氏の審美的な建築事例はもちろん魅力的でしたが、講演中に特に気になったいくつかのキーワードについて掘り下げてみたいと思います。

大工の仕事からスタート

H.K氏の講演では、フォアベルク州で主流となっている「住戸ユニットタイプ(3Dボリューム)のプレファブ建築」が紹介されました。このシステムは、大工の負担を軽減するだけでなく、若い世代の大工が仕事に就くきっかけにもなっているとのことです。工場内の環境は、デザイン性が高く、洗練された働きやすい場の印象を受けました。また、フォアベルクでは、住戸ユニットの陸上運搬も日本より大きなサイズが可能であるという点も興味深いです。

ちなみに、日本で運搬可能なサイズについては、ワンルームタイプの短辺がプランニングに影響を与えることが考えられます。
※日本で運搬可能なサイズ(道路交通法の制限内)
短辺:2,400mm
長辺:5,400mm(4トンユニック積載)、7,200mm(10トンユニック積載)
高さ:約2,700mm

日本ではどうだろうと考えた際、思い浮かぶのは千葉のウッドステーションやモックさんの千葉工場です。現在、日本では2Dボリューム(大型パネル)が主流で、モックの工場でも大型パネルを製作しています。

私自身も大型パネルを導入した経験がありますが※FB投稿です、建方の際に大工さんの重労働が軽減されるだけでなく、品質管理や工程管理がより正確になり、非常に良いシステムだと感じました。さらに、ウッドステーションやモックさんが導入しているシステム全体は、フォアベルク州の技術水準に非常に近づいていると感じました。これは木材の品質管理に限らず、製造工程や作業環境、大工の負担軽減に至るまで、フォアベルク州で実践されている技術やプロセスに近いものが日本でも実現しつつあります。

2018年の講演当時、ウッドステーションやモックさんの技術はまだ存在していませんでした。

それが今、これらのシステムが現実となり、実際に稼働していることに深い感慨を覚えます。
未来の可能性として描かれていた技術が、数年の間にここまで着実に発展し、現実のものとなっている様子を目の当たりにすると、木造建築の進化のスピードと、その背景にある「伝統と革新」の力強さを改めて実感させられます。

私自身も、この進化の一端に触れ、大型パネル技術を採用できたことに、静かな喜びを感じています。時代の流れと共に、私たちの仕事も少しずつ進化し続けていることを実感し、これからも建築の可能性を広げていければと願っています。

また、フォアベルク州では混合林が主流で、モノカルチャー(トウヒの単一林)は伐採後に全伐になってしまうため、環境への影響が大きく、望ましくないとの話がありました。ただ、少し聞き取りが難しく、十分に消化できなかった部分もあり、少し残念です。

次回は、黒部パッシブタウンについての話を書いていきたいと思います。

6月のニュースレター バウビオロギー講座受講中です

2024年から始めた月の振返り、しばらく下書きのまま放置してしまいまして、月末の投稿です。こんにちは、Koukiです。

数か月前のお話、バウビオロギー講座のスクーリングに参加しました。現在は全講座の1/3まで受講している段階で、今後はオンラインにてスクーリング講座が開催されるようです。

日本バウビオロギー研究会の通信講座を受講しています。

日頃の活動として、PHJメンバーの設計した建物を見学したり、昨年はミライの住宅さん主催の住宅空調講座@埼玉に参加しています。当然ながら、高性能住宅では全館空調が多く、エアコンなどの機器を利用した考え方が主流になっています。

しかしながら、夏季の高温多湿の外気を取り入れて通風でどうにかしようという考えは今さらありませんが、一方で性能や効率に特化した設計や思想だけではバランスが悪いと考える機会も増えてきました。さらに、EMFA(日本電磁波協会)の2級測定士の試験でもバウビオロギーについて軽く触れていまして、そこからバウビオロギーへの興味が広がっていきました。

バウビオロギーを学び始めて分かったことは、その名が示す通り、建築・生命・論理を包括するビジョンと範囲の広さです。つまり、”ホリスティックに考え行動する”という目標のためには、幅広い知識が必要不可欠なのです。そのため、講座テキストも多岐にわたり、建築技術だけでなく、生態学、環境科学、心理学、さらには哲学的な要素まで含まれています。

バウビオロギーの考え方は、単に建物の性能や効率を追求するだけでなく、人間と自然環境との調和を重視します。言い換えれば、これまで学んできた高性能住宅の設計とは異なる視点を提供してくれたのです。例えば、自然素材の活用や室内の空気質、電磁波の影響など、従来の設計では見過ごされがちな要素にも注目します。

また、バウビオロギーは持続可能性にも重点を置いています。すなわち、エネルギー効率だけでなく、建材の生産から廃棄までのライフサイクル全体を考慮することで、真の意味での環境負荷の低減を目指しているのです。

まだまだ講座の半ばですが、今までの学びを通じて、私は設計者としての視野が大きく広がったと感じています。高性能住宅の技術的な側面と、バウビオロギーの全体論的なアプローチを融合させることで、より豊かで持続可能な住環境を創造できる可能性が見えてきました。

今後は、これらの新しい知見を自分の設計実践にどのように取り入れていくか、具体的な方法を模索していきたいと思います。同時に、クライアントにもこの新しいアプローチの価値を伝え、共に理想的な住まいづくりを進めていければと考えています。講座の終了までにしばらく時間が必要ですが、今後の受講がとても楽しみです。

バウビオロギーの学びは、私にとって単なる知識の獲得以上の意味を持ちました。それは、建築実務者としての責任と可能性を再認識する機会となったのです。

パッシブハウス認定と断熱性能の試行錯誤、北海道建築探訪 | 幸総合設計

パッシブハウス認定に向けた挑戦

パッシブハウス認定を目指して、ヒートブリッジやインストールψの解析に取り組んでいます。これはパッシブ設計における重要な要素であり、特に日本の寒冷地での性能を左右するものです。

案件が保留となり多少の時間ができたため、この機会に解析をマスターしようと考えていましたが、先輩コンサルの経験を追体験しているようで、その道の険しさを実感しています。

解析の試行錯誤

ソフトの習熟には時間がかかるタイプなので、解析作業にも多くの試行錯誤がありました。肝心なポイントを見逃して最初からやり直すこともあり、時間だけが過ぎていく日も多々ありました。それでも、パッシブハウス認定に求められるヒートブリッジやインストールψの解析は非常に重要な要素なので、粘り強く取り組んでいきたいと思っています。ソフトの習熟に時間がかかるタイプなので、ソフトの習熟だけでも精一杯。肝となるポイントを見逃して最初からなんて事も数回。時間ばかりが過ぎていくなんて日が多かったです。


北海道での建築探訪と温熱環境の発見

2月の後半は家族と一緒に冬の北海道へ。旅の中盤には寒波に見舞われ、冬の北海道の厳しさを味わいましたが、それでも楽しい旅となりました。

家族との旅行でしたので、建築オタク旅とはなりませんでしたが、外気温がマイナスでも建物内は半袖でも過ごせるような暖かい北海道仕様ならでは 名物 ”おうちアイス” も経験!
愛車の95プラドで峠を越えながら、旧いクルマを大切に使い続けることの楽しさも感じつつ、ゴールデンレトリーバーのテンテンとも一緒に網走で氷点下の散歩を楽しみました。寒さの中でも堂々と歩くテンテンの姿は頼もしい限りです。

雪煙でバックドアが真っ白。さらに過酷な雪道に…
愛車の95プラドで峠を越えます。旧いクルマを大切に乗ってます。4輪駆動車でも緊張の峠越えでした。
-6でも平気なワンコと凍える私
網走の能取湖湖畔をゴールデンレトリーバーのテンテンとお散歩。氷点下5度でも平気そうでした。

北海道の建築と温熱環境に関する発見

以下は北海道での建築や温熱環境に関する印象的なポイントです:

・樹脂サッシとペアガラス:樹脂サッシのペアガラスが一般的で、トリプルガラスはあまり見かけませんでした。特にYKKの製品が多かったように感じます。

・リノベーション物件:樹脂サッシ+ペアガラスの二重サッシが多く、旧い木製引戸や単板ガラスと組み合わせ、レトロな雰囲気を残しながら断熱性能も上げているのが見事な演出。少し室温が下がるものの、適材適所と感じられる工夫がなされていました。

・賃貸アパート:賃貸でも樹脂サッシ+ペアガラスが標準で、FIX窓とすべり出し窓の組み合わせが多く見られました。バルコニーや引違いの掃き出し窓は無く、暖房はFF式ストーブ(灯油)が主流です。

・非住宅の施設:パネルコンベクター(コロナ製)が多く使用され、網走の旅館でもFF式ストーブが採用されていました。また、宿泊施設では夏用のエアコンが設置されているものの、冬は使用されていません。

・パネルヒーターの快適さ:湿度コントロールがどのように行われているかは不明ですが、パネルヒーターによる室内環境は非常に快適でした。

北海道の建築探訪は、関東とは異なる熱源やサッシの設計を見るだけで十分に興味深く、温熱環境の違いを実感しました。

北海道の建築と温熱環境に関する発見

実際に北海道を旅してみて、書籍や講座で聞いた設計手段や設備について、体感することで少しずつ腑に落ちてきた気がします。「百聞は一見に如かず」とはこのことでしょうか。

この経験をさらに深めるため、次回は「ミライの住宅さん」主催の北海道断熱修行の旅にも参加を検討しています。より深く北海道の断熱技術を学び、自身の設計に活かしていきたいと思います。