THERM解析で理解するヒートブリッジ:学生からプロまでの活用法

THERMで進めるヒートブリッジ解析と設計改善

建物の外皮性能が向上すると、特に気になり始めるのがヒートブリッジです。ヒートブリッジとは、建物の構造部分で断熱性能が低く、熱が集中して逃げやすい箇所を指します。主に壁と床の接合部や窓枠、バルコニーの取り付け部分などで発生し、断熱性が弱い部分でエネルギーが無駄に消費され、冷暖房効率が下がるだけでなく、結露やカビのリスクも増えることがあります。

THERMは、このヒートブリッジをシミュレーションし、視覚的に解析できる非常に有効なツールです。このソフトウェアを使うことで、どこに熱のロスがあるかを明確にし、設計の改善に役立てることが可能です。


THERMの主な特徴

THERMは、建築部材の熱伝達を計算し、視覚化できるソフトで、特に教育や設計実務において有用です。主な特徴を以下にまとめました:

  1. 等温線と熱流束ベクトルの視覚化
    建物のどこから熱が逃げやすいかを示す等温線や、熱の流れを示すフラックスベクトルを通じて、ヒートブリッジや結露のリスクを視覚的に確認できます。
  2. 材料や構造変更の影響を解析
    木材や鋼材など、異なる材料が建物の熱性能に与える影響を数値で比較でき、設計段階での最適な材料選びに役立ちます。
  3. U値による断熱性能の評価
    U値は部位ごとの断熱性能を示し、建物の全体性能を決めるのに役立ちます。

グラフィックによる解析結果の可視化

THERMがシミュレーション結果は数種類のグラフィックで表現されます。その中でも、以下のグラフィック結果がわかりやすいです。

  • 等温線:カラーで表示され、断面の温度勾配や熱応力が視覚的に示されます。熱の出入りや結露リスクを予測するのに役立ちます。
  • フラックスベクトル:熱流束の量と方向を矢印の長さと向きで表現し、どこから熱が集中して出入りしているかを把握できます。
  • U値:全体的な熱伝達率を示し、断面の断熱性能を定量的に評価します。

例えば、基礎りの断面解析では、等温線とフラックスベクトルがどのように分布しているかを確認すると、基礎立上りと底盤のジョイント部分から多くの熱が逃げていることがわかります。また底盤から外部の地上面に熱が逃げている様子もわかります。底盤下の断熱材を全面に敷詰めるか、ペリメータのみにするか等もシミュレーションしても面白いですね。
このようにシミュレーションすることで問題点を特定して改善策を講じることができます


教育ツールとしてのTHERM

以上の情報は「teaching-2dheat-transfer-therm2-0」という資料から翻訳し、要約したものに私の感想を加筆しています。THERMを使った建築部材の熱解析や、エネルギー性能向上の学習に非常に有効だと思います。建築を学んでいる学生さん、温熱の勉強をはじめて間もない人など、理論と実践を結びつけるサポートになるのではないかと思います。
teaching-2dheat-transfer-therm2-0


実際の設計での活用

THERMを活用したヒートブリッジ解析を行うことで、設計の初期段階から建物全体のエネルギー効率を最適化し、問題箇所を明確にすることができます。シミュレーションを基に設計を改善することで、住まいの快適性や断熱性能が向上します。

私が大切にしている「あるべきところに自然に納まる」という考え方にも通じるところがあります。THERMのシミュレーション結果は、建物の各部分が本来持つべき性能を発揮し、快適でエネルギー効率の高い空間を実現するための道筋を示してくれます。このステップを重ねることにより、美しく調和のとれた空間を創り出しながら、エネルギー効率を高めることが可能だと考えています。

THERMで進めるヒートブリッジ解析と設計改善

建物の外皮性能が向上してくると、特に気になり始めるのがヒートブリッジです。まずは、ヒートブリッジについてGPTに尋ねてみました。

ヒートブリッジとは?

ヒートブリッジは、建物の構造部分で断熱性能が低く、熱が集中して逃げやすい箇所を指します。主に次のような場所で発生します:

  • 壁と床の接合部
  • 窓やドアの枠まわり
  • 屋根やバルコニーの取り付け部分

これらの箇所では、断熱性が弱いためにエネルギーが無駄に消費され、冷暖房効率が下がってしまうことがあります。

ヒートブリッジの重要性

高性能住宅、特にパッシブハウスの設計において、ヒートブリッジの最小化はエネルギー効率を高めるために非常に重要です。ヒートブリッジを放置すると、断熱性能が低下し、エネルギー消費が増加するだけでなく、結露やカビの発生リスクも高まります。

ヒートブリッジ解析に使用するツール

ヒートブリッジをシミュレーションするためのツールとして、THERMという無料ソフトがあります。日本ではまだ知名度が低いですが、海外ではよく使われており、窓周りの解析にも使用できるようです。また、困ったときにはフォーラムでの情報交換も活発に行われています。

今回、私は基礎周りの解析にTHERMを使用してみました。最初の課題は、CADデータの読込で、ブロックが読み込まれない問題が発生しました。そのため、THERMで読み込んだ下絵を手動でトレースする作業が必要でした。また、シミュレーションの途中で強制終了が連発する問題にも直面しましたが、作図をやり直すことで無事に解析が完了しました。

結果と感想

THERMでの解析結果は、他のソフトに比べて数値が大きくなる傾向がありましたが、計算結果を視覚的に表現するグラフィックが非常に分かりやすく、解析内容を理解するのに役立ちます。

ヒートブリッジは、建物の断熱性能を考えるうえで見逃せないポイントです。パッシブハウスのような高性能住宅では、ヒートブリッジを最小限に抑えることが、快適さやエネルギー効率の向上に直結します。THERMのようなシミュレーションソフトを使うことで、どこに熱のロスがあるかが一目でわかり、設計の段階から対策を講じることが可能です。

シミュレーション結果は、ただの数字ではなく、グラフィックで分かりやすく表示されるので、クライアントにも説明しやすいのが魅力です。これによって、住まいの性能をさらに高める提案ができるのはもちろん、長期的に見てもエネルギーコストを抑えることができます。

ヒートブリッジの解析は、建物をより快適でエネルギー効率の良い空間にするための大切なステップです。

プレファブシステムの実践:モック千葉工場での経験とサンブ杉の可能性

1年前にFacebookでプレファブシステムについて投稿しましたが、あれからの経験や考えを少し更新しつつ、改めて振り返りたいと思います。特に、モック千葉工場での実践を通じて、プレファブ工法の可能性と現場での課題を深く実感しました。

モック千葉工場では、親会社である山長グループの紀州材を使用しています。その品質管理の高さには非常に感銘を受けました。プレファブ工法における安定した材質の提供は、施工の精度と効率に直結し、大きなメリットをもたらします。しかし、私は地元千葉県のサンブ杉をもっと活用できないかと考えています。

そこで、サンブ杉をプレファブ工法に適用するための方法を模索してきました。特に、山長の紀州材と同等の品質管理を実現できる千葉県内の製材所を見つける必要があると感じています。もしサンブ杉がその基準を満たせば、地元資源を使ったサステナブルな建築の可能性がさらに広がります。

この取り組みが、地域経済の活性化にも貢献することは間違いありません。今後も地元の工務店や職人との連携を深め、地域資源を最大限に活かした建築に取り組んでいきたいと思います。

詳しくはこちらの記事もご覧ください:
1年前の記事ですが、今でも大切な経験です) Facebook投稿リンク

木造技術の進化と可能性 ~ ヘルマン・カウフマン氏の視点


先日、建築家ヘルマン・カウフマン氏(以下H.K氏)の講演会に参加してきました。
2018年にも同氏の講演を聴講しましたが、今回は6年ぶりの再講演です。(※2018年の講演記事はこちら

今回の講演テーマは以下の通りです。

「木造建築の未来 ~ 木造技術とモダン建築の融合:地域経済を拓く伝統と革新」

H.K氏の審美的な建築事例はもちろん魅力的でしたが、講演中に特に気になったいくつかのキーワードについて掘り下げてみたいと思います。

大工の仕事からスタート

H.K氏の講演では、フォアベルク州で主流となっている「住戸ユニットタイプ(3Dボリューム)のプレファブ建築」が紹介されました。このシステムは、大工の負担を軽減するだけでなく、若い世代の大工が仕事に就くきっかけにもなっているとのことです。工場内の環境は、デザイン性が高く、洗練された働きやすい場の印象を受けました。また、フォアベルクでは、住戸ユニットの陸上運搬も日本より大きなサイズが可能であるという点も興味深いです。

ちなみに、日本で運搬可能なサイズについては、ワンルームタイプの短辺がプランニングに影響を与えることが考えられます。
※日本で運搬可能なサイズ(道路交通法の制限内)
短辺:2,400mm
長辺:5,400mm(4トンユニック積載)、7,200mm(10トンユニック積載)
高さ:約2,700mm

日本ではどうだろうと考えた際、思い浮かぶのは千葉のウッドステーションやモックさんの千葉工場です。現在、日本では2Dボリューム(大型パネル)が主流で、モックの工場でも大型パネルを製作しています。

私自身も大型パネルを導入した経験がありますが※FB投稿です、建方の際に大工さんの重労働が軽減されるだけでなく、品質管理や工程管理がより正確になり、非常に良いシステムだと感じました。さらに、ウッドステーションやモックさんが導入しているシステム全体は、フォアベルク州の技術水準に非常に近づいていると感じました。これは木材の品質管理に限らず、製造工程や作業環境、大工の負担軽減に至るまで、フォアベルク州で実践されている技術やプロセスに近いものが日本でも実現しつつあります。

2018年の講演当時、ウッドステーションやモックさんの技術はまだ存在していませんでした。

それが今、これらのシステムが現実となり、実際に稼働していることに深い感慨を覚えます。
未来の可能性として描かれていた技術が、数年の間にここまで着実に発展し、現実のものとなっている様子を目の当たりにすると、木造建築の進化のスピードと、その背景にある「伝統と革新」の力強さを改めて実感させられます。

私自身も、この進化の一端に触れ、大型パネル技術を採用できたことに、静かな喜びを感じています。時代の流れと共に、私たちの仕事も少しずつ進化し続けていることを実感し、これからも建築の可能性を広げていければと願っています。

また、フォアベルク州では混合林が主流で、モノカルチャー(トウヒの単一林)は伐採後に全伐になってしまうため、環境への影響が大きく、望ましくないとの話がありました。ただ、少し聞き取りが難しく、十分に消化できなかった部分もあり、少し残念です。

次回は、黒部パッシブタウンについての話を書いていきたいと思います。