2025年 新年のご挨拶:持続可能な住まいづくりを目指して

リステル猪苗代スキー場から望む猪苗代湖と周囲の雪景色。雪に覆われた平野、静かな湖面、そして澄み切った青空が広がる冬の絶景
リステル猪苗代スキー場から望む、元旦の猪苗代湖。雪に覆われた大地と澄み渡る青空が、新しい一年を望む希望と静けさを感じました

新しい年を迎えるにあたり、今年も自然素材や持続可能な住まいづくりの情報を皆さまにお届けしてまいります。
私たちの設計事務所は1月6日(月)より営業を開始いたします。

年賀状を木版画で制作していた時代から、現在ではAI画像生成など、時代とともに表現方法は進化してきました。この画像も生成AIに依頼して制作したものです。
新しいテクノロジーを活用しつつ、先人たちの知恵や技術を尊重しながら、より良い設計を目指していきたいと思います。

本年も皆さまにとって良い年になりますように!

自然素材で実現する快適空間:持続可能な住まいづくり

自然素材で仕上げた壁や天井は、ただ美しいだけでなく、住む人の健康と環境にも配慮した選択です。また時間とともに美しく経年変化する様子も楽しめます。

住まいの壁や天井を、環境に優しい自然素材で仕上げる選択が注目されています。中でも、日本エムテクスの「ビーナスコート」は、アップサイクル素材を使用し、持続可能な住まいづくりに貢献する製品として人気を集めています。本記事では、ビーナスコートの特性や施工例、環境面でのメリットをご紹介します。

ビーナスコートの特徴と魅力

『卵からうまれた仕上げクリーム』というキャッチフレーズが示すように、ビーナスコートの主原材料は「卵の殻」と「火山灰」です。この2つの材料が持つユニークな特性を活かし、以下のような特徴があります:

  • 美観と経年変化:
    • 自然素材ならではの質感と、時間とともに味わいが増す特徴が魅力です。
  • 意匠性の高さ:
    • 塗装でも左官仕上げでも施工可能で、ローラーやコテ、吹付けなど、施工方法を選ばない柔軟性があります。ビーナスコートを施工する際には、下地処理が特に重要です。下地が均一でないと仕上がりに影響が出るため、適切な補修を行うことが不可欠です。

「卵の殻」と「火山灰」のどちらも、本来廃棄される材料をアップサイクルして活用しており、地球環境に負荷をかけない製品と言えます。

ビーナスコートの機能として、調湿効果や臭気吸着効果が挙げられます。ただし、これらは単独で大きな効果を期待するものではなく、エアコンや換気設備を補完する役割と考えると現実的です。それよりも、自然素材の美しさや経年変化による味わいが住まい全体の価値を高める大きな要因となります。

自然素材の仕上げは初期費用がかかる場合がありますが、経年変化による味わいが生まれることで、結果的にコストパフォーマンスが良い選択となることが多いです。コストが気になる場合は、壁はビーナスコート、天井はオガファーザー仕上げといった組み合わせもおすすめです。

サンブスギのような無垢材の床仕上げとの相性も良いビーナスコートは、空間全体を調和の取れたものに仕上げます。

日本エムテクスの取り組みとアップサイクルの価値

日本エムテクスの製品開発の根底には、「資源循環型社会づくりへの貢献」という理念があります。同社は廃棄される材料をアップサイクルして製品化することを得意としており、その取り組みには深い共感を覚えます。

「新しい素材を使わず、既存の資源を活かして作る」という発想は、持続可能な社会の実現に必要不可欠な考え方です。ビーナスコートのような素材は、環境負荷を抑えつつ美しい仕上がりを実現できるため、住宅設計において重要な選択肢となります。

壁・天井を自然素材で仕上げるメリット

自然素材を選ぶことで、以下のような多くのメリットが得られます:

  1. 美観と経年変化:
    • 自然素材ならではの美しさと、時を経るごとに味わいが増す特性。
    • 例えば、リビングルームの壁にビーナスコートを使用した際、昼間の自然光を受けて壁が柔らかな光沢を放ち、落ち着いた空間を演出しました。夜間はブラケット照明の間接光が優しく写し出される影のグラデーションも美しく感じます。
  2. 意匠性の高さ:
    • 部屋全体の統一感と自然な風合いが得られます。
  3. 環境負荷の軽減:
    • 輸送距離の短縮やリサイクル材料の使用により、環境への負担を軽減。

結論: 自然素材で未来を創る住まい

自然素材を壁や天井に取り入れることで、住まいに健康的で心地よい空間を提供し、持続可能な社会にも貢献できます。

自然素材は新建材と比較をするとコストアップになりますが、工夫をすることで取り入れることも可能になりますので、是非検討してみてください。例えば、天井にはオガファーザー仕上げを採用することで、コストを抑えつつ美観を保つことができます。

これからの住まいづくりを考える際には、環境にも住む人にも優しい選択肢として、自然素材を取り入れるアイデアをぜひ取り入れてみてください。

敷地と環境を活かす建築デザイン: シミュレーションの力

建築デザインのプロセスでは、シミュレーションが理想の形を見つけるために重要な役割を果たします。
理想の形を実現するには、好みのスタイルや建築法規など、さまざまな要件があります。しかし、シミュレーションは自然環境を十分に活かすために欠かせないツールです。

例えば、あるプロジェクトでは、周囲を建物に囲まれた敷地が課題となりました。

そこで、日影シミュレーションを活用することで、採光を確保できる建物配置を見つけることができました。

このように、周辺環境の影響を把握するためには、シミュレーションが欠かせません。

建物の外皮性能(断熱材の厚さ)やUa値だけでは、燃費の良い建物は実現できません。
例えば、冬季に十分な太陽光を取り入れるための南向きの窓配置や、夏季の強い日射を遮る庇(シェーディング)の設計は、シミュレーションを通じた確認があって初めて適切に行えます。
パッシブハウスの設計では、断熱や気密などを重視した5つの基本原則があります。この5原則に加え、太陽光をどのように取り入れ、遮るかというバランスも重要なポイントです。

こうしたプロセスを経て、自然環境を最大限に活かした建物配置を実現しました。
シミュレーションは、理想のデザインを形作るための強力なサポートツールです。技術を活かして、より快適で持続可能な住まいを目指していきたいですね。

本記事では、シミュレーションの重要性について概要をお伝えしました。具体的な実例については、追記していく予定ですので、引き続きご覧いただければ幸いです。

— #建築デザイン #シミュレーションの力 #パッシブハウス

建築探訪 千葉県文化会館

千葉県文化会館&中央図書館:近代建築の魅力を探る

近代モダン建築の宝:大高正人が設計した50年の歴史

建築家・大高正人さんが設計した千葉県文化会館と千葉県立中央図書館を建築探訪してきました。
どちらも大高雅人さんの設計した築50年になる貴重な近代モダン建築です。

千葉県文化会館では石橋館長にお話を聞くことができました。
昨年は50周年のシンポジウムも開催され、その参加者の多さに驚いたとのこと。
オリジナルの保全に努める一方、現在のニーズに合わせた改修を施し、丁寧に運営されています。

荘厳なエントランスホールとコンクリートの表現力

エントランスホールは、まるで宗教建築のような荘厳な雰囲気を漂わせています。建物はコンクリート打放しですが、表面ツルツルの仕上げではなくて、表面を細かくはつった、はつり仕上げ等もありその表情は豊かです。柱や壁も垂直ではなくて少し斜めになっていたり、曲線を描いていて有機的。

水底のような空間:トップライトが照らすホワイエ

大ホールのホワイエは、トップライトから差し込む水色の光と壁面の水色が相乗効果を生み、まるで水底から水面を見上げているような不思議な感覚に包まれます。

コンクリートの表面が荒々しく力強く感じます。現代の建築にはない表現力が感じられ、まさに近代モダン建築の真髄です

千葉県文化会館と共に、大高正人が設計した 千葉県立中央図書館 も近代モダン建築の代表作として知られています。プレキャスト工法の斬新な構造やワッフル状スラブのディテールに注目。建築技術の視点からも楽しめる建築です。
👉 [千葉県立中央図書館の建築探訪はこちら]

築50年を迎える建築の課題と対応

ですが築50年になる近代モダン建築なので、問題点となるのが設備面の不具合です。人間も50年の年月を重ねれば不具合が出てきますから、建築も同じです。

トイレは竣工時の数では足りなくなっていて、数回増設をしているようです。当時と違って基準も変わり、現在のホールはトイレの数が多いですからね。
ホールの空調関係は、暑さ寒さなどの室温問題で利用者さんからクレームがあるようですが、配管類が埋め込みのために設備更新が難しいようです。旧式の空調設備を運用しているようですが細かい設定ができないようで、運営者としての苦労も多いようです。現代の空調設備ではボタン一つで細かな設定が可能なため、それと比較すると温度調整が難しいようです。

建物案内のピクトサインも、オリジナルはもっとシンプルなデザインだったそうです。こちらも利用者さんの声で現在のピクトサインになったようです。

また補修部材の多くが廃版になっており、床のPタイルの補修なども苦労されています。
オリジナルの近代モダン建築の雰囲気の良さは残していきながら、建物利用者の要望をどの程度反映させていくことができるか課題となっているようです。

近代モダン建築の保存と未来

近代モダン建築は、歴史的価値だけでなく、建築技術の発展の証としても重要です。特に千葉県立中央図書館と千葉県文化会館は、千葉の文化的景観を形成する「千葉文化の森」としての価値もあります。

しかし、設備の老朽化や耐震問題により、解体・建て替えの可能性が議論されています。建築の保存と活用のバランスを考えながら、どうすれば未来へ受け継げるのか、一緒に考えてみませんか?

温熱改修のアイデアと難しさ

今回はパッシブハウスジャパンの高本さんと一緒に見学したのですが、高本さんから”この建物の温熱改修依頼がきたらどうします?”なんて問いかけが!さすがの温熱の専門家です。

コンクリート打放しが特徴の近代モダン建築。コンクリート打放しの構造が熱橋となるため、その対策が課題となります。ある程度の熱橋は我慢する、いや、カーテンウォールで覆ってしまう等アイディアが浮かびます。ファイナルアンサーは”ガラスだけは複層にしてコンクリートの熱橋問題は目をつぶる”では専門家として失格?

唯一無二の近代建築を未来へ:保存と活用の可能性

千葉県文化会館と千葉県立中央図書館は、同じく大高正人が設計した近代モダン建築です。両建築は一体的に計画され、それぞれ異なる魅力を持っています。

👉 [千葉県立中央図書館の建築探訪はこちら]

不思議ですが建物は使っていないとドンドン傷んできます。室内の空気が停滞すると湿気も停滞してカビ等で建物をむしばんでいきます。

千葉県文化会館は唯一無二の貴重な近代モダン建築。オリジナルの良さを残しながら性能面を改善して、少しでも長く利用されることを願います。

千葉県立中央図書館と千葉県文化会館を未来へ残すために

千葉県立中央図書館は DOCOMOMO Japan に選定された近代モダン建築であり、プレキャスト工法の先駆けとしても貴重な建物です。また、千葉県文化会館と共に「千葉文化の森」を形成する重要な建築群であり、一体的な保存が求められます。

現在、千葉工業大学・藤木竜也准教授による『千葉県立中央図書館保存活用検討報告書』が発表されています。 詳細はこちらのBlogをご覧ください。
🔗 [千葉県立中央図書館保存活用検討報告書]

これらの建築が今後も大切にされるよう、関心を持ち続けることが大切です。 保存活動を支援する方法として、以下のようなアクションが考えられます。

  • SNSで建築の魅力を発信する(#千葉文化の森 #近代モダン建築 などのハッシュタグを活用)
  • 保存活動を行っている団体・大学の情報をシェアする
  • 建築探訪や見学会に参加し、関心を持つ人を増やす

この文化的な財産を未来に残していくために、一緒に考えてみませんか?

 

バタフライスツール60周年企画展:カタチの原点 柳宗理

バタフライスツールが発表され、2016年で60周年とのこと。企画展も巡回で開催されています。

私もバラフライスツールが好きなので建物の撮影時にインテリアとして持ち込む事があります。ひと目みればバタフライスツールとわかるそのデザイン。

私はバタフライスツールをみると、鳥居や「天」の形を連想します。その連想の為か、なんとなく神々しいものを感じ、空間がバタフライスツールに負けてしまいそうです。押しが強いデザインともいえますね。

 

バタフライスツールの構造を考える

構造はとてもシンプル。2枚の成形合板を金具一本でつないでいるだけなのです。

この構造が無ければバタフライスツールが存在しない、ユニークなデザインと表裏一体になっているところが魅力的です。

バタフライスツールをながめていると、“一体、どうすればこんなデザインを発想できるのだろう?”と本当に不思議に思います。一般的なスツールの形、座面と脚の関係なんてどこにもありません。

 

手遊びから生まれたデザイン

60周年企画展ではバタフライスツールのアイディアの原点となった模型が置いてありました。

柳宗理さんも「こんなイスを作ろう」と言う考えからではなく、紙を切ったり、折ったり、曲げたりしているうちにバタフライスツールの形を発想したそうです。

たしかに紙一枚に折り目を一ヶ所いれるだけで紙が立つのですが、これを応用してバタフライスツールになるなんて驚きの発想です。

 

柳宗理 デザインへの姿勢:手を動かす大切さ

こんな発想も普段の柳宗理さんの仕事に向き合う姿勢から生まれたようです。

柳宗理さんのスタジオでは常に原寸のモックアップを作ってデザインの検討をしていたのとのことです。

頭の中でデザインを思い描くのでは無く、手を動かしてデザインを積み上げていく作業だったのでしょう。

私は仕事ではパソコンを使った作業が多く、作業に埋もれて目標を見失うことがありがちです。そんな時にはパソコンから離れ手を動かし、目標を再設定します。すると時には新しいアイディアを思いついたりします。手を動かすことはやはり大切なことです。

あらためて柳宗理さんのバラフライスツールのような、デザインと構造が表裏一体となった発想に憧れます。

建物の設計ではデザインと構造、さらに温熱環境が加わります。

その三要素が表裏一体となった設計を心がけ、バラフライスツールのような無駄の無い建物を提案できるようにこころがけていきます。