旧いクルマとパッシブハウス:日本の「クリーン・コール」を考える

先日、Climate Action Tracker(CAT)の記事を読みました。


日本の「クリーン・コール(Clean Coal)」(クリーンな石炭)政策について批判的な視点でまとめられた内容で、その一部には頷ける点がありましたが、同時に「本当にそこまで単純な話だろうか?」という疑問も浮かびました。

今回の記事では、CATの記事をきっかけに、「クリーン・コール」の意義や矛盾点を日本の具体例と共に掘り下げてみたいと思います。
詳細はこちら Climate Action Trackerの記事

はじめに:旧いクルマ、パッシブハウス、そして「クリーン・コール」

私は旧いクルマを大切にしています。それは単なる趣味ではなく、「持続可能な選択肢の一つとして、今あるものを最大限に活用する」という信念に基づいています。一方で、私は建築士として、パッシブハウスという素晴らしい技術を普及したいとも考えています。パッシブハウスは、エネルギー効率を高め、自然との調和を目指す住まいづくりの理想形の一つです。

この二つの価値観は、一見すると矛盾しているように見えます。しかし、両者に共通するのは「無駄を省き、持続可能性を追求する」という考えです。

では、「クリーン・コール」はどうでしょうか?

この技術は、石炭という旧来のエネルギー資源を「効率化」し、持続可能な未来を目指す取り組みです。ただ、その可能性と限界を見極めることが重要です。


クリーン・コールとは?

「クリーン・コール(Clean Coal)」とは、石炭火力発電における環境負荷を軽減するための技術や政策を指します。具体的には、以下のような技術が含まれます:

  • 超臨界圧・超々臨界圧発電:燃焼効率を向上させ、CO2排出を削減する技術。従来の亜臨界圧発電と比較して、発電効率を約40%から最大50%まで向上させることが可能です。
  • 炭素回収・貯留(CCS):発電時に発生するCO2を回収し、地中に貯蔵する仕組み。理論上、CO2排出量の90%以上を削減できる可能性がありますが、高コストと技術的課題が実用化の障壁となっています。
  • 排ガス処理技術:硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質を削減。最新の技術では、これらの汚染物質を90%以上削減することが可能です。

これらの技術は、石炭利用を続けながらも環境負荷を軽減しようという試みです。しかし、冒頭のCATの記事のように、多くの環境団体や気候科学者は、「石炭自体の利用を継続する限り、パリ協定の目標達成は困難」と指摘しています。


日本の具体例:福島のIGCC発電所

福島県いわき市にある勿来(なこそ)IGCC(石炭ガス化複合発電)発電所は、日本のクリーン・コール技術の実証プロジェクトの一つです。この発電所では、石炭をガス化して効率的にエネルギーを取り出し、CO2排出量を従来の石炭火力発電所より約15%削減しています。
出典:TDKのWEBコンテンツ「テクマグ」第183回 進化する石炭火力発電より

しかし、この取り組みは持続可能性の観点からは賛否両論です。

一部では「震災復興のシンボルとしての役割」や、高効率発電技術の実証という観点から評価されています。一方、再生可能エネルギーへの移行を遅らせるリスクが指摘されています。

国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までにネットゼロ排出を達成するためには、先進国は2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止する必要があると提言しています。

これを、旧いクルマのレストアと例えるならば、「寿命を延ばす試み」としては意義があるものの、最終的に新しいエネルギーソリューションが必要であることに変わりはありません。

詳細はこちら 第183回 進化する石炭火力発電 〜環境にやさしいIGCC、IGFC〜


パッシブハウスとクリーン・コール:共存と矛盾

パッシブハウスは、「自然の力を活用しながらエネルギー消費を最小限に抑える」理想的な住まいづくりを目指しています。対して、クリーン・コールは「現存する石炭技術を効率化する」というアプローチです。

両者の共通点は、持続可能性を目指していることです。しかし、パッシブハウスが「未来のエネルギーの在り方」を象徴するのに対し、クリーン・コールは「現在の課題への現実的な対応」としての位置づけにとどまります。

持続可能性の観点から、最終的にはパッシブハウスや再生可能エネルギーの方が優位性を持つと考えられます。クリーン・コールは短中期的な移行技術として位置づけられており、長期的には再生可能エネルギーへの完全な移行が必要とされています。

やはり、持続可能性のための最終的なロードマップはパッシブハウスや再生可能エネルギーに軍配が上がるでしょう。


結論:古いものを大切にしながら未来を考える

私が古いクルマを大切にするように、今あるものを最大限活用することには大きな意義があります。それは、無駄を減らし、持続可能な選択をするための一つの重要な考え方です。しかし、「クリーン・コール」のような技術が持つ限界を正直に見極めることも必要です。

最終的に、私たちは再生可能エネルギーやパッシブハウスのような未来志向の選択肢に向かうべきです。 そのためには新しいものやテクノロジーを無条件に受け入れることではなく、今ある価値を活かしながら知恵を絞りよく考え、少しでもより良い未来を思い描き行動することです。

THERM解析で理解するヒートブリッジ:学生からプロまでの活用法

THERMで進めるヒートブリッジ解析と設計改善

建物の外皮性能が向上すると、特に気になり始めるのがヒートブリッジです。ヒートブリッジとは、建物の構造部分で断熱性能が低く、熱が集中して逃げやすい箇所を指します。主に壁と床の接合部や窓枠、バルコニーの取り付け部分などで発生し、断熱性が弱い部分でエネルギーが無駄に消費され、冷暖房効率が下がるだけでなく、結露やカビのリスクも増えることがあります。

THERMは、このヒートブリッジをシミュレーションし、視覚的に解析できる非常に有効なツールです。このソフトウェアを使うことで、どこに熱のロスがあるかを明確にし、設計の改善に役立てることが可能です。


THERMの主な特徴

THERMは、建築部材の熱伝達を計算し、視覚化できるソフトで、特に教育や設計実務において有用です。主な特徴を以下にまとめました:

  1. 等温線と熱流束ベクトルの視覚化
    建物のどこから熱が逃げやすいかを示す等温線や、熱の流れを示すフラックスベクトルを通じて、ヒートブリッジや結露のリスクを視覚的に確認できます。
  2. 材料や構造変更の影響を解析
    木材や鋼材など、異なる材料が建物の熱性能に与える影響を数値で比較でき、設計段階での最適な材料選びに役立ちます。
  3. U値による断熱性能の評価
    U値は部位ごとの断熱性能を示し、建物の全体性能を決めるのに役立ちます。

グラフィックによる解析結果の可視化

THERMがシミュレーション結果は数種類のグラフィックで表現されます。その中でも、以下のグラフィック結果がわかりやすいです。

  • 等温線:カラーで表示され、断面の温度勾配や熱応力が視覚的に示されます。熱の出入りや結露リスクを予測するのに役立ちます。
  • フラックスベクトル:熱流束の量と方向を矢印の長さと向きで表現し、どこから熱が集中して出入りしているかを把握できます。
  • U値:全体的な熱伝達率を示し、断面の断熱性能を定量的に評価します。

例えば、基礎りの断面解析では、等温線とフラックスベクトルがどのように分布しているかを確認すると、基礎立上りと底盤のジョイント部分から多くの熱が逃げていることがわかります。また底盤から外部の地上面に熱が逃げている様子もわかります。底盤下の断熱材を全面に敷詰めるか、ペリメータのみにするか等もシミュレーションしても面白いですね。
このようにシミュレーションすることで問題点を特定して改善策を講じることができます


教育ツールとしてのTHERM

以上の情報は「teaching-2dheat-transfer-therm2-0」という資料から翻訳し、要約したものに私の感想を加筆しています。THERMを使った建築部材の熱解析や、エネルギー性能向上の学習に非常に有効だと思います。建築を学んでいる学生さん、温熱の勉強をはじめて間もない人など、理論と実践を結びつけるサポートになるのではないかと思います。
teaching-2dheat-transfer-therm2-0


実際の設計での活用

THERMを活用したヒートブリッジ解析を行うことで、設計の初期段階から建物全体のエネルギー効率を最適化し、問題箇所を明確にすることができます。シミュレーションを基に設計を改善することで、住まいの快適性や断熱性能が向上します。

私が大切にしている「あるべきところに自然に納まる」という考え方にも通じるところがあります。THERMのシミュレーション結果は、建物の各部分が本来持つべき性能を発揮し、快適でエネルギー効率の高い空間を実現するための道筋を示してくれます。このステップを重ねることにより、美しく調和のとれた空間を創り出しながら、エネルギー効率を高めることが可能だと考えています。

THERMで進めるヒートブリッジ解析と設計改善

建物の外皮性能が向上してくると、特に気になり始めるのがヒートブリッジです。まずは、ヒートブリッジについてGPTに尋ねてみました。

ヒートブリッジとは?

ヒートブリッジは、建物の構造部分で断熱性能が低く、熱が集中して逃げやすい箇所を指します。主に次のような場所で発生します:

  • 壁と床の接合部
  • 窓やドアの枠まわり
  • 屋根やバルコニーの取り付け部分

これらの箇所では、断熱性が弱いためにエネルギーが無駄に消費され、冷暖房効率が下がってしまうことがあります。

ヒートブリッジの重要性

高性能住宅、特にパッシブハウスの設計において、ヒートブリッジの最小化はエネルギー効率を高めるために非常に重要です。ヒートブリッジを放置すると、断熱性能が低下し、エネルギー消費が増加するだけでなく、結露やカビの発生リスクも高まります。

ヒートブリッジ解析に使用するツール

ヒートブリッジをシミュレーションするためのツールとして、THERMという無料ソフトがあります。日本ではまだ知名度が低いですが、海外ではよく使われており、窓周りの解析にも使用できるようです。また、困ったときにはフォーラムでの情報交換も活発に行われています。

今回、私は基礎周りの解析にTHERMを使用してみました。最初の課題は、CADデータの読込で、ブロックが読み込まれない問題が発生しました。そのため、THERMで読み込んだ下絵を手動でトレースする作業が必要でした。また、シミュレーションの途中で強制終了が連発する問題にも直面しましたが、作図をやり直すことで無事に解析が完了しました。

結果と感想

THERMでの解析結果は、他のソフトに比べて数値が大きくなる傾向がありましたが、計算結果を視覚的に表現するグラフィックが非常に分かりやすく、解析内容を理解するのに役立ちます。

ヒートブリッジは、建物の断熱性能を考えるうえで見逃せないポイントです。パッシブハウスのような高性能住宅では、ヒートブリッジを最小限に抑えることが、快適さやエネルギー効率の向上に直結します。THERMのようなシミュレーションソフトを使うことで、どこに熱のロスがあるかが一目でわかり、設計の段階から対策を講じることが可能です。

シミュレーション結果は、ただの数字ではなく、グラフィックで分かりやすく表示されるので、クライアントにも説明しやすいのが魅力です。これによって、住まいの性能をさらに高める提案ができるのはもちろん、長期的に見てもエネルギーコストを抑えることができます。

ヒートブリッジの解析は、建物をより快適でエネルギー効率の良い空間にするための大切なステップです。

プレファブシステムの実践:モック千葉工場での経験とサンブ杉の可能性

1年前にFacebookでプレファブシステムについて投稿しましたが、あれからの経験や考えを少し更新しつつ、改めて振り返りたいと思います。特に、モック千葉工場での実践を通じて、プレファブ工法の可能性と現場での課題を深く実感しました。

モック千葉工場では、親会社である山長グループの紀州材を使用しています。その品質管理の高さには非常に感銘を受けました。プレファブ工法における安定した材質の提供は、施工の精度と効率に直結し、大きなメリットをもたらします。しかし、私は地元千葉県のサンブ杉をもっと活用できないかと考えています。

そこで、サンブ杉をプレファブ工法に適用するための方法を模索してきました。特に、山長の紀州材と同等の品質管理を実現できる千葉県内の製材所を見つける必要があると感じています。もしサンブ杉がその基準を満たせば、地元資源を使ったサステナブルな建築の可能性がさらに広がります。

この取り組みが、地域経済の活性化にも貢献することは間違いありません。今後も地元の工務店や職人との連携を深め、地域資源を最大限に活かした建築に取り組んでいきたいと思います。

詳しくはこちらの記事もご覧ください:
1年前の記事ですが、今でも大切な経験です) Facebook投稿リンク