コミュニティを築く建築:自治会館に込めた想い

これまで携わった自治会館の設計プロジェクトでは、地域社会とのつながりを深め、その声を形にすることを目指してきました。自治会館の設計は、地域住民との対話を通じてその未来を築くやりがいのある仕事であり、その裏には多くの課題と試行錯誤がありました。

この記事では、私が携わった「わらびが丘自治会館」と「さちが丘1丁目自治会館」のプロジェクトを通じて、設計者としての挑戦や学びについてご紹介します。

設計に込めた想いと地域活動の役割

自治会館の設計は、地域住民が集い、コミュニティを築くための大切な場所を作る仕事です。限られた予算や敷地条件の制約、住民のさまざまな要望を調整しながら、設計者として最適解を模索していきます。

例えば、設計の工夫として、パッシブデザインの原則に習い、自然光を適切に取り入れる建物配置や窓の設計。勾配天井を採用することにより視覚的に開放感を演出し、大人数が集まる際の圧迫感を緩和する設計をしました。このようなデザインは、建物が地域に根付き、住民の生活を支える空間として機能するための重要なポイントです。

わらびが丘自治会館:地域を支える新たな拠点

わらびが丘自治会館のプロジェクトは、耐震改修か建て替えかを検討することから始まりました。建設委員会の立ち上げ前から相談を受け、建設委員会と協働し、地域住民へのアンケートを実施して多くの意見を取り入れながら要望書をまとめました。しかし要望書を満足する提案が無く、最終的には設計者として建物設計をすすめました。

変形敷地という課題の中で、可能な限り広いホールを確保することが主な目標でした。敷地形状と建物全体とのバランスを調整しながら設計をすすめ、多様な活動を支えるホール空間を実現しました。玄関位置については、敷地形状と高低差に合わせた設計をし、高齢者が多い利用者にとって利便性の高い提案しました。

わらびが丘自治会館のBIMモデルを俯瞰で表示したレンダリング画像。屋根を外した状態で内部構造が見え、中央に広いホールと周囲に部屋が配置された設計が分かる。
建物内部の構成や柱・梁の架構が確認できるBIMモデルの俯瞰レンダリング。地域の集会や行事が行われる広いホールを中心に、エントランスや多目的室の配置も視認できます。変形敷地に合わせたレイアウトの工夫も表れています。

完成後、この自治会館は地域住民の集いの場として機能し、子ども会主催のクリスマス会や冬休みの習字会といった地域活動が再び活発化しました。これらの活動の復活は、自治会館が地域コミュニティの拠点として重要な役割を果たしている証です。

詳細はこちら: わらびが丘自治会館の実例

さちが丘1丁目自治会館:地域の声を形にする

さちが丘1丁目自治会館のプロジェクトは、NPOサンデー木工クラブでの地域活動を通じて建設委員会へのアドバイザーに推薦されたことがきっかけでした。建設委員会との継続的な対話とアンケート調査を通じて、最終的には設計者として、住民の意見を反映した設計を進めました。

敷地候補が2か所あり、それぞれの特徴を活かす設計案を比較検討しました。公園に面した環境を最大限に活用するため、建物の配置や窓の設計に工夫をし、常に建物から公園の花壇が見え、公園に出入りしやすいような設計をしました。また、耐震性と使いやすさを両立させることを目指し、エントランスホールには居場所として利用できる本棚を設け、子ども達が気軽に集まれるように配慮しました。また、手洗い設備を設置することで清潔で快適な利用環境を実現しました。

公園の草花越しに見える、さちが丘1丁目自治会館の外観。掃き出し窓が並ぶ大ホールとエントランスが確認できる。
さちが丘1丁目自治会館の外観。公園内から建物全体を見渡すアングルで、地域と自然に開かれた設計がうかがえます。

完成後、地域の方々からは次のような感謝の手紙をいただきました:

「さちが丘1丁目自治会館が新築され、行事なども盛んに催されるようになり、この建物が地域に良い影響を与えております。建設にあたり、当初からのご協力、ご指導に心より感謝申し上げます。いいものが出来上がり、皆で喜んでおります。」

この手紙は、設計者としての努力が地域の活性化に貢献できた証であり、大きな励みにな、とても嬉しい出来ごとでした。

詳細はこちら: さちが丘1丁目自治会館の実例

地域とともに歩む設計者の挑戦

自治会館の設計では、住民の皆さんとの対話を通じて地域ごとのニーズを理解することの大切さを学びました。一方で、建設過程での制約や設計の変更など、思い通りにいかないことも多くありました。

それでも、プロジェクトを通じて地域住民と築いた関係や、設計に込めた想いが、建物の完成を超えて地域の未来につながっていると感じています。

最後に

わらびが丘自治会館では変形敷地を活かし、さちが丘1丁目自治会館では公園環境を活用するなど、それぞれの地域特性を最大限に反映させた設計をしました。

地域に根ざした設計を通じて、住民の皆さんと共に歩む建築を追求していきたいと考えています。地域の声を形にし、未来へとつなぐ建築設計。それが、私たち設計者の使命であり、喜びです。

2024年を迎え~新年のご挨拶に代えて~

元旦に発生致しました「令和6年能登半島地震」でお亡くなりになられた皆様に、先ずは被害に合われた皆様には謹んでお見舞いを申し上げます。

年明けから石川地震や日航機炎上事故のニュースが続き、お正月気分どころでは無かった方も多かったのではと思います

地震は自然災害の一つではありますが、台風のように事前対策がとれるような時間が無く、前触れ無しで突然襲いかかってきます。ですから備えは平時の時から備えていなくてはなりません。

対策としては建物の「耐震化」になりますが、新築建物と既存改修工事ではそれぞれの方法がありますが「構造計算」が必要となります。

また昭和56年以前の建物の耐震性はそれ以降の建物に比べて耐震性が低いと言われています。56年以降の建物が安全かと言えば、「4号特例問題」等があり、「構造計算」を行い安全性を確認するということがほとんど行われていない悲しい事実もあります。

地震による被災は予想ができません。ですが事前に検証をして対策することはできます。既存建物の「耐震化」も可能です。

数年前、富山の現場に通った時期があるのですが、黒瓦葺の屋根の建物が多く、建物のプロポーションも千葉の民家と違って洗練されていて、美しい街並みが印象的でした。

しばらくは現地からの速報を見守り、しかるべき時期に支援等の協力ができればと考えています。

2024年も大激動が予想されていますが、本年もよろしくお願いいたします。

生活工房の表現者たち

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生活工房さんの展示会を観てきました。

生活工房さんの作品は、知的・発達障害の方の創作活動、アール・ブリュット、アウトサイダー・アートと呼ばれています。

 

 

豊かな色彩、楽しくデフォルメされた形を見て ”そういえばこの部分こんな形してたな”。

繊細な表現の作品をみていると ”こんなふうに見えるよなあ”。

とか、たくさんの気づきがあり自然と笑顔に。

”こうやって素直に表現すればいいんだよなー”と気づかされます。

それよりも何よりもその豊かな色彩や形がとても気持ち良い。

 

また支援をされている方とお話をすることができました。

作品をつくるときもには皆さん 一人一人の個性を活かした支援をされているようです。

すべての作品が展覧会や水族館など実際に現地に足を運んだり、目で見たものを作品にしているそう。

展覧会に行ったり実際に体験することはとても時間がかかるけど、そのことが基になって作品の完成度を高めているのでしょう。丁寧に描かれている作品をみてそう想いました。

やっぱり、行ったつもりはやっぱり良くないなと私も反省…

もりんぴあこうづのギャラリーは、それぞれのの作品が映えるような広い展示スペースです。

展示の仕方も工夫されていて作品展としてもとても見応えがありました。

 

期間が1月30日(水)までと短いのですが是非足を運んでみてください 。

生活工房の表現者たち http://morinpiakozu.jp/event/seikatsukobo-7/

生活工房 http://www.narita-seikatsukobo.jp/

 

 

 

ブロック塀の改修:安全と景観を両立させた選択

Evernote Snapshot 20190113

ブロック塀への不安とご相談

2018年夏、自宅のブロック塀に対する不安を抱えた住まい手様から「どうにかなりませんか?」とのご相談がありました。特に小学校の通学路に面しており、塀の高さが1.8メートルほどある部分が心配だとのこと。また、ヒビが目立ち始めていたため、気になる部分が増えてきたとのことでした。

大阪の事故をきっかけに塀の安全性を見直す

2018年6月、大阪で発生したブロック塀の事故をきっかけに、住まい手様もご自身の塀について気になり始めたとのことです。

改修プランの検討

擁壁とブロック塀の現状

改修前

この塀は道路に3方向面しており、土地に高低差がありました。大谷石の土留めの上にコンクリートブロックが積まれており、古い開発地ならではの2段擁壁(ようへき)の形状をしていました。です。この地区は古い開発地で、残念ながら大谷石+コンクリートブロック2段擁壁が多いのです。

予算に合わせた提案と軽いフェンスの選択

改修前

完全な安全を目指すにはRC造(鉄筋コンクリート)で塀を作り直すことが理想ですが、予算の関係で現実的な選択肢を模索しました。上部3段をカットして軽いフェンスに変更する提案や、板塀や補助金の出る生垣の提案もしましたが、結果としてネットフェンスを選ばれました。

フェンスと生垣で庭の魅力を引き出す

モッコウバラ、ピラカンサの生垣になるのが楽しみです

住まい手様は樹木の手入れが好きな方で、ネットフェンスにモッコウバラを絡ませることで生垣にするのが楽しみとのことでした。

ピラカンサの日のあたらなかった部分も芽が出て生垣になります。

明るい日陰でリュウノヒゲしか定着しなかった花壇も、日当たりが良くなるので花を植えることできるので楽しみとの事でした。これにより庭の景観が一層豊かになり、ピラカンサの生垣も育つことで、外観が明るくなります。

 

改修後の効果

マキが根元から見えると雰囲気よし

庭の見通しと景観の改善
ネットフェンスに変更したことで、庭の樹木が通りから見えるようになり、庭の雰囲気が良くなりました。やはり庭、樹木は雰囲気をつくるのに需要ですね。

また、道路の角からの見通しが良くなったことで、運転がしやすくなり、ご近所からも好評でした。

工務店の経験とコスト削減
施工を担当した工務店は、2018年に同様の工事をいくつか経験しており、ブロック解体技術が向上したことで、見積もりよりも安価で工事を完了できました。

 外構工事と庭づくりの重要性

街並みを変える外構の工夫

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ブロック塀の改修工事は、安全性が第一です。建築の専門誌、日経アーキテクチュアでも2018年の10大ニュース第3位はブロック塀の倒壊事故でした。

そして上手に工事をすれば、街並みの雰囲気も変えることができます。庭をすべてコンクリート土間にしてしまった住まいも見かけますが、個人的には殺伐とした雰囲気を感じます。夏の照り返しもきついですしね。やはり造園工事は大切。樹木1本で全体の雰囲気が和らぎます。外構工事はアイデア次第で、住まいの魅力を引き立てることが可能です。

ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり

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ほしい暮らしは自分でつくる

千葉駅は駅ビルの建て替えがほぼ完了して賑わいを取り戻しています。ですが千葉パルコ、三越が閉館して通りに人が少なくなってきているようです。
古い建物が取り壊されコインパーキングに変わっていく景色は寂しいです。古い建物を上手に使えば楽しい仕組みが作れるのに残念です。
一方福岡では古い建物を上手に使い、まちづくりをしています。そんな福岡から始まったリノベーションまちづくりが全国各地で広がっています。

ぼくらのリノベーションまちづくり嶋田洋平氏講演会@千葉に参加してきました。リノベーションまちづくりについては書籍や雑誌でなんとなく内容は知っているつもりです。ですが、実践者の話を聞く事が一番参考になりますし、嶋田さんの人柄にも触れてみたいので、迷わず参加しました。80人のホールは満席。会場内は行政、民間の人が半々くらいでしょうか?顔見知りの人も何人かいらっしゃいました。

 

敷地に価値なし、エリアに価値あり

講演で気づいた事の要点です。

  • 地域を活性化する時に、行政からの補助金頼みは止め、自ら稼げるようになる。
  • 建物はそのままで中身、コンテンツをつくることを考える。
  • リノベーションまちづくりはコンテンツ作り。
  • 地域の価値が上がり資金の回収が見込めるようになってから資本を投入して改築、新築で効果を高める。
  • 地域の価値が高まると、人が集まり、コミュニティが復活する。
  • 次世代に地域を価値ある状態でバトンタッチする。
 ”敷地に価値なし、エリアに価値あり”  このことは呪文のように唱えてくださいと話されていました。
講演会を通して、嶋田氏の明るく、求心力のある人柄が魅力的でした。

数多くのプロジェクトをこなしてきただけあり、プレゼンテーションも簡潔で解り易かったです。プロジェクターに映し出される資料も明快で解り易い!

自分のメインスキルを考える

嶋田さんの日々の仕事に視点を移してみると、これからの自分の仕事について気づきがありました。
従来、建築設計事務所の業務内容は建物の設計・監理ですが、嶋田さんの業務では、その先の運営管理までも業務内容に入っています。
プロジェクトに対して、自ら借り入れを起こし貸借して返済に充てる等、従来の建築設計事務所でほとんど無かった業務をこなしています。

従来の仕事の枠を取り払い、自分のメインのスキルを生かしながら新しい分野に参入していく姿勢は今後の全ての仕事に必要だと思います。
個人で全てのジャンルの専門家になることは不可能ですから、仕事毎にプロジェクトを組みながら共働する体制になってくるわけです。

従来の仕事の枠がどんどん無くなっていく中、自分のメインスキルは何か?そのメインスキルで何が貢献できるか?が大切になってきます。

日々の仕事の中では目の前の業務をこなすことで精一杯、現状維持を続けたくなります。ですが、メインスキルを意識して少し軸をずらした仕事をしてみると、案外簡単に新しい分野に参入していくきっかけになりそうです。

まずは小さなステップから初めて見たいと思います。

点字名刺で広がる出会いと地域のつながり

点字名刺

仕事で初めて顔を合わせる際の名刺交換。
どんなにデジタル化が進んでも、名刺交換の文化はなくならないと感じています。

名刺の作り方にはさまざまな方法があり、それだけでも興味が尽きません。たとえば、ある材木店さんの名刺は、木材を紙のように薄く加工したものに印字されていました。
「これ、作るの高いんですよ」と笑顔で名刺の説明をしてくれたことを覚えています。

ほかにも、不定形のデザインや厚みのある紙、艶のある仕上げなど、名刺にはその人の個性が詰まっています。

ある仕事で視覚障害者の方とお付き合いする機会があり、その際に名刺に点字を入れることができると知りました。
それ以来、私の名刺には点字を取り入れています。

名刺交換の場面では、こんな会話をすることがよくあります。
「これは点字名刺なんですが、私、いつになっても読めなくて…。視覚障害の方は本当にすごいですね!」
このやり取りをきっかけに、相手が興味を持って点字について話題が広がることも少なくありません。

名刺には、点字で「サチソウゴウセッケイ」と表記されています。点字は視覚障害者にとって重要な情報手段であり、名前を指で読み取ることができる仕組みです。

点字名刺
点字で さ ち と記入されています。

点字の読み方に興味を持つ方も多く、名刺交換の際に「どうやって読むの?」という質問を受けることもあります。この名刺を通じて、点字の世界に少しでも触れていただけたら嬉しいです。

名刺作成をお願いした
「(社福)千葉県視覚障害者福祉協会 ワークショップ四街道」は、四街道市にある視覚障害者支援施設です。名刺交換のたびに、「地域でこんな施設があるんですね」と驚かれることもあります。

実は、私も名刺を作っていただくまでは知らなかったのですが、こうして地域の方々と関わりを持つ機会ができて、ちょっと嬉しく思っています。

きっと、あなたの住んでいる地域にも同じような施設があるはずです。ぜひ探してみてください。新しい出会いがきっとあると思います!