地域材とプレファブ建築の未来: モック工場の見学から考えるカウフマン流の可能性

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1. 見学を重ねて気づいた、大型パネル建築の可能性

(1) これからの住宅設計に求められるもの

近年、高性能住宅の需要が高まり、施工の精度や効率化がますます重要になっています。
そんな中、大型パネルを活用した「高断熱・高気密住宅の効率的な建設手法」が注目されています。

先日、私はモック工場を訪れ、大型パネル工法の最前線を見学しました。
ここでは、建築家の丸山弾さんと大工の天野さんが、木製サッシの造作と大型パネル施工を組み合わせる試みを行っており、設計と施工の連携がどのように進められるのか を間近で学ぶことができました。

この見学を通じて、大型パネル工法が単なる施工の効率化にとどまらず、「設計の自由度」や「地域材の活用」にも適応できる技術であることを改めて実感しました。

(2) 大工不足の地域でも可能性を広げる大型パネル建築

以前見学した丹波山村の村営住宅では、大型パネルを活用し、大工不足の地域でも短期間で高性能な住宅を建設する事例が実践されていました。

このプロジェクトでは、現場作業を最小限に抑えながら、施工精度の高い省エネ住宅を実現する仕組みが導入されており、
地域の職人不足という課題に対応する手法として、大型パネル工法の可能性が示されていました。

これは、全国的に大工不足が進む日本の建築業界にとっても大きな示唆を与えるものです。
特に、都市部だけでなく、地方の住宅建設にも大型パネルを活用することで、設計の柔軟性を損なわずに持続可能な家づくりが可能になると考えられます。

丹波山村村営住宅見学会レポート:大型パネル工法と地域材の未来

(3) 地域材と大型パネル建築の融合

今回の見学で印象的だったのは、モック工場では紀州材を活用した大型パネルが製造されていたことです。
しかし、千葉県にはサンブスギという地域材があるにも関わらず、まだ十分に活用されていないことに課題を感じました。

日本では、地域材の活用が進みにくい要因の一つとして、規格化されていない木材の安定供給の難しさが挙げられます。
しかし、大型パネル建築の技術が進化することで、地域材を標準化し、適切な品質管理のもとでプレカット・加工する仕組みが可能になるかもしれません。

過去のセミナーで学んだヘルマン・カウフマンの建築では、地域材を活用しながら「設計の柔軟性」と「施工効率の向上」を両立する手法が実践されていました。
この視点から考えると、日本の住宅設計においても「地域材 × 大型パネル建築」の組み合わせをもっと積極的に活用できる可能性があると感じました。

2. モック工場で得た知見

(1) 大型パネルの製造プロセスとそのメリット

私が訪れたモック工場では、大型パネルが工場内で精密に製作されています。工場という安定した環境で作業するため、現場での天候や施工状況の影響を受けず、高い品質が維持されています。
例えば、高断熱住宅では、従来の現場施工だとサッシの重量増や断熱材の追加により工事の負担が大きくなることが問題でした。しかし、ここで製作される大型パネルは、均一な品質と精度を実現し、現場での作業時間や労力を大幅に削減します。これは、住宅の省エネ性と施工効率の向上に直結する大きなメリットです。

(2) 建築家と大工の協働で生まれる設計の柔軟性

また、現場では建築家と大工が直接コミュニケーションをとりながら、外部の木製サッシを造作するプロセスが行われています。
例えば、丸山さんの設計図面に基づき、天野さんが実際の施工で最適な木取り方法を提案するなど、単なるマニュアル通りではなく、現場ならではの柔軟な対応が見受けられました。こうした協働は、規格化された大型パネル施工でも個性的な家づくりを実現する鍵となります。実際に、この手法を取り入れることで、住まいのデザインに自由度が生まれ、将来的には施主のニーズに合わせたカスタマイズも可能になると感じました。

(3) 地域材の活用と未来の建築への展望

さらに、塩地さんのレクチャーから、今後全国に大型パネル工場を展開し、地域の森林資源を活かすという先進的な取り組みを知りました。
この技術は、地域材(例えば、紀州材など)を利用することで、地元の林業を活性化しながら、同時に輸送距離を短縮してトラック輸送の問題を解消するというものです。実際、輸送距離が8時間以内であれば、物流の効率が大幅に向上し、現場での人手不足や施工の遅延にも対応できるとのことです。
こうした取り組みは、従来の工法とは一線を画し、将来の住宅づくりに大きな影響を与える可能性を秘めています。これからの住宅設計では、単に技術的な側面だけでなく、地域全体を巻き込んだ持続可能なアプローチが求められるでしょう。

3. カウフマン流プレファブ建築の分析

(1) 持続可能な建築の考え方

カウフマンが活動するフォアアールベルク州では、地域材の活用を前提にしたプレファブ建築が普及しています。
この地域では、工場で精密に加工された木材を用いることで施工精度を向上させ、同時にエネルギー消費を抑える というアプローチが進められています。

この手法は、地域経済の活性化にもつながるという点で注目されています。
たとえば、地域の森林資源を適切に管理しながら活用することで、環境負荷を減らしつつ持続可能な家づくり を実現できます。
これは、地域の木材を活かした省エネ住宅を求める日本の施主にも、非常に参考になる考え方です。

出典:Hermann Kaufmann Architekten: Architecture and Construction Details

(2) モック工場の取り組みとの共通点

現在の大型パネル工場では、施工精度の向上や現場での作業軽減 が実現されています。
この技術を全国に広げることで、輸送コスト削減・地域材の活用・職人不足の解消といった、日本の建設業界が抱える課題にも対応 できる可能性があります。

特に、日本ではトラックドライバーの労働規制強化によって、長距離輸送の負担が増えています。
大型パネルの生産を各地に分散させることで、輸送距離を短縮し、工期の安定化につなげることができるでしょう。

これは、フォアアールベルク州の成功モデルに近づく第一歩とも言えます。

出典:Hermann Kaufmann Architekten: Architecture and Construction Details

4. 新たな視点: 地域材とプレファブ工法の未来

今回の見学では、建築家と職人が協働しながら、新たな建築手法に挑戦している姿が印象的でした。
従来のプレファブ工法と違い、設計と施工がより密接に連携し、柔軟な対応が可能になることを実感しました。

また、フォアアールベルク州のカウフマン建築と比較すると、
日本の地域ごとの特性を活かしたプレファブ建築のあり方を考える必要があると感じました。

  • 千葉県における大型パネル工場の活用
  • JAS製材の品質管理と流通体制の整備
  • 地域材の供給網の確立

など、まだ多くの課題はありますが、地域材×プレファブ工法が日本の建築業界に与える影響は大きいと確信しています。

5. これからの建築と地域材の可能性

(1) これからのプレファブ建築

気候変動や地球温暖化への対応として、住宅の省エネ化と高性能化は今後さらに求められるようになります。
その一方で、断熱性能の向上や高性能サッシの採用により、住宅の重量が増加し、大工の負担も増しているのが現状です。

この課題に対して、プレファブ建築(大型パネル工法)を活用することで、施工負担を軽減しつつ、高い品質を維持する という解決策が考えられます。
具体的には、工場で高精度に加工された大型パネルを使用することで、断熱・気密性能を確保しながら、現場での組み立て作業を効率化することが可能になります。

つまり、大型パネル工法は、「省エネで快適な住まいを実現するだけでなく、施工の効率化や品質向上にも貢献する」 新しい家づくりの形として注目されているのです。

大型パネルの建て方

(2) 日本での活用のヒント

日本の建築業界においても、地域材×プレファブ技術の融合 は、今後の住宅設計の大きなテーマになり得ます。
すでに、ウッドステーションの塩地さんが全国に大型パネル工場を展開し、地域材の活用を促進する計画 を進めています。

この動きが広がることで、以下のようなメリットが期待できます。

  • 地域材の活用が進み、林業の活性化につながる
    → これまで利用されにくかった地域の森林資源を有効活用できる
  • JAS製材などの品質管理が標準化され、流通がスムーズになる
    → 一定の品質基準を持つパネルを安定供給しやすくなる
  • 施工効率が向上し、工務店や職人の負担を軽減できる
    → 施工の均一化により、作業の負担を軽くし、工期の短縮にもつながる

特に、「地域材を活かしつつ、設計の自由度を損なわない家づくり」が実現できる点は、今後の住宅設計にとって重要なポイントです。

(3) 設計にどう活かすか

今回のモック工場での見学では、大型パネル工法は設計の自由度を損なうものではなく、むしろ柔軟なデザインを可能にする技術であることを改めて実感しました。

特に、大工による造作建具の取り付けプロセスを大型パネルと組み合わせる試みを目の当たりにし、「工業化された建築」ではなく、「職人の技術と組み合わせた新しい住宅づくり」が可能であることがわかりました。

この技術を設計に活かすことで、以下のようなメリットが考えられます。

大型パネル+造作サッシ

地域材の活用 × 施工精度の向上

工場で加工された精密な大型パネルを使用することで、施工誤差を減らし、現場の負担を軽減できます。さらに、地域材を活かしたパネル設計により、木の質感や断熱性能を最大限に活かした住宅が実現できます。

建築家と大工の協働によるデザインの柔軟性

今回の取り組みでは、建築家の設計意図を大工が適切に解釈し、大型パネル化して施工するという流れが印象的でした。これにより、従来のプレファブ住宅のように「決まった形の家を作る」のではなく、施主の要望に応じた自由なデザインが可能になります。

高性能住宅と効率化の両立

大型パネル工法では、高断熱・高気密な住宅を、工期を短縮しながら高精度で建設できます。施工のばらつきを抑え、現場の負担を減らしながら、快適な住まいを実現することが可能です。

地域材を活かしながら、高性能かつ自由な設計を実現できる大型パネル工法。
今後の設計では、これらの技術をどのように活用するかが重要な鍵となります。

とめ

大型パネル工法は、単に施工効率を上げるためのものではなく、地域材を活かしながら、省エネ住宅の可能性を広げる手法として、今後の住宅設計に大きく貢献できる技術です。

今回の見学を通じて、施工精度の向上や現場での作業軽減だけでなく、設計の自由度を確保しながら、将来的には地域材を活用する方法もある ことが分かりました。

また、地域ごとに異なる木材やデザインを活かした大型パネル工法が可能になれば、これまで「工業化された建築」として見られていたプレファブ建築のイメージが変わり、より柔軟で持続可能な住宅設計が実現できる可能性があります。

もし、地域材を活かした高性能な家づくりに興味がある方 は、ぜひ一緒に最適な設計を考えていければと思います。

👉 大型パネル工法と地域材の活用について、詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

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コミュニティを築く建築:自治会館に込めた想い

これまで携わった自治会館の設計プロジェクトでは、地域社会とのつながりを深め、その声を形にすることを目指してきました。自治会館の設計は、地域住民との対話を通じてその未来を築くやりがいのある仕事であり、その裏には多くの課題と試行錯誤がありました。

この記事では、私が携わった「わらびが丘自治会館」と「さちが丘1丁目自治会館」のプロジェクトを通じて、設計者としての挑戦や学びについてご紹介します。

設計に込めた想いと地域活動の役割

自治会館の設計は、地域住民が集い、コミュニティを築くための大切な場所を作る仕事です。限られた予算や敷地条件の制約、住民のさまざまな要望を調整しながら、設計者として最適解を模索していきます。

例えば、設計の工夫として、パッシブデザインの原則に習い、自然光を適切に取り入れる建物配置や窓の設計。勾配天井を採用することにより視覚的に開放感を演出し、大人数が集まる際の圧迫感を緩和する設計をしました。このようなデザインは、建物が地域に根付き、住民の生活を支える空間として機能するための重要なポイントです。

わらびが丘自治会館:地域を支える新たな拠点

わらびが丘自治会館のプロジェクトは、耐震改修か建て替えかを検討することから始まりました。建設委員会の立ち上げ前から相談を受け、建設委員会と協働し、地域住民へのアンケートを実施して多くの意見を取り入れながら要望書をまとめました。しかし要望書を満足する提案が無く、最終的には設計者として建物設計をすすめました。

変形敷地という課題の中で、可能な限り広いホールを確保することが主な目標でした。敷地形状と建物全体とのバランスを調整しながら設計をすすめ、多様な活動を支えるホール空間を実現しました。玄関位置については、敷地形状と高低差に合わせた設計をし、高齢者が多い利用者にとって利便性の高い提案しました。

わらびが丘自治会館のBIMモデルを俯瞰で表示したレンダリング画像。屋根を外した状態で内部構造が見え、中央に広いホールと周囲に部屋が配置された設計が分かる。
建物内部の構成や柱・梁の架構が確認できるBIMモデルの俯瞰レンダリング。地域の集会や行事が行われる広いホールを中心に、エントランスや多目的室の配置も視認できます。変形敷地に合わせたレイアウトの工夫も表れています。

完成後、この自治会館は地域住民の集いの場として機能し、子ども会主催のクリスマス会や冬休みの習字会といった地域活動が再び活発化しました。これらの活動の復活は、自治会館が地域コミュニティの拠点として重要な役割を果たしている証です。

詳細はこちら: わらびが丘自治会館の実例

さちが丘1丁目自治会館:地域の声を形にする

さちが丘1丁目自治会館のプロジェクトは、NPOサンデー木工クラブでの地域活動を通じて建設委員会へのアドバイザーに推薦されたことがきっかけでした。建設委員会との継続的な対話とアンケート調査を通じて、最終的には設計者として、住民の意見を反映した設計を進めました。

敷地候補が2か所あり、それぞれの特徴を活かす設計案を比較検討しました。公園に面した環境を最大限に活用するため、建物の配置や窓の設計に工夫をし、常に建物から公園の花壇が見え、公園に出入りしやすいような設計をしました。また、耐震性と使いやすさを両立させることを目指し、エントランスホールには居場所として利用できる本棚を設け、子ども達が気軽に集まれるように配慮しました。また、手洗い設備を設置することで清潔で快適な利用環境を実現しました。

公園の草花越しに見える、さちが丘1丁目自治会館の外観。掃き出し窓が並ぶ大ホールとエントランスが確認できる。
さちが丘1丁目自治会館の外観。公園内から建物全体を見渡すアングルで、地域と自然に開かれた設計がうかがえます。

完成後、地域の方々からは次のような感謝の手紙をいただきました:

「さちが丘1丁目自治会館が新築され、行事なども盛んに催されるようになり、この建物が地域に良い影響を与えております。建設にあたり、当初からのご協力、ご指導に心より感謝申し上げます。いいものが出来上がり、皆で喜んでおります。」

この手紙は、設計者としての努力が地域の活性化に貢献できた証であり、大きな励みにな、とても嬉しい出来ごとでした。

詳細はこちら: さちが丘1丁目自治会館の実例

地域とともに歩む設計者の挑戦

自治会館の設計では、住民の皆さんとの対話を通じて地域ごとのニーズを理解することの大切さを学びました。一方で、建設過程での制約や設計の変更など、思い通りにいかないことも多くありました。

それでも、プロジェクトを通じて地域住民と築いた関係や、設計に込めた想いが、建物の完成を超えて地域の未来につながっていると感じています。

最後に

わらびが丘自治会館では変形敷地を活かし、さちが丘1丁目自治会館では公園環境を活用するなど、それぞれの地域特性を最大限に反映させた設計をしました。

地域に根ざした設計を通じて、住民の皆さんと共に歩む建築を追求していきたいと考えています。地域の声を形にし、未来へとつなぐ建築設計。それが、私たち設計者の使命であり、喜びです。

2025年 新年のご挨拶:持続可能な住まいづくりを目指して

リステル猪苗代スキー場から望む猪苗代湖と周囲の雪景色。雪に覆われた平野、静かな湖面、そして澄み切った青空が広がる冬の絶景
リステル猪苗代スキー場から望む、元旦の猪苗代湖。雪に覆われた大地と澄み渡る青空が、新しい一年を望む希望と静けさを感じました

新しい年を迎えるにあたり、今年も自然素材や持続可能な住まいづくりの情報を皆さまにお届けしてまいります。
私たちの設計事務所は1月6日(月)より営業を開始いたします。

年賀状を木版画で制作していた時代から、現在ではAI画像生成など、時代とともに表現方法は進化してきました。この画像も生成AIに依頼して制作したものです。
新しいテクノロジーを活用しつつ、先人たちの知恵や技術を尊重しながら、より良い設計を目指していきたいと思います。

本年も皆さまにとって良い年になりますように!

自然素材で実現する快適空間:持続可能な住まいづくり

自然素材で仕上げた壁や天井は、ただ美しいだけでなく、住む人の健康と環境にも配慮した選択です。また時間とともに美しく経年変化する様子も楽しめます。

住まいの壁や天井を、環境に優しい自然素材で仕上げる選択が注目されています。中でも、日本エムテクスの「ビーナスコート」は、アップサイクル素材を使用し、持続可能な住まいづくりに貢献する製品として人気を集めています。本記事では、ビーナスコートの特性や施工例、環境面でのメリットをご紹介します。

ビーナスコートの特徴と魅力

『卵からうまれた仕上げクリーム』というキャッチフレーズが示すように、ビーナスコートの主原材料は「卵の殻」と「火山灰」です。この2つの材料が持つユニークな特性を活かし、以下のような特徴があります:

  • 美観と経年変化:
    • 自然素材ならではの質感と、時間とともに味わいが増す特徴が魅力です。
  • 意匠性の高さ:
    • 塗装でも左官仕上げでも施工可能で、ローラーやコテ、吹付けなど、施工方法を選ばない柔軟性があります。ビーナスコートを施工する際には、下地処理が特に重要です。下地が均一でないと仕上がりに影響が出るため、適切な補修を行うことが不可欠です。

「卵の殻」と「火山灰」のどちらも、本来廃棄される材料をアップサイクルして活用しており、地球環境に負荷をかけない製品と言えます。

ビーナスコートの機能として、調湿効果や臭気吸着効果が挙げられます。ただし、これらは単独で大きな効果を期待するものではなく、エアコンや換気設備を補完する役割と考えると現実的です。それよりも、自然素材の美しさや経年変化による味わいが住まい全体の価値を高める大きな要因となります。

自然素材の仕上げは初期費用がかかる場合がありますが、経年変化による味わいが生まれることで、結果的にコストパフォーマンスが良い選択となることが多いです。コストが気になる場合は、壁はビーナスコート、天井はオガファーザー仕上げといった組み合わせもおすすめです。

サンブスギのような無垢材の床仕上げとの相性も良いビーナスコートは、空間全体を調和の取れたものに仕上げます。

日本エムテクスの取り組みとアップサイクルの価値

日本エムテクスの製品開発の根底には、「資源循環型社会づくりへの貢献」という理念があります。同社は廃棄される材料をアップサイクルして製品化することを得意としており、その取り組みには深い共感を覚えます。

「新しい素材を使わず、既存の資源を活かして作る」という発想は、持続可能な社会の実現に必要不可欠な考え方です。ビーナスコートのような素材は、環境負荷を抑えつつ美しい仕上がりを実現できるため、住宅設計において重要な選択肢となります。

壁・天井を自然素材で仕上げるメリット

自然素材を選ぶことで、以下のような多くのメリットが得られます:

  1. 美観と経年変化:
    • 自然素材ならではの美しさと、時を経るごとに味わいが増す特性。
    • 例えば、リビングルームの壁にビーナスコートを使用した際、昼間の自然光を受けて壁が柔らかな光沢を放ち、落ち着いた空間を演出しました。夜間はブラケット照明の間接光が優しく写し出される影のグラデーションも美しく感じます。
  2. 意匠性の高さ:
    • 部屋全体の統一感と自然な風合いが得られます。
  3. 環境負荷の軽減:
    • 輸送距離の短縮やリサイクル材料の使用により、環境への負担を軽減。

結論: 自然素材で未来を創る住まい

自然素材を壁や天井に取り入れることで、住まいに健康的で心地よい空間を提供し、持続可能な社会にも貢献できます。

自然素材は新建材と比較をするとコストアップになりますが、工夫をすることで取り入れることも可能になりますので、是非検討してみてください。例えば、天井にはオガファーザー仕上げを採用することで、コストを抑えつつ美観を保つことができます。

これからの住まいづくりを考える際には、環境にも住む人にも優しい選択肢として、自然素材を取り入れるアイデアをぜひ取り入れてみてください。

敷地と環境を活かす建築デザイン: シミュレーションの力

建築デザインのプロセスでは、シミュレーションが理想の形を見つけるために重要な役割を果たします。
理想の形を実現するには、好みのスタイルや建築法規など、さまざまな要件があります。しかし、シミュレーションは自然環境を十分に活かすために欠かせないツールです。

例えば、あるプロジェクトでは、周囲を建物に囲まれた敷地が課題となりました。

そこで、日影シミュレーションを活用することで、採光を確保できる建物配置を見つけることができました。

このように、周辺環境の影響を把握するためには、シミュレーションが欠かせません。

建物の外皮性能(断熱材の厚さ)やUa値だけでは、燃費の良い建物は実現できません。
例えば、冬季に十分な太陽光を取り入れるための南向きの窓配置や、夏季の強い日射を遮る庇(シェーディング)の設計は、シミュレーションを通じた確認があって初めて適切に行えます。
パッシブハウスの設計では、断熱や気密などを重視した5つの基本原則があります。この5原則に加え、太陽光をどのように取り入れ、遮るかというバランスも重要なポイントです。

こうしたプロセスを経て、自然環境を最大限に活かした建物配置を実現しました。
シミュレーションは、理想のデザインを形作るための強力なサポートツールです。技術を活かして、より快適で持続可能な住まいを目指していきたいですね。

本記事では、シミュレーションの重要性について概要をお伝えしました。具体的な実例については、追記していく予定ですので、引き続きご覧いただければ幸いです。

— #建築デザイン #シミュレーションの力 #パッシブハウス

厳しい規制の中で生まれる創造性:カウフマン建築が教えること

240926 KHさん

先日投稿しました建築家ヘルマンカウフマン氏の講演会の続きになります。
今回の記事では、竹中工務店との協力による日本の施工現場での実践例に注目しました。

一方、前回の記事では、ウッドステーションやモックの技術進化について触れています。それらの技術が背景にあることで、本記事で取り上げるパッシブタウン第5期街区の事例にも、さらに深い意義が生まれています。


(※前回の講演記事はこちら

施工技術と設計哲学:パッシブタウン第5期街区

 YKK不動産が推進する「パッシブタウン」プロジェクトの最終街区が公開されました。このプロジェクトは、富山県産材を87%使用し、脱炭素建築を目指しています。RCコア構造により地震力を軽減し、耐火性を備えた木質ハイブリッド構造が特徴。Power to Gas技術やプレファブ工法の活用による効率的な省エネ設計が、持続可能な社会への一歩として注目されています。 

出所:YKK不動産、竹中工務店

記事のリンクはこちらから

木質ハイブリッド構造でつくる最先端の脱炭素建築(※日経クロステックより要約)」

YKK Passivetown, Kurobe Hermann Kaufmann + Partner ZT GmbHより


環境と技術の最適解を求めて

カウフマン氏の日本の地震に対する法規や消防法への対応は、非常に大変だったとのことでした。(通訳の方が訳した「消防法」という言葉は、おそらく「防火規定」を指しているのでしょう)

講演中にカウフマン氏の基本図面と実施図面を比較する機会がありました。センターコアの占める割合や厚さ、カーテンウォールの厚さなどが大きく異なり、これらを比較することで、日本の規制が建築デザインに与える影響を具体的に理解することができました。またオーストリアのフォアアールベルク州にあるLifeCycle Tower (LCT ONE)との比較も行われ、コア(LCT ONEでは片側偏心コアでしたが)の割合の違いは一目瞭然でした。


カウフマン氏の設計では、スラブの薄さやカーテンウォールの軽やかさがとても魅力的ですが、日本の厳しい耐震・防火規定により、設計の見直しが必要となりました。その中で、竹中工務店と協力し、RCコアを増強しつつも木材の活用を最大限に引き出したハイブリッド構造という革新的な解決策が生まれました。

出所:YKK不動産、竹中工務店


建築設計において、与えられた条件の中で最適解を導き出すプロセスは、単なる制約への対応ではなく、新たな価値を創造する機会となります。このパッシブタウン第5期街区プロジェクトは、まさにその典型例といえるでしょう。このような厳しい制約の中から、新しいアイディアを生み出している姿勢がとても印象的でした。


施工中の雨とプレファブ工法の役割

また、カウフマン氏は講演では、施工中の雨による木材の濡れを極力避けることの重要性についても触れていました。木材は湿気を含むことで品質が低下する可能性があるため、建材の搬入スケジュールや現場の雨対策が設計と同じくらい重要だと強調しています。

オーストリアと比較し、『施工途中で雨が降っても雨漏りしない』という竹中工務店の施工技術を高く評価していました。この点は、日本の施工現場における優れた管理体制と技術力を象徴していると言えます。日本の施工現場では、雨のリスクを避ける工夫が投稿などで話題になるように、雨対策は日本の施工現場において、重要な管理項目の一つです。日本の施工体制の素晴らしいポイントの一つです。

迅速施工を実現するため採用されたプレファブ工法には、木材を湿気から守りながら作業効率を上げるという、カウフマン氏の哲学が反映されています。

出典:Hermann Kaufmann Architekten: Architecture and Construction Details

持続可能な技術としての可能性


カウフマン氏の設計は、シンプルなデザインと精緻なディテールなど、その意匠面に注目が集まりがちです。ですが、その設計を実現するために、直面した条件から逃げず、粘り強く問題解決を重ねるカウフマン氏の姿勢に強い印象を受けました。

竹中工務店の雨対策や迅速施工の技術は、プレファブ工法の可能性をさらに広げ、日本独自の建築価値をさらに深化させました。また、カウフマン氏が示した厳しい規制の中で創造性を発揮する設計哲学は、私たちの未来の建築を導く重要な示唆に満ちています。この技術の進化は、単なる効率化ではなく、持続可能な社会に向けた新しい価値創造の一環です。こうした建築の可能性を、私たちの生活や環境にどのように活用できるのか、一緒に考え続けたいと思います。

前回の記事はこちらからどうぞ

2024年を迎え~新年のご挨拶に代えて~

元旦に発生致しました「令和6年能登半島地震」でお亡くなりになられた皆様に、先ずは被害に合われた皆様には謹んでお見舞いを申し上げます。

年明けから石川地震や日航機炎上事故のニュースが続き、お正月気分どころでは無かった方も多かったのではと思います

地震は自然災害の一つではありますが、台風のように事前対策がとれるような時間が無く、前触れ無しで突然襲いかかってきます。ですから備えは平時の時から備えていなくてはなりません。

対策としては建物の「耐震化」になりますが、新築建物と既存改修工事ではそれぞれの方法がありますが「構造計算」が必要となります。

また昭和56年以前の建物の耐震性はそれ以降の建物に比べて耐震性が低いと言われています。56年以降の建物が安全かと言えば、「4号特例問題」等があり、「構造計算」を行い安全性を確認するということがほとんど行われていない悲しい事実もあります。

地震による被災は予想ができません。ですが事前に検証をして対策することはできます。既存建物の「耐震化」も可能です。

数年前、富山の現場に通った時期があるのですが、黒瓦葺の屋根の建物が多く、建物のプロポーションも千葉の民家と違って洗練されていて、美しい街並みが印象的でした。

しばらくは現地からの速報を見守り、しかるべき時期に支援等の協力ができればと考えています。

2024年も大激動が予想されていますが、本年もよろしくお願いいたします。

仕事始めの前に美術館へ

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新年が開けてから2週間も経ってしまいました。この調子でこの1年もアッと言うまに過ぎてしまいそうです。

仕事始めの前に久しぶりに川村美術館へ。ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960–70年代美術を見てきました。川村美術館へは車で30分ほど。庭園も綺麗で気分転換にもなるので好きな場所です。

生憎、この日は関東に大雪警報が発令された日。出かける時から雪が降り始めていて美術館に到着した時は薄っすら雪が積もり始めてました。おお、ミニマル・アートを鑑賞するにはモノクロの景色が美しいではないか!とのんきに喜んでいたのですが、なんと入館してから1時間で臨時閉館になってしまいました。

常設展をパスして企画展から見学し始めたのですが流石に時間が足りません。その短い時間でもカール・アンドレの作品『雲と結晶』は貴重な体験。ピンコロ石くらいのサイズの鉛の立法体を整列させて立方体をつくり、対比として同数の立方体を散らばしている作品です(川村美術館のチラシを参照してください)観かたによっては美術館の広いフロアに鉛の立方体を並べているだけなのですが、散らばった物体と整列した物体の間を行き来して作品の間を歩いていると不思議な感覚が呼び起されます。ミニマルアートは観ることで「イメージ」を呼び起こすのではなくて、その場に身体をおくことで「感覚」を知覚させるものと覚えています。何事もそうですが現地に足を運んで体験することでしか解からない事がたくさんあるもの。短い時間でしたが カール・アンドレ の展示空間を体感できてだけでも良かったと思います。また、この展覧会は巡回展なので他の美術館ではどのようになっているのか興味があります。

美術館の外にでてみると真っ白の雪景色。佐倉は千葉県内では気温が低い地域なので早めの休館は正解だったと思います。帰路も雪に馴れない車ですでに渋滞気味でした。

帰ってからもお楽しみは続きます。カタログはミニマル/コンセプチュアルらしいシンプルな装丁。 全作品の解説がありそうな充実した内容で読むのに一苦労しそう。きっと時間がたくさんあっても理解できなかっただろうな。

改めて川村美術館のWEBサイトを眺めているとSpotifyプレイリストで「ミニマル・ミュージック」が紹介されていました(選曲はトクマルシューゴさん)。知らない曲も沢山ありで、お気にいりのプレイリストが加わりました。美術館も鑑賞するだけではなくて伝えるために様々な工夫をして進化してるんだなぁ。学芸員さんすごいな、見習って頑張ろう。

美術館から始まった一年。良い仕事ができるように取り組んでいきたいと思います。改めてよろしくお願いいたします

年末年始の休業日のお知らせ

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本年は大変お世話になりました。 
 
(有)幸総合設計は、2021年12月29日(水)より2021年1月6日(木)まで、年末年始休業とさせていただきます。 
 
今年も新型コロナウイルスの影響を受けて活動に様々な影響を受けた一年でした。
残念ながら「withコロナ」の状況はしばらく続きそうですができることを続けていきたいと思います。

そんな中でPHJ10周年記念誌が届きました。
コロナウイルスの影響で記念大会を開催することができないのでこちらの記念誌を作成したとのことです。
私たちは2018年の1月からパッシブハウス・ジャパンの賛助会員となっています。残念ながらパッシブハウスの実現はかなっていませんが、機会がありましたら是非チャレンジしたいと考えています。
年末年始は記念誌をじっくりと読んで過ごしたいと思います。
なおこちらの記念誌ですが、一般販売の予定がありません。もし気になるようでしたらお近くに賛助会員にお問合せください。

本年は満足のいく活動ができませんでした。
来年も変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

3.11に改めて思うこと

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週末の3月9日、10日、中学生の次男とその友達、男3人で福島へスキー旅をしてきました。

我が家のホームゲレンデは震災前から福島だったのですが、震災後も福島復興へ少しでも貢献できればと今もホームゲレンデは福島です。

 

 

震災前はスノースクール で多くの学校が訪れていたスキー場でしたが、震災以降、ほとんどんの学校が他県に振替をしたとのことです。同じウェアを着た子ども達が、きゃあきゃあ言いながら楽しそうにゲレンデで転がりまくっている姿は微笑ましかったなあ。
さらに今年は暖冬の影響もあり雪が少なく、週末でしたがスキー場は人が少なく何となく寂しい感じがしました。

今日は3月11日。

朝から震災後の復興のニュースが沢山ありました。
ですが現地を訪れると、まだまだこれからのように感じます。

建築に携わる実務者として「安心・安全な建物」をつくることは使命のようなもの。
そのためには、やれること、できることを少しづつ重ね、前進していこうと3月11日に改めて思います。