高断熱高気密住宅で快適な冬を過ごすための3つの設計ポイント

高断熱高気密住宅は、光熱費を抑えながら快適な室内環境を実現する住まいです。しかし、その性能を最大限に発揮するためには、設計段階での丁寧なシミュレーションが欠かせません。本記事では、シミュレーションを活用しながら理想の住まいを実現するための3つのポイントをご紹介します。

1.窓の選定は性能と景観のバランスが鍵

窓は住宅の中で最も熱が逃げやすい部分であり、その配置や性能が建物全体の快適性に大きな影響を与えます。加えて、窓は外の景色を取り込む役割もあるため、設計時に慎重な検討が求められます。

実例: シミュレーションで導く納得とは

提案した設計に対してクライアントからの追加希望も少なくありません。希望された追加窓についてシミュレーションを行ったところ、隣家の外壁しか見えず、明るさも期待できないだけではなく、全体性能も低下することが判明し、結果的に諦めるようなケースもあります。今までの住まいの経験から”この位置に窓が欲しい”と望まれるのは理解できますし、もし景観が良い窓でしたら性能よりも景観を優先する可能性もあります。ですが判断材料が無い説明よりも、シミュレーションでの比較により、納得した選択をすることが可能です。

2.千葉県特有の気候を考慮した設計

千葉県は比較的温暖な地域ですが、内陸部と沿岸部では気候条件に大きな差があります。この違いを考慮し、基本設計段階からシミュレーション時に適切な気象観測所データを用いることが、効率的で快適な住宅づくりの鍵となります。

千葉県の気候条件のポイント

  • 夏: 内陸部では年間で30℃を超える日が50日以上に及び、沿岸部では30日未満と大きな差があります。
  • 冬: 内陸部は最低気温0℃未満の日数が年間60日を超えるのに対し、沿岸部では6日程度と少ないです。
出典:銚子地方気象台HP 千葉県の気象特性

3.各部材のトレードオフを理解する

高断熱高気密住宅の設計では、サッシ性能と換気システムなど、それぞれの性能やコストのバランスを取ることが、全体性能を最適化するうえで重要です。

実例: サッシと換気システムの予算調整

事前の家づくりの勉強で色々と調べた結果、トリプルガラス+樹脂サッシを希望していたクライアントが来所されました。寒冷地ではトリプルガラス+樹脂サッシが絶対条件の可能性がありますが千葉県では状況が少し変わります。トリプルガラス+樹脂サッシ、3種換気の条件から、シミュレーションを繰り返し、ペアガラス+樹脂サッシへ変更、その差額で熱交換気への変更が可能になり、燃費が若干向上し、建物全体のコストパフォーマンスが向上する結果になったこともあります。

まとめ: 基本設計でもシミュレーションを活用する重要性

高断熱高気密住宅では、「たたき台」と呼ばれるような初期案は成り立ちません。性能を追求する住宅では、あらゆる選択肢がシミュレーションによって裏付けられたものでなければ、真の快適性や効率性を実現することは難しいからです。

基本設計の段階で、建物形状、方位、窓や断熱材、換気システムの選定など、一つひとつの要素をシミュレーションで検証しながら進めることで、住まい全体のバランスを最適化します。このプロセスを丁寧に行うことが、高断熱高気密住宅の成功を決定づけます。

設計者と十分に対話を重ね、生活スタイルや予算に応じた最適解を探るプロセスをぜひ大切にしてください。シミュレーション結果を共有しながら、一緒に理想の住まいを作り上げていきましょう。

「どのように選べば良いか」と迷う方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。設計段階での適切なサポートを通じて、快適で効率的な住まいづくりをお手伝いします。

補足: Q&A形式の記事の案内

「窓の配置や性能をどう選ぶべき?」「熱交換換気の導入コストは?」など、よくある疑問をまとめたQ&A記事も準備中です。

具体的なご質問があれば、お気軽にお問い合わせください。

コミュニティを築く建築:自治会館に込めた想い

これまで携わった自治会館の設計プロジェクトでは、地域社会とのつながりを深め、その声を形にすることを目指してきました。自治会館の設計は、地域住民との対話を通じてその未来を築くやりがいのある仕事であり、その裏には多くの課題と試行錯誤がありました。

この記事では、私が携わった「わらびが丘自治会館」と「さちが丘1丁目自治会館」のプロジェクトを通じて、設計者としての挑戦や学びについてご紹介します。

設計に込めた想いと地域活動の役割

自治会館の設計は、地域住民が集い、コミュニティを築くための大切な場所を作る仕事です。限られた予算や敷地条件の制約、住民のさまざまな要望を調整しながら、設計者として最適解を模索していきます。

例えば、設計の工夫として、パッシブデザインの原則に習い、自然光を適切に取り入れる建物配置や窓の設計。勾配天井を採用することにより視覚的に開放感を演出し、大人数が集まる際の圧迫感を緩和する設計をしました。このようなデザインは、建物が地域に根付き、住民の生活を支える空間として機能するための重要なポイントです。

わらびが丘自治会館:地域を支える新たな拠点

わらびが丘自治会館のプロジェクトは、耐震改修か建て替えかを検討することから始まりました。建設委員会の立ち上げ前から相談を受け、建設委員会と協働し、地域住民へのアンケートを実施して多くの意見を取り入れながら要望書をまとめました。しかし要望書を満足する提案が無く、最終的には設計者として建物設計をすすめました。

変形敷地という課題の中で、可能な限り広いホールを確保することが主な目標でした。敷地形状と建物全体とのバランスを調整しながら設計をすすめ、多様な活動を支えるホール空間を実現しました。玄関位置については、敷地形状と高低差に合わせた設計をし、高齢者が多い利用者にとって利便性の高い提案しました。

わらびが丘
BIMモデル

完成後、この自治会館は地域住民の集いの場として機能し、子ども会主催のクリスマス会や冬休みの習字会といった地域活動が再び活発化しました。これらの活動の復活は、自治会館が地域コミュニティの拠点として重要な役割を果たしている証です。

詳細はこちら: わらびが丘自治会館の実例

さちが丘1丁目自治会館:地域の声を形にする

さちが丘1丁目自治会館のプロジェクトは、NPOサンデー木工クラブでの地域活動を通じて建設委員会へのアドバイザーに推薦されたことがきっかけでした。建設委員会との継続的な対話とアンケート調査を通じて、最終的には設計者として、住民の意見を反映した設計を進めました。

敷地候補が2か所あり、それぞれの特徴を活かす設計案を比較検討しました。公園に面した環境を最大限に活用するため、建物の配置や窓の設計に工夫をし、常に建物から公園の花壇が見え、公園に出入りしやすいような設計をしました。また、耐震性と使いやすさを両立させることを目指し、エントランスホールには居場所として利用できる本棚を設け、子ども達が気軽に集まれるように配慮しました。また、手洗い設備を設置することで清潔で快適な利用環境を実現しました。

さちが丘1丁目自治会館 – 公園内から建物を観る

完成後、地域の方々からは次のような感謝の手紙をいただきました:

「さちが丘1丁目自治会館が新築され、行事なども盛んに催されるようになり、この建物が地域に良い影響を与えております。建設にあたり、当初からのご協力、ご指導に心より感謝申し上げます。いいものが出来上がり、皆で喜んでおります。」

この手紙は、設計者としての努力が地域の活性化に貢献できた証であり、大きな励みにな、とても嬉しい出来ごとでした。

詳細はこちら: さちが丘1丁目自治会館の実例

地域とともに歩む設計者の挑戦

自治会館の設計では、住民の皆さんとの対話を通じて地域ごとのニーズを理解することの大切さを学びました。一方で、建設過程での制約や設計の変更など、思い通りにいかないことも多くありました。

それでも、プロジェクトを通じて地域住民と築いた関係や、設計に込めた想いが、建物の完成を超えて地域の未来につながっていると感じています。

最後に

わらびが丘自治会館では変形敷地を活かし、さちが丘1丁目自治会館では公園環境を活用するなど、それぞれの地域特性を最大限に反映させた設計をしました。

地域に根ざした設計を通じて、住民の皆さんと共に歩む建築を追求していきたいと考えています。地域の声を形にし、未来へとつなぐ建築設計。それが、私たち設計者の使命であり、喜びです。

自然素材で実現する快適空間:持続可能な住まいづくり

自然素材で仕上げた壁や天井は、ただ美しいだけでなく、住む人の健康と環境にも配慮した選択です。また時間とともに美しく経年変化する様子も楽しめます。

住まいの壁や天井を、環境に優しい自然素材で仕上げる選択が注目されています。中でも、日本エムテクスの「ビーナスコート」は、アップサイクル素材を使用し、持続可能な住まいづくりに貢献する製品として人気を集めています。本記事では、ビーナスコートの特性や施工例、環境面でのメリットをご紹介します。

ビーナスコートの特徴と魅力

『卵からうまれた仕上げクリーム』というキャッチフレーズが示すように、ビーナスコートの主原材料は「卵の殻」と「火山灰」です。この2つの材料が持つユニークな特性を活かし、以下のような特徴があります:

  • 美観と経年変化:
    • 自然素材ならではの質感と、時間とともに味わいが増す特徴が魅力です。
  • 意匠性の高さ:
    • 塗装でも左官仕上げでも施工可能で、ローラーやコテ、吹付けなど、施工方法を選ばない柔軟性があります。ビーナスコートを施工する際には、下地処理が特に重要です。下地が均一でないと仕上がりに影響が出るため、適切な補修を行うことが不可欠です。

「卵の殻」と「火山灰」のどちらも、本来廃棄される材料をアップサイクルして活用しており、地球環境に負荷をかけない製品と言えます。

ビーナスコートの機能として、調湿効果や臭気吸着効果が挙げられます。ただし、これらは単独で大きな効果を期待するものではなく、エアコンや換気設備を補完する役割と考えると現実的です。それよりも、自然素材の美しさや経年変化による味わいが住まい全体の価値を高める大きな要因となります。

自然素材の仕上げは初期費用がかかる場合がありますが、経年変化による味わいが生まれることで、結果的にコストパフォーマンスが良い選択となることが多いです。コストが気になる場合は、壁はビーナスコート、天井はオガファーザー仕上げといった組み合わせもおすすめです。

サンブスギのような無垢材の床仕上げとの相性も良いビーナスコートは、空間全体を調和の取れたものに仕上げます。

日本エムテクスの取り組みとアップサイクルの価値

日本エムテクスの製品開発の根底には、「資源循環型社会づくりへの貢献」という理念があります。同社は廃棄される材料をアップサイクルして製品化することを得意としており、その取り組みには深い共感を覚えます。

「新しい素材を使わず、既存の資源を活かして作る」という発想は、持続可能な社会の実現に必要不可欠な考え方です。ビーナスコートのような素材は、環境負荷を抑えつつ美しい仕上がりを実現できるため、住宅設計において重要な選択肢となります。

壁・天井を自然素材で仕上げるメリット

自然素材を選ぶことで、以下のような多くのメリットが得られます:

  1. 美観と経年変化:
    • 自然素材ならではの美しさと、時を経るごとに味わいが増す特性。
    • 例えば、リビングルームの壁にビーナスコートを使用した際、昼間の自然光を受けて壁が柔らかな光沢を放ち、落ち着いた空間を演出しました。夜間はブラケット照明の間接光が優しく写し出される影のグラデーションも美しく感じます。
  2. 意匠性の高さ:
    • 部屋全体の統一感と自然な風合いが得られます。
  3. 環境負荷の軽減:
    • 輸送距離の短縮やリサイクル材料の使用により、環境への負担を軽減。

結論: 自然素材で未来を創る住まい

自然素材を壁や天井に取り入れることで、住まいに健康的で心地よい空間を提供し、持続可能な社会にも貢献できます。

自然素材は新建材と比較をするとコストアップになりますが、工夫をすることで取り入れることも可能になりますので、是非検討してみてください。例えば、天井にはオガファーザー仕上げを採用することで、コストを抑えつつ美観を保つことができます。

これからの住まいづくりを考える際には、環境にも住む人にも優しい選択肢として、自然素材を取り入れるアイデアをぜひ取り入れてみてください。

千葉県産サンブスギを活かした住まいづくり

地域材の可能性と課題

地元産木材を活用することは、環境への配慮だけでなく、地域経済を支える重要な取り組みです。地元で調達することで輸送距離が短縮され、環境への負荷が軽減されます。例えば、輸送中のCO2排出量を抑えることが可能です。特に千葉県の「サンブスギ」は美しい木目と温かみのある質感が特徴で、床材や化粧材として高く評価されています。

しかしながら、現状では千葉県内で山長さんのように豊富にJAS認証材を製造・出荷できる製材所がないため、大型パネル建築などの構造計算が必要な場合にサンブスギを構造材として利用することは難しいのが実情です。その結果、サンブスギは主に床材や化粧材としての活用にとどまっています。

千葉県産材の可能性を広げるために

千葉県内には、地域材を活用した構造材やJAS認証材を製造する製材所がいくつか存在していると考えられます。ただし、具体的な製材所を特定するためには、千葉県の林業関連団体や木材協会に問い合わせることが必要のようです。

また、「ちばの木認証制度」を利用している事業者を調べることも、地域材を活用した製品を見つける一つの方法です。

「ちばの木認証制度」は、千葉県産材の利用を促進するための制度で、地元の森林資源を活用する取り組みを支えています。

この制度を活用することで、地域の製材所からJAS認証材や構造材を調達する選択肢が広がり、地元の森林資源をより効果的に活用できる可能性があります。

サンブスギの魅力とその活用

現状ではサンブスギは構造材としての利用が難しいものの、床材や化粧材としての魅力は抜群です。杉材は広葉樹系の材料と比較して柔らかいので足触りが良く、夏はさっぱりとした感触で、冬は若干暖かく感じられる特性があります。ただし、柔らかい分、傷つきやすい点には注意が必要です。その美しい木目や赤身の耐久性は、室内空間に自然の温もりをもたらします。

特に、サンブスギの選別工程では、一工夫が求められます。赤身材、シラタ材、源平材が混合された状態で届く材料を一度バラシて、それぞれの特性に応じて適材適所に振り分けます。

この一工夫により、材の特性を最大限に活かすことができます。例えば、赤身材は油分が多く耐久性が高く、水回りや廊下の床材に最適です。一方、リビングの床材には明るい色合いの赤身材や白太材を選び、空間全体に開放感をプラスしています。選別作業は手間がかかりますが、混合状態で購入する方がコスト面で有利であるため、この作業が仕上がりの質を左右します。個人的にはシラタと赤身が混じった源平材も魅力的だと感じます。

地域材を使う意義

地元産木材を活用することは、環境負荷の軽減や地域経済の活性化に繋がります。また、地域材を使用した住まいは、その土地の風土や文化に根ざしたデザインを実現することができます。

例えば、サンブスギを使用した家は、千葉県の風土に適した心地よい住まいを提供します。その一方で、地元の林業や製材所を支えることにも貢献します。

未来への展望

地域材を活かすためには、製材所や木材関連団体との連携を深めることが重要です。JAS認証材や構造材の供給体制が整えば、サンブスギの利用範囲を広げることができるでしょう。

また、千葉県産材を使用した住まいづくりを推進することで、地域の持続可能な発展にも寄与します。さらに、山武市が掲げる「森林づくりマスタープラン」は、地域の森林資源を守り活用するための重要な指針となっています。このような取り組みが、地元産材の利用促進と地域経済の発展につながることを期待しています。私たちはこれからも、地域の資源を活かした設計を通じて、自然と共生する住まいを提案していきます。