歴史ある酒蔵がアートスペースに – 猪苗代町「はじまりの美術館」探訪

はじまりの美術館 アプローチ

美術館の概要と現在の企画展

福島県猪苗代町のはじまりの美術館に行ってきました!
どこか懐かしく、でも新鮮な体験ができるこの美術館は、建築好きやアート好きにとって一度は訪れたい場所です。

企画展「ここから、まざりあう」

「はじまりの美術館」はアール・ブリュットの美術館ですが、今回は企画展を開催中でした。

ウォールアートフェスティバルふくしま in 猪苗代 2024

展来会概要はこちらから 「ここから、まざりあう」

出展作家:

  • 淺井裕介+はじまりの美術館
  • ウォールアートプロジェクト
  • 水川千春
  • ワィエダ兄弟

展示作品との出会い

参加されていた作家さんの世界観が大きく、目の前に広がる作品の深度にクラクラしながらも時間をかけてゆっくりとレベル調整。どの作品も素晴らしかったのですが、特に印象に残った水川千春さんの作品についてご紹介します。

水川千春さんの作品について


水川千春さんの作品は和紙に水で絵を書き、あぶり出しによって色が浮かびあがってくる手法。小学校の頃のミカン果汁であぶり出しをした記憶が何故か浮かびあがり興味が湧きましたが、そんなボンヤリとした作品ではありません。正面に描かれた磐梯山は精緻な線で描かれていて、あぶり出しのグラデーションの濃淡との対比が見ていて飽きません。焦げた臭いが微かにするのでそれも薪ストーブを焚いているような感覚もあり、猪苗代の冬に訪れる磐梯山の雪景色を思い出しました。

水川千春さんの作品
水川千春さんの作品詳細。精緻なラインと炙り絵もコンストラクトが幻想的

地域と繋がるアートプロジェクト

去年までは猪苗代の小中学校にアーティストを招待して壁画を作成するプロジェクト(ウォールアートプロジェクト)もあったようで、見逃していたことが残念です。

プロジェクトのアーカイブ記事はこちらから 猪苗代アートプロジェクト

竹原義二による建築の魅力

小さな美術館ですが、竹原義二さんの建築は見どころが多く、東北で竹原建築を観ることができる数少ない場所だと思います。建築探訪好きはもちろん、古民家好きにもお勧めです。

古民家の現代的解釈

築約140年の酒蔵「十八間蔵」を改修して誕生した小さな美術館の通り、立派な通し梁や架構の大工仕事はもちろん、空間構成の素材としてコンクリートブロック、鉄骨も取り入れられています。入れ子になったこのボックス構造も構造体として荷重を受けているのかな?これは調べてみたいですね。入れ子になった空間によって、古民家のダイナミックな架構だけでなく、歩きまわることによって素材ごとに空間が変化していく面白さを楽しめます。古民家のイメージは立派な梁やダイナミックな架構の大きな空間を想像するかと思うのですが、実際は建具の高さも低く小さな部屋で構成されているので、その空間を異素材で表現しているのかと想像します。

気になる外部建具・断熱方法

サイズの大きな外部建具は新しい物ですが、サイズの小さな明り取りの小窓は古い物をアウトセットさせて取り付けてあり新旧の対比と工夫が綺麗でした。ガラスももちろんペアガラスにアッデートされていました。

はじまりの美術館 小窓

断熱については室内側から軸組が全て見えているのでおそらく付加断熱でしょう。軒の出も頬杖で補強されていたので屋根から壁までグルっと付加断熱でくるまれてるのかな。床にも吹き出しグリルが設置されていたので、冬は床下を温かい空気を循環させて床も暖かくなるはず。※脚注 付加断熱:断熱効果を高めるために外部に追加した断熱材

古材の見せ方

そのほかにも見どころが沢山あります。新旧部材、礎石、柱の取り合い、古い伝統の飾りなどまだまだ見逃しているような部分もありそうです。トイレの空間も古民家の軸組の良さを生かした、設備の取り付け方と可愛い小物のディスプレーも一見の価値ありです。

ユニークな展示体験

展示室には靴を脱いで上がるアットホームなスタイルです。床仕上げも空間によって異なってています。もちろん普通の木床仕上げではありません。

踏触で楽しむ仕組み

手斧で仕上げた滑らかなナグリ床は大きな丸の彫刻刀でザクザクと削ったような仕上げ。角材の小口面表してタイルのように敷詰めたゴツゴツとした床については、遠目から見ると100角くたいののタイル仕上げのようですが近づいて良く見ると模様に見えていた物は年輪と分かり驚きました!通常はこの向きで床仕上をしませんから、きっと施工は大変だったろうなと余計な心配をしてみたりで、一見の価値ありです。

その仕上げは少し足裏を刺激してくれるようで、マッサージを受けているような痛気持ち良さがあり、慣れるまでくすぐったい不思議な感覚。視覚だけでなく、足裏の触覚も変化して楽しめます。手斧仕上げのスペースはピクチャーウインドの前に座りこんで鑑賞でき、縁側に座っているような懐かしい気持ちになりました。目線が地上のレベルに近いので、雪の降る日ここから積もっていく雪景色をゆっくりと眺めるのも良さそうです。

はじまりの美術館 ピクチャーウインド
ランドスケープを眺めながらゆっくりできるピクチャーウインド

お土産と周辺散策

カフェ・ショップコーナーも併設しており、コーヒーも飲みながらのんびりできます。ショップコーナ―ではアール・ブリュット好きの私は可愛らしい手作りコースターを購入しました!可愛くてコーヒーカップを置くことができそうもありません…


美術館周辺には美味しい食堂もあり、猪苗代町内を前述のウォールアートプロジェクトの作品を探しながらの散策も楽しいです。猪苗代町はユニークなカフェが点在しているのでレンタカーで探索もお勧めです。

この場所で得た感動をぜひ味わってみてください。猪苗代の自然と歴史ある建築の中で、アートと建築の融合を体感できる特別な場所です。

#WAF猪苗代  #はじまりの美術館

#WAF猪苗代 駅前の壁画
猪苗代駅前のウォールアートプロジェクト作品。すぐに見つけられます!#WAF猪苗代
この日は快晴、きれいな夕日と磐梯山を東側から見る。

曳家岡本、岡本棟梁のはなし

地震の影響で地盤が液状化を起こしてしまい建物が傾いてしまったり等、様々な理由で基礎が沈下して傾いてしまった建物を直す仕事があります。

沈下修正工法と言って、おもに曳家(ひきや)さんが仕事をしています。

曳家というと建物を移動させたり、持ち上げて新たに基礎をつくり、また下ろしたりと、ダイナミックな仕事のイメージでした。

今回はそのイメージを払拭するセミナーに参加してきました。

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”杭の摩擦が解けて建物が再沈下する”

”曳家をしているときに建物の反対側が振動し始めた時の怖さといったら。。。”

沈下修正工法のセミナーで曳家岡本の岡本棟梁の話で印象に残った言葉です。

セミナーの主催は東京建築士会さん、11月16日に開催されました。

 

曳家の仕事はダイナミックなイメージがありましたが、建物の上部構造を理解した上で、沈下修正をするときに移動する値は㎜単位。非常にデリケートな手間のかかる仕事です。

沈下修正工法には数種類の工法があり、それぞれの工法に特徴があり、地盤の状況によって工法を使い分けなくては効果が出ないとのこと。

全ての状況に対応することができる魔法のような工法はありません。

地味な作業を繰り返すことによって初めて安全に確実に建物の沈下を修正することができます。

また、基礎の種類や剛性によって、基礎を持ち上げる沈下修正が出来ない場合もある。そういった限界も包み隠さず話をされていました。

また北海道での地震で地盤沈下した建物を修正する時の基本的な考え方も話されていました。

北海道は凍結深度によって基礎の高さが高くなってしまうので基礎を持ち上げることが難しいとのことです。その対策として「土台揚げ」工法があるとのこと 。

「土台揚げ」工法*岡本棟梁のブログから抜粋

土台揚げ工法であれば、地下水位の問題もありません。浦安市入船地区では「布基礎」のお家が多かったことと、この水位の問題から「土台揚げ」工法が多く選ばれました。しかし土台揚げは地盤改良を伴う工事ではありませんので地盤が安定していること。再沈下が起こる可能性があることを認識しておいていただなくてはなりません。それでも1棟あたり300万円前後で沈下修正工事が出来ることから、選ばれていました。

*岡本棟梁Blog 沈下修正のことをまとめた記事----北海道地震で傾いた家を直すための参考意見です---

こちらの記事には、さまざまな沈下修正工法の良い点、悪い点がまとめてありとても参考になりました。

 

地盤にまつわる話は業者さんの話を鵜呑みにしてしまうことも多く、それではプロとして不勉強以外の何ものでもありません。

今回、岡本棟梁のセミナーで判断材料が増えたので、沈下修正の相談お頂いた時はお役に立てると思います。

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里山と板倉建築

神社が近くにある里山の一角に、昔ながらの建て方、板倉工法で建てられた建物を見学してきました。板倉工法で建てられた建物を実際に見学するのは初めて。

一般的な在来工法と違う建て方なのだから、きっと住まいや暮らし方もきっと違うはずです。そんなことを考えながらの見学です

伝統工法から進化

板倉工法は柱の間に溝を掘ってそこに厚板を落とし込んで壁をつくる工法です。4寸角の柱と一寸厚の板で基本構造をつくります。柱と柱の間に筋交いや構造合板で耐力を確保する、在来工法や2×4と違い主要構造部には接合用の構造金物をつかわずに、大工さんによる木組みの継手で建てられています。

 

柱と横架材の接合も大工さんの手仕事による仕口に込栓と呼ばれる木製のピンを打ち込んで接合しています。板倉工法は落とし込んだ厚板の室内側がそのまま仕上げとなってくるので、構造と仕上げが一体になった無駄の無い仕組みが魅力的です。

 

 

里山の暮らしを再現する

見学した住宅は土間を中心とした吹き抜けが中心となっていて、丸太を加工した事がわかる太鼓梁や登り梁を見事にくみ上げた小屋組も見応えがありました。在来工法のような定形材を使ったリズミカルな小屋組も美しいですが大工さんの手仕事がわかる小屋組も見応えがあって良いですね。

 

室内建具には一部古い建具が使われていて新築なのにまるで古民家のような雰囲気。土間にはマキストーブ、給湯はマキやペレットを燃やしてお湯を沸かす給湯器が使われています。この建物が建てられているのは里山の一角です。燃料としてマキを調達することができれば、まるで昔ながらの里山の暮らしが実現出来そうです。

国内材の流通をデザインする

また板倉工法の材料は主にスギが使われてます。国内で調達しやすい材料を選んでいるそうです。スギは日本各地で植樹されていて調達のしやすい材料。

ですが安価な輸入材に押されて国産材のスギの需要が低迷。森林の手入れができずに荒れているニュースを見かけます。日本の森林から伐採されて木材となり建物になる。こんなサイクルを取り戻す事ができれば輸入材を減らすことができます。

板倉工法のようにスギ材を有効利用できる工法が一般化して、使用量が増えれば森林の荒廃を食い止める1つの方法になりそうです。

今回の建物は千葉のサンブスギを使って建てられていました。地元の良い材料を集め、大工さんが腕を振るったようです。職人不足で大工さんも減っている建設業界。腕のたつ経験豊富な大工さんも減っていますが、施工会社の石井工業(株)さまは板倉工法のような仕事ができるように様々な取り組みをされているようです。

板倉工法と復興住宅

また板倉は復興用の仮設住宅にも使われています。他工法のプレファブの住宅と比較すると板倉工法では無垢の木が仕上げに使われているので生活をしていると気持ちが安らぐようです。災害時の緊急用の仮設住宅の役目を終えた後も、解体をされて復興住宅として再利用されているようです。このような再利用ができる事も板倉工法の特徴の1つです。

板倉工法は金物を使わないので古民家の改修にも適していそうです。古民家を改修するときも耐力壁の追加が必要になるのですが、古民家のような金物を使わない構造に板倉工法は馴染みそうにです。施工方法の検討が必要ですが機会があれば採用してみたい工法です。

見学会を開催してくださったお施主様、板倉工法を詳しく説明していただいた(株)里山建築研究所さま、施工の石井工業(株)さま、貴重な機会をありがとうございました。

さんむの家改修工事 お引き渡しをしました

さんむの家のお引渡しをしてから数ヶ月がたちました。

お施主さまが新しい建物での暮らしにもなじんでこられたようで、一安心をしています。

この記事の画像全て 撮影: 花澤一欽

さんむの家は築40年の住宅をリノベーションした住宅になります。

お施主様はいくつかの選択肢の中から、築40年の住宅をリノベーションすることを選択されました。

私達は、古い物を大切にして継承する価値観に共感し、設計監理をしてきました。

記憶も継承する

設計を始める前に、基本方針として古い部材を積極的に活用することを決めました。

そのためには、建物を新しい部材で覆い被せ新築のようにするのでは無く、古い部材、柱、梁を現しにする、また再利用して活かしたいと考えました。

そうすることにより物質的に家を継承するだけでは無く、新しい暮らしの中でも、古い部材を目にした時に、古い建物で起きたことを思い出し、記憶をも継承して行くことが出来ます。

さらに、デザイン的に古い部材を活用するだけでは無く、新しい技術も取りいれ、地震に強く、居心地の良い住宅を目指しています。

新旧交ざり合うような材料

新しく使用する材料については、月日を重ねることにより風合いが増すような材料を選んでいます。いわゆる天然素材、工業部材と呼ばれる材料です。

建物が5年、10年と月日を重ね、古い部材と今回修繕した部材が一緒に古びていき、区別が付かなくなる事を期待しています。

外観はさりげなく

建物の外観は大きな変化を加える事無く、軒の出、窓の大きさ等を微調整する程度にしています。

外壁はガルバリウム鋼板の小波板を貼ったのですが、ご近所様からは“ブリキ板を貼って大丈夫かい?”と聞かれたことがあるそうです。

一見、簡素な素材ですが耐候性に問題ありませんからご心配なくとお答えしました。

 

実は、建物正面から見ても気がつかないのですが、2階の屋根には太陽光発電パネルが載っています。

こちらの太陽光パネルは発電パネルでありながら屋根部材も兼ねているので見た目をスッキリ納めることができました。

お引き渡しをしてから数ヶ月たちましたがシミュレーション結果と同等の発電をしているようです。

発電量を示すモニターも解り易く、天気の良い日は発電していることを知らせてくれるモニターを見るのが楽しみとのことです。

建物の暑さ寒さについて

最後に、建物の温熱性能についてです。外皮性能はUa値 が0.57 実測C値が2.5です。

外皮性能については2020年の省エネ義務化基準が0.87ですから、それ以上、HEAT20 G1基準の 0.56手前の性能となります。

結果についてですが、今となってはもう少し頑張ることが出来たと考えています。

この建物は、平成27年度の住宅省エネリノベーション補助金を取得する事を前提としてスタートしました。

恥ずかしながら、当時の私は仕様規定を満足するだけで精一杯でした。現在は色々と勉強を重ねた結果、外皮性能については改善したい所があるのが正直なところです。

しかしながら、古い建物では電気ヒーターを使っていた水回りも1月現在では不必要とのこと。朝になっても夜の暖かさが残っているようです。

冷暖房はルームエアコンを使用していますが、古い建物と比較すると全室が暖かいとのことです。

まだまだ寒い日が続きますし、夏はまだ未体験ですが、色々と調整をして住みやすい環境、快適な暮らし方のお手伝いをして行きたいと思います。

施工に関しては(株)進和建築様に大変お世話になりました。新築とは違う、手間のかかる仕事を丁寧に工事していただきありがとうございました。

HPにも事例集としてアップしました。

建築事例集 さんむの家