パッシブハウス設計のためのDesignPHとSketchUp活用ガイド

1.Zoom勉強会でDesignPHの使用法を学ぶ

STAY HOME週間中、Passive House Japan(PHJ)のメンバー有志が主催するDesignPH勉強会に参加しました。私自身はDesignPHライセンス未所持ですが、導入を検討中のため見学させていただきました。

2. DesignPHとは?SketchUpでの3Dモデリングに便利なプラグイン

DesignPHSketchUpプラグインとして使用するソフトです。SketchUp+ DesignPHを使うことでパッシブハウスの設計を3D上(SketchUp)でモデリングできます。モデルを作成した後、そのデータをPHPP(パッシブハウス設計用のエネルギーバランスソフト)にエクスポートして、エネルギー設計を詳細に進めることができます。PHPPはExcelベースをデータをセルに入力する方式です。

※建物燃費ナビもPHPPがベースで、入力方法がCADベースになっています。このCAD機能をSketchUpに置き換えたものと考えると理解しやすいかもしれません。DesignPHは、PHPPのセルへの入力をSketchUp上で直感的に入力できるツールです。

ソフトの準備

※SketchUpはデスクトップ版のMake 2017、DesignPHはDemo版(2週間有効、機能制限有)を使っています。ソフトは実際に試してみることで理解が深まりますので、ぜひ試してみてください。

■SketchUp Make 2017 ダウンロードはこちらから https://www.sketchup.com/download/all(こちらからMake 2017を選択)

■DesignPH Demo版 ダウンロードはこちらから https://designph.org/DEMO_download(試用期間14日 機能制限アリ)

DesignPHのDemo版を使っていますので、機能が限定されています。今後、正規版を導入しましたら追記予定です。

3.DesignPHでのモデリングからPHPPへのエクスポートまでの方法

SketchUpでモデリング

サッシ開口部は四角の外形だけで大丈夫

まずはSketchUpで簡単な外観モデルを作成します。この時、あまり複雑な形状で無いほうが良いです。開口等もサッシ開口だけで十分です。他のCADからDXF出力した場合、余分な線を整理しておくと後々の作業が楽になります。建物の方位や開口部の位置を検討し、簡単な外観モデルを作成していきましょう

属性の割当て

簡単なサッシ開口の四角にワンクリックでサッシモデルを挿入できます

作成した外観モデルに壁、屋根、開口部ごとに属性を割当てます。この時、壁、屋根、開口部にワンクリックで属性を割り当てることができます。

※私はDemo版だったので属性をカスタマイズすることができませんでしたが 、Passivhaus Institutの認定済みコンポーネントを割り当てることができました。

窓についてはワンクリックで、サッシ枠とガラスが別々に表現されますボリューム作成段階ではサッシ開口のみで十分で、時間の短縮にもなるの便利な機能です。また庇などのサッシ開口部に影を落とす部位もモデル化できます

計算結果を見てみると庇などの端部からガラス中央にラインが見えます。これが計算部分ならば、屋根の厚み等は必要ないようです。まあ、これはこれで外壁面積等計算に影響しそうですが、難しいことは考えずに最後まで進んでみます。

建物の内部壁についてはモデル化する必要はありません。

暖房されていない部屋については、温度係数を入力するだけでモデル化できます。

※これは試すことができませんでした。

周辺環境の入力

DesignPHでは周囲の建物等、障害物からの影響も計算してくれます。なので、計画建物に影を落とす、周辺建物等もモデリングする必要があります。

Google Earthからおおよその地形モデルをインポートすることもできます。その後、DesignPHは計画建物への日影の影響も考慮しながら、日射取得熱等を計算してくれます。

※Demo版ではこれも試すことができませんでした。参加者の中には広範囲の地形モデルをインポートして山からの日影の影響を確かめている強者も…

※気候データについては、プラグインでデータが用意されています。ですが日本ではあまり細かい分類が無いようでした。またアメダスから気候データを読み込むこともできないようです。

4. エネルギー計算とPHPPへのエクスポート計算

外観モデルを完成させたら、エネルギー計算を実行、建物のエネルギー消費量を評価することができます。DesignPHによる計算はソフト内で行われていて、PHPPへの出力は必要ありません。結果はPHPPほど正確ではないと思いますが、この段階で簡単に数値を把握することができれば良いでしょう。なので計算結果が15 kWh / m2であっても、計画した建物がパッシブハウスレベルかの判断はできません。この次のステップでPHPPでの計算が必要になるからです。そのためにもこの段階では、さらに建物性能を高めておく必要があるかとおもいます。

DesignPH内で事前エネルギー計算を実行後、データを.pppファイルとしてエクスポート、PHPPに直接インポートできます。

※この作業もできませんでした。

5. DesignPHを使ってみた感想

※今回はDemo版での感想になります。

・使いやすさ
DesignPHは、SketchUpのプラグインとしてとても使いやすいと思います。

認定パッシブハウスを設計する時はDesignPHだけでは足りません。PHPPでの計算等、複雑な検討が沢山あります。ですが初期段階からパッシブハウスの設計に利用すれば、失敗が少なくなると思います。

・設計者へのおすすめ
若手設計者や学生も挑戦しやすく、パッシブハウス設計の基礎を理解しやすいです。温熱設計に興味をもったらSketchUp+ DesignPHにチャレンジしてみてもらいたいです。パッシブ設計に馴れていなくても、DesignPH内ならば手軽に結果をみることができます。未来の設計者がパッシブハウスへ興味をもってくれると良いなと思います。

・非住宅建物への応用可能性

住宅以外の建物、複雑な形状の建物等は評価するソフトが少ないのでDesignPHが有効かと思います。普通の住宅レベルならば、もちろん”建物燃費ナビ”が早くて有効です!

日当たりをシミュレーションする 建物編

今日は4月16日。緊急事態宣言が出てから約1週間がたちました。外出を少なくして他人との接触を80パーセントまで減らして爆発的な拡大を防ぐとの事。これが達成できれば爆発的な感染を避けることができるそうです。

業務打合せにはZOOMを主に使っていますが、お客様との打合せが目下の課題。PCを持っていないお客様とどのように打合せするのか多くて思案中です。

※緊急事態宣言が全国に広がりそうなニュースが入ってきましたね。。。

日当たりをシミュレーションする 建物編

日当たりをシミュレーションするの続きになります。

前回は敷地に対するシミュレーションを行い、建物を配置してみたところ、思いがけない方向から日影が飛んでくることが判明したお話でした。

くりかえしますが、パッシブ設計のポイントの一つに日当たり条件があります。理想的には大草原の中にポツンと建つような、隣地に何もなくて建物を南側に正対する配置ができれば、日射について大きな問題は少ないでしょう。ですが、そういった条件の敷地は非常に限られています。
そのため、敷地の日当たり条件を丁寧に検討した後、建物形状や窓の配置を決める設計が必要になります。

次に、前回と同じようにシミュレーションを行い、その結果をご紹介します。

シミュレーション結果:12:00の状況

シミュレーションを行った結果、建物の半分以上が北側の建物からの日影の影響を受けていることがわかりました。この後、14:00には全体的に日射を受けることができますが、15:00には別の建物の影響を再び受ける状況になります。。

 

太陽から取得する日射熱

1階の窓からはほとんど日射熱を得ることができないことがわかりました。しかし、屋根面からは日射熱を取得できる可能性があるため、屋根面に窓を設置するという解決策を考えます。この場合、ハイサイドライトと呼ばれる窓を設置することで、北側建物からの日影の影響を避けることができます。

 

ハイサイドライトの効果

シミュレーションを重ねた結果、ハイサイドライトからの日射を得ることで、室内温度に大きな違いが生まれることがわかりました。日射熱の取得量は、ハイサイドライト設置時は7,200whで、設置しない場合の4,600whと比べて約1.5倍になります。また、室内の温度も14:00に約3℃の差が生まれ、最高室温は日射熱が最大になる12:00から約2時間後に達するという興味深い結果となりました。

 日射熱の取得状況です。

ハイサイドライトに日射を受けることができて日射熱も得ることができそうです。

どうにか解決できそうです。

 

建物内の温度分布状況はこのようになります。

左図がハイサイドライト設置。右図は特に対策していない状況です。

日射熱はハイサイドライト設置7,200wh。対策なしだと 4,600wh。約1.5倍になります。

 

室内の温度はこんな状況です。

ハイサイドライトからの日射熱で14:00に3℃ほどの温度差が出てきます。

最高室温が日射熱最大の12:00から2時間遅れの14:00になることも興味深いです。

パッシブハウスとシミュレーション

今回のような敷地状況では日当たりの条件が厳しいと思われるかもしれませんが、パッシブハウスもこのようなシミュレーションの延長線上にあります。「たかがシミュレーション」と言う声も聞かれますが、事前に検討を行うかどうかで設計の精度や建物の性能には大きな違いが出るのです。

パッシブデザインは「自然の力」を理解し、それを活かした家づくりです。これからも、「自然の力」を最大限に取り込める、丁寧な設計を心がけていきます。

 パッシブ設計は「自然の力」を理解し活かした家づくりです。

これからも「自然の力」を取り込める、ていねいな設計をこころがげて生きたいと考えています。

 「パッシブデザインには 日射のコントロール が不可欠です。」
シミュレーションを活用し、どのように 日射取得を最適化 しているのか、詳しく解説しています。
▶ 日当たりをシミュレーションする

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日当たりをシミュレーションする

パッシブデザインに欠かせない日射の検討

今日は4月2日。年度初めですね。今日はとても風が強かったです。桜は満開ですが強風に耐えてます。
コロナウイルスのニュースがいやでも飛び込んできます。色々不安なことが多いと思いますが自分でコントロールできることに集中して日々過ごしています。

私はリラックスするためにヨガを日課としています。ヨガを習い始めてから3年くらい、太陽礼拝を毎朝の日課としています。太陽礼拝を簡単に説明するとヨガのラジオ体操みたいなものなんですが毎日やることでその日の体調変化にも気づきやすくなったりします。

来年はコロナウイルスもきっと収束して、どんなことを書いているのでしょうね。

そんな中でも粛々と設計を進めています。今回は、シミュレーションソフトを使ったパッシブデザインに最も重要な、日射取得の検討についてお伝えします。

敷地状況を把握する

敷地の形状を地図で確認しました。

南北方向のずれが少なく、日射取得の条件条件は良好です。パッシブ設計では日当たり条件は重要なポイントの一つであり、建物が南面に正対するほど有利になります。

しかし、今回の敷地では、すべてが理想的というわけではありません。

現地調査の結果、次のような状況が判明しました。

  • 北面・西面 :道路に接している
  • 南面・東面 :宅地に囲まれている

市街地ということもあり、既存の建物が敷地に接近して建てられており、一見して隣地からの日陰の影響を強く受けることが判明しました。西側には6メートルの道路がありますが、驚きの結果が待っていました…。

更地の敷地をシミュレーションする

配置計画の前にやるべきこと

まず、現地で周辺の隣接敷地を調査し、隣接建物の配置や高さを計測しました。そのデータを基に隣地建物を配置し、建物の影響を検討します。

しかし、いきなり建物を設計するのではなく、更地の状態 でまずシミュレーションを行い、隣地建物の日陰の影響 を把握することが重要です。

このシミュレーションをもとに、隣接建物の日陰を考慮しながら、建物の配置計画を進めます。
「ここしかない」という配置計画を見極め、自然に素直な設計を目指す。
これが、パッシブデザインにおける重要なステップです。

シミュレーション結果:冬至での検討

基本案が決まったら、次に 冬至(太陽高度が最も低い日) でのシミュレーションを実施します

11:00頃

11:00を過ぎると、南西の角に日が当たり始めますが、1階の南面にはまだ日射がほとんど当たっていません。北側建物からの日陰の影響が大きく出ています。

 

 

 

14:00頃


14時になると、ようやく南面全体が日射を受けます。しかし、今度は南西の建物からの日陰が建物に影響を与え始めています。

 

 

15:00頃

15時には、南西の建物からの日陰の影響で、1階の南面には全く日射が届かなくなります。

 

 

 

 

日陰は予想しないところから現れる

シミュレーションを行う前は、北側建物の日陰が通り過ぎた後、11時過ぎには日射を邪魔するものはないと想定していました。しかし驚いたことに、西側道路を挟んで南西にある建物から、予想を超える日陰が広がっていたのです。

「これは?シミュレーションソフトの間違いかな…」と思いましたが、現地で確認したところ、ほぼ同じ状況が確認できました。この経験から、シミュレーションソフトの精度を改めて実感しました。

想像だけでは予測しきれない影響が、建物の設計に大きく関わってくるのです。。

外皮性能だけでは快適な家はつくれない

パッシブ設計には日射のコントロールが不可欠

冒頭でも触れたように、パッシブ設計では日当たり条件が重要です。この条件を満たすためには、シミュレーションソフトを活用することが不可欠です。いくら外皮性能を向上させても、冬に日射を確保できなければ、暖かい家にはなりません。

もちろん、暖房設備をフル稼働すれば室温を一定に保てますが、それでは経済的に非効率です。

だからこそ、太陽からの日射を最大限に利用し、自然に素直な設計、つまりパッシブデザインが求められます。
このシミュレーションを通じて、パッシブデザインにおける日射のコントロールがいかに大切か を改めて感じました。

次回予告 & 関連記事

次回は、さらに詳しく シミュレーションを活用するポイント をご紹介します。

▶ シミュレーションで設計を最適化する方法
パッシブデザインを実現するためのシミュレーション活用について、さらに詳しく解説します。
日当たりをシミュレーションする 建物編

暮らしとともに育つ家──アップデートしやすい設計の考え方

住宅や建築の設計をしていて常々感じるのは、家が究極の一品製作品だということ。
家電や自動車はメーカーが巨額の開発費を投じて作る工業製品ですが、住宅は一品もののオーダーメイド。
同じ形の土地でも、敷地が変われば条件も変わり、まったく同じ家にはなりません。

暮らしをアップデートする

建物が完成して暮らし始めると、「もう少しこうしたい」と思う部分が出てくることがあります。
それを手を入れながら自分たちの暮らしに近づけていくことも、家を楽しむひとつの形ではないでしょうか。
住宅は、完成した時がゴールではなく、暮らしながら少しずつ完成に近づいていくもの。
家族の成長に合わせたり、好みに寄せたりしながら手を加えていくことが大切だと思います。

とはいえ、未完成の状態でお渡ししているわけではありません。
設計前にはしっかりヒアリングを行い、ご要望を反映します。
ただ、予算の関係ですべてが叶うわけではないのも事実です。

そこで、設計では 「後から変えにくい部分はしっかり作る」 ことを重視しています。
例えば、耐震等級や壁の中に隠れる断熱材など、建物の性能に関わる部分にはしっかり予算をかける。
一方で、内装や仕上げなど 後から変更しやすい部分は、暮らしの変化に合わせて手を入れられる ほうがいい。
そんな考え方で、アップデートしやすい設計を心がけています。

設計の工夫 〜シミュレーションの活用〜

後から変えにくい部分は、設計段階でしっかりと決める。
耐震等級や壁の中の断熱材など、建物の性能に関わる部分は後から手を加えるのが難しいため、設計時にしっかりと検討し、最適な形を追求することが重要 です。

そのために、パッシブ設計を確実に機能させるためのシミュレーション を活用しています。

まずは敷地環境を知る


最初に行うのは、パッシブデザインで大切な日射取得を左右する敷地環境の確認 です。
周囲の建物が敷地にどんな影響を与えるか、シミュレーションで確認します。
南側だけでなく、東・西側の建物の影響も大きいことがあるので、事前の予測と合わせて検討します。
「この方向なら日射を取り込めるはず」と思っていても、シミュレーションをすると意外な影響が見えてくることもあります。
数値や視覚的な分析をもとに、パッシブデザインに基づいて最適な建物配置や窓の設計を進める ことが、アップデートしやすい住まいの第一歩です。

住まいをアップデートしやすい設計を考えるためには、敷地環境を正しく把握することが大切です。
→ 詳しくはこちら『敷地と環境を活かす建築デザイン:シミュレーションの力

建物の性能を決める

次に行うのが、屋根・外壁・床・開口部などの外皮性能を決定する作業 です
ホームズ君新住協のQPex を活用し、断熱材の種類や厚さ、開口部の仕様を細かく計算。

設計の過程では、ホームズ君とQPexを行ったり来たりしながら、仕様を決めていく ことになります。
QPexは断熱材の種類や厚さ、開口部の仕様を入力すると、Ua値や暖冷房エネルギーの計算ができる ので、とても便利です。


特に、断熱性能は一度施工すると後から大きく変更できない部分 なので、設計段階でしっかりとした検討が必要です。
ここでのシミュレーションは、「将来的にメンテナンスしやすい設計」と「変えにくい性能を最適化する設計」のバランスを取る ために重要な工程になります。

室温シミュレーションで快適性を確認

次に、ホームズ君を使った室温シミュレーション を行い、計画した仕様が快適性を満たすかを検証します。
シミュレーション結果をもとに、開口部の配置や断熱仕様を微調整し、エネルギー効率と快適性を両立する最適なプラン を探ります

さらに、パッシブハウス・ジャパンの「建物燃費ナビ」も活用し、エネルギー消費量を確認。

次に 建物の性能を決定する作業。こうして 性能を数値で検証しながら設計することで、住み始めてからの快適性が確保される ことにつながります。

施工が伴ってはじめて性能が生きる

そして、どれだけ良い設計をしても、施工が適切でなければ性能は発揮されませんシミュレーション結果を現場で正確に再現できるかどうか も、住まいの性能を決定づける重要なポイントです。

このため、施工時にも適切な断熱・気密施工が行われているか確認しながら、設計の意図をしっかりと伝えることを心がけています。

家は、暮らしとともに成長する

家は、完成した瞬間がゴールではなく、暮らしとともに成長し、アップデートしていくものです。
設計の段階で 「変えられない部分はしっかり」「変えやすい部分は柔軟に」 を意識することで、住まいはより快適になります。
あなたの暮らしにフィットする家を、一緒に考えてみませんか?
まずはお気軽にご相談ください。

家を計画するなら、まずは敷地環境を知ることが重要です。
『日当たりをシミュレーションする:敷地編』を読む

あなたの住まいも、アップデートできます。まずは無料相談から始めませんか?
設計のご相談はこちら

建物探訪 秩父の高橋建築さんの高性能住宅を体感してきました

埼玉・秩父で数多くの高性能住宅を手がける 高橋建築(株) のオープンハウスに参加しました。
猛暑の中でもエアコンの風を感じない快適な室内環境、秩父の風景に馴染む美しいデザイン、そして“ハワイの木陰”を目指した設計思想…。
見学を通じて、高橋建築の 確かな技術と設計哲学 を実感しました。
今回のオープンハウスで得た気づきや設計の工夫について、詳しくレポートします。

秩父の自然に溶け込むパッシブハウス

オープンハウスが開催された建物と遠くに見える名物の断層「ようばけ」

高橋建築(株)の代表高橋さんは数多くの高性能住宅を建てられているので高気密高断熱への知識や経験が豊富です。今回のオープンハウスも今まで高橋さんが積み上げてきたパッシブハウスのノウハウがつまった住まいとなっていました。

当日はクルマで伺ったのですが、遠くから見えてきた建物が秩父の山の稜線や名物の断層「ようばけ」をバックに景観になじんでいます。

これは建物に付属するカーポートも木の外壁できれいにつくられているのがその理由の1つでしょう。アルミのカーポートだとどうしても景観となじまな雰囲気になってしまいます。

猛暑でも快適な室内環境

当日の外気温は36度。ですが室内に入ると、冷房で急激に冷やされる嫌な感じでは無くジンワリと汗が引いていきます。普通の性能の家だとエアコンに扇風機を追加して身体に当たる風で涼しさを得ることが多いのですが、この建物では身体に風が当たる感覚がほとんど無しで心地良い涼しさを感じます。

高性能住宅では夏になると湿度が上がってしまい蒸した感覚を感じることもあるのですが、そんな感覚も全く感じません。

天井面を冷やす画期的な手法

後日、高橋さんからサーモ画像が送られてきました。2階の室内を撮影した画像ですが青→赤の順で温度が高くなっています。よく見ると天井面が青くなっていますね。天井と壁の隅の部分が一番温度が低くなっていて、まるで冷気のカーテンが降りているようです。しかもエアコンが見えません。この仕組みは高橋さんのblogで!
普通の性能の家の2階天井面は直射日光で温められた屋根の熱で熱くなってしまいます。その熱くなった天井面が室内を温めてしまうのです。ですが、この建物は天井面を冷やすことに成功しています。冷気は暖気と比べると重いので冷気が自然落下してくるので涼しく感じる仕組みになっています。説明するのは簡単ですがこれを実現するのは大変だったみたいです。その苦労話は直接高橋さんへ!

ハワイの木陰を目指した快適設計

高橋さんはこの建物を設計するときに”ハワイの木陰”を目指したと話されていました。実は高橋さんも私もハワイの木陰を経験したことがないのですがきっとこんな感じに違いないと思います。

景色を楽しむ設計の工夫

屋根勾配が「ようばけ」の勾配とほとんど同じ!

この建物は大きな吹き抜けがあるリビングからの景色が最高に美しく、吹き抜けの東側の窓からは名物の「ようばけ」を観ることができます。

ですが、パッシブハウスの設計では建物の東側の窓は小さめがセオリーとなっていて、この建物ではあえてセオリーに従っていません。

この事を高橋さんにお聞きすると、今回の敷地は東側には化石が発見される有名な断層「ようばけ」が位置しているので、あえてセオリーを無視して、「ようばけ」が見えるように東面に大きな窓を設けたそうです。

性能と暮らしのバランス

設計にあたって、セオリーを守って建物性能の為に暮らしの楽しみを奪ってしまうようなことをせずに、2つの要素を比較検討して、必要ならば建物性能をむやみに追求しないようなバランスを保っているように感じました。これも数多くの高性能住宅を作ってこられた高橋さんならではの技術だと思います。

職人技が光る室内の造作

室内の造作家具や建具も高橋さん自ら造作されているので落ち着いた雰囲気が心地良いです。杉の無垢材でつくられているので経年変化が楽しみな雰囲気です。造作カウンターも厚板の杉の無垢材で造られているので、お客さんも喜ばれるそうです。

高橋建築のこだわりと実力

”有名ハウスメーカーさんと競合しても大丈夫”と笑って話す高橋さん。建物を体感してみると、高橋さん以外に頼む理由が見つかりません。

一般公開に前日に伺ったので高橋さんはエアコンのセッティングの真っ最中。そんな忙しい中いつもの笑顔で迎えてくださいました。PHJの仲間と言うことで質問にも丁寧に答えていただき感謝しています。

オープンハウスで体感した価値

高橋建築の家づくりを体感し、ただ数値が高いだけではない「本当の快適さ」を知ることができました。

私も高橋さんが目標とされている”木陰のような涼しさ”を目標にしたいと思います。

オープンハウスを開催してくださったお施主さま、高橋建築(株)さま、貴重な機会をありがとうございました。

建物探訪 パッシブハウス体験しました 第5回国際パッシブハウスデー 

パッシブハウス初体験

5回目となる国際パッシブハウスデーのイベントでパッシブハウスが公開されました。
パッシブハウスはドイツのパッシブハウスの厳しい基準をクリアした住宅です。
パッシブハウスジャパンさんの講習を受け、パッシブハウスの設計手法は理解しているつもりですが、恥ずかしながらパッシブハウスの性能は未体験。これじゃマズイでしょ!と思っていたので、またとない機会です。
週末、いばらきパッシブハウス、ちちぶパッシブハウスの見学に行ってきました。
厳しい基準をクリアするために同じような住宅になるのでは?と考えていたのですが、それは違いました。

訪ねてみると、敷地、建て主の趣味嗜好、に合った住宅でした。

いばらきパッシブハウス 株式会社島田材木店

いばらきパッシブハウスは郊外の住宅街に建てられています。西面以外は建物が密接しておらず、解放された恵まれた環境です。
外観内観ともスッキリしたデザイン、吹き抜けを利用したハンモック、広いデッキ等、楽しい暮らしぶりが想像できます。
竣工されてから7年ほどたっているようですが木部が良い雰囲気に育っていました。オリジナルキッチンの杉柾目、チークの床が素敵でした。メーカー建材や、プリントの木目では味わうことが出来ません。やはり天然素材は良いですね。
高性能の建物と自然素材の組み合わせはとても魅力的ですね。
興味のあった換気エアコンのシステムについても詳しく説明していただきました。
原理は一種換気のシステムに温度調整のシステムを付加する単純そうなものですが、ダクティング等、実物は大変そうでした。
現在の性能に満足されているようですが、さらに小さな改良をコツコツと積み重ねていらっしゃるのが印象的でした。

室内の温熱環境での注意点は、普通の家と比較してパッシブハウス級の性能になると加湿が重要になるとのことでした。

ちちぶパッシブハウス 高橋建築株式会社

ちちぶパッシブハウスは市街地から少しはなれた山里の中にありました。
ほぼ南面にむいた建物配置と、南面の大開口木製サッシ、日射取得が良さそうです。
なるほど、日本のパッシブハウスの中で一番暖かいと言われるわけです。当日、室内は暑いくらいで窓を開けていました。
室内は無垢の木がふんだんに使われ、大黒柱、オリジナルの造作建具が見事でした。
窓から見える山里の風景と室内がマッチしており、山里には繊細なデザインよりも、無垢の木が使われたおおらかなデザインが似合っています。
このことは建物見学希望者が絶え無い事が証明しているように思えます。建物性能もちろんですが、地域にあったデザインも人気の一つなのでしょう。

景色が千葉の夷隅の山里と似ているせいか、とても落ち着いた居心地でした。千葉よりも気温差が大きいので紅葉が綺麗そうです。

太陽に素直な設計が大切

パッシブハウスの重要なポイントは、太陽の動きに合わせ、素直に建物をデザインすることがです。
断熱や気密はお客様の暮らし方に合わせて調整することができますが、建物配置は途中から調整する事が困難です。
千葉は茨城、秩父と比較すると温暖な気候なのでパッシブハウスクラスの性能は需要が少くないと思いますが、太陽に素直な設計は必要です。
今後、千葉らしい住宅の性能も検討する必要があります。

設計時はシミュレーションを重ね、太陽に素直な設計を目指したいと思います。

最後になりますが、オープンハウスに協力してくださった皆様、お陰さまで貴重な体験ができました。ありがとうございました。