高断熱と暮らしのあいだ #2 都市型パッシブハウスのよりどころ

– コンパクトな敷地と断熱性能のせめぎ合い –

1. 都市型敷地から考えたこと

東京の住宅地、北側道路に面した敷地は、東と南に3階建、西に2階建の隣家が迫り、人が通るのがやっとという密集地。
建蔽率60%、第3種高度地区、準防火地域。クライアントの要望を満たすには3階建とする必要があり、準耐火建築物が求められる。

そんな敷地条件を目の前に考えていました。

──この場所に、果たして“パッシブハウス”は成立するのだろうか?

パッシブハウスと高断熱高気密住宅、その違いって?

パッシブハウスとは、パッシブハウス5原則に基づき設計・施工されパッシブハウス認定を受けた建物です。日本ではPHJPHIJPが認定機関となっています。

ですから高断熱高気密住宅の外皮性能を強化し、空調設備で室温・湿度調整するだけでは正式のパッシブハウスではないのです。パッシブデザインに基づき適切な日射取得と日射遮蔽の調整を行い、適切な空調設計、熱橋計算に基づいた詳細設計、そしてそれを実現する施工技術が必要となります。日本での基準には必要とされていない、気密測定はもちろん、空調の風量策定も行い、パッシブハウス認定基準値を満足させなくてはなりません。

当然ながらパッシブハウス認定要件以外にも建築設計として、温熱性能の追求だけでなく、耐震性能、空間構成、素材、外構を含めた沢山の要件を一つずつ解決していく地道な作業の繰り返しになります。

今回は都市型パッシブハウス認定を目指した設計となるので要件が多いですが、規模にかかわらず同じようなステップで進みます。以下、制約に向き合いなどのように設計作業を行ってきたのか振りかえります。

※PHJ、PHIJPの違い:どちらもパッシブハウス認定が可能です。基準の違いについては両者で認定を受けた秩父の高橋建築㈱さんの投稿が参考になります 
リンクはこちら:PHIUS:WUFIPassive  PHI:PHPP 比較


2. 敷地が投げかけた“制約”

日射取得が難しい

パッシブハウスの認定において、日射取得は極めて重要な要件になります。そのため、南面に正対させるために、建物の配置自体を敷地に対して方位を振ることもあります。

しかし本プロジェクトでは、南面・東面には木造3階建てが迫り、西側は唯一の2階建。なので西側から日射取得・採光を取る計画でスタートしました。
まずは敷地の日射シミュレーションを実施し、日射が確保できる窓位置を丁寧に探ることから始まりました。

屋根・壁・基礎──断熱性能と防火性能の両立

平面計画、断面計画、断熱構成を決定するために繰り返しシミュレーションを行い、暖房・冷房のバランスをとる設計が必要になります。その時に使用するシミュレーションソフトがPHPPです。パッシブハウス認定のためには、単純に断熱材を厚くすれば良いわけではなく、パッシブハウス5原則に基づき、全てがバランスよくなるよう設計を行います。

さらに要望により、木製と金属の外壁を採用するためには、防火設計上の制限をクリアする必要があり、防火構造をどのようにクリアするかも重要な要件です。隣地が迫る環境で確実に施工できるかも重要な要件になります。

高度斜線・道路斜線と3階建の両立

当初は西側からの日射取得を検討していましたが、PHPPの入力結果により断念です。間違った基本方針では詳細設計での工夫でもリカバリーが難しくなります。改めて、西側からの日射取得は難しいことを実感しました。

日射シミュレーションの結果、南側アパート庇の影を避けたごくわずかな壁面から、日射取得が可能であることがわかりました。結果、3階南面の限られた壁面から採光・日射取得を行い、吹き抜け空間を通じて2階に届けることが設計のメインテーマとなりました。

建物の断面設計は北側道路斜線によって屋根形状が南からの片流れとなり、ハイサイドライトでの日射取得で設計を進めます。しかし、高さ制限によりハイサイドライトの高さも最小限しか確保できないことが判明。都市型パッシブハウスの設計の難しさを味わうこととなりました。(※このハイサイドライトが、後に思わぬ問題を引き起こすことになる……)

その後、階高調整、構造設計、バルコニーとサッシの取り合い、空調ダクト設計、隣地からの視線等など──都市型パッシブハウスとしての全体調整が求められました。結果、建物形状、窓配置、すべてに意味があり、意図なく設計した部分はありません。
都市型パッシブハウスの設計は、まさに緻密な設計の折り重ねの連続になりました。

唯一の余白──北側に提案したヤマボウシ

唯一余裕のある北側スペースに、ヤマボウシの植栽を提案しました。
ヤマボウシは5〜7月に白い花を咲かせ、その姿は上階からの視線に映える樹木です。北側は道路を挟むため隣家と離れがあり、「明るい日影」となる環境。湿気を好む樹種でもあり、この土地に合うと判断しました。


3. 設計とは「折り重ねる」こと

都市型パッシブハウスの設計において、パッシブハウス認定取得の数値目標を達成するのは必要な要件ですが、それに加え、暮らしの要望を満足した「住まい」となっていることが最も重要です。素材、構法、施工、法規、生活イメージまで、複数の要件を満足させながら、検討を折り重ねていく

──この敷地条件で、求められた性能と空間をどのように両立できるのか?
──この設計は、思い描いた暮らしが実現できる「住まい」になるのか?

設計とは、条件や制約等の要件を一つ一つ検討し、何度も見直しを重ねて形にしていく作業です。そのプロセスは、直線的に積み上げるというよりも、判断と修正を折り返しながら折り重ねていく、「設計とは折り重ねること」と考えています。


都市部でも、ここまでできる

このプロジェクトは、「都市型敷地でもここまでできる」ことの一つの実例です。
迫る隣家、限られた日射、厳しい制約、──それでもなお、技術と工夫によって「豊かな暮らし」を実現する「住まいは可能だと信じています。


次回:Blog記事③|UA値の理由──シミュレーションの舞台裏

高断熱と暮らしのあいだ#1 築40年の家に住む設計士が考えること

なぜ築40年の家に住んでいるのか

私が今住んでいる家は、築40年のプレハブ住宅です。
この家を選んだのは「性能が良いから」ではありません。

たとえば、内部の建具。
当時流行っていたラワン材がしっかりと使われていて、年月を経て独特の風合いを持っています。
新建材では絶対に出せない質感で、家全体の雰囲気にしっくりと馴染んでいる。
木の建具が好きな私にとっては、大きな満足ポイントです。

また、ビニールクロスはDIYで塗装を重ねたり、自然素材の「タナクリーム」を自分で塗っています。
床材だけはDIYでは仕上がりに納得できなさそうだったので、大工さんにお願いしましたが、
その材料もわざわざ千葉の山武市まで行ってサンブスギを調達しています。

思えば、高断熱高気密住宅に目覚める前は「性能」にほとんど関心がありませんでした。
だからこそ、この家では“感性”の部分で存分に楽しむことができたのだと思います。
それが、今もここに住み続けている理由の一つかもしれません

この家に暮らして見えてきたもの

当然、断熱材などの性能面では限界があります。
でも、普通の在来木造住宅と違って、この家は“規格住宅”なんですね。
それが住んでいると何となく見えてきて、在来の木造住宅のように自由にはできない…
そういう“枠の限界”もまた、日々実感するところです。
(これはまたいつか、もっと詳しく書きたいテーマです。)

高断熱高気密住宅に憧れはあります。
でも、私が一番大事にしてきたのは「どんな材料で作られているか」。
そして、経年変化しても“味わい”が残る自然素材かどうか。
そういう意味では、この家は「性能」ではなく「素材の強さ」で、
私の暮らしを支えてくれています。

それでも高断熱高気密を勧める理由

とはいえ──
“寒さ暑さ”もまた“感性の一部”であるので、
やっぱり、人間が本当に快適だと感じる温熱環境で暮らすことは、すごく大切です。

それを最小限のエネルギーで実現することが、設計の使命だと私は考えています。
そのためには、もう「勘」ではダメで、ちゃんと理屈、計算が必要です。
シミュレーションソフトを駆使して、科学的な裏付けを持って設計する。
そこに設計者の役割の本質みたいなものがあると思います。

私はパッシブハウスの設計など高気密高断熱の設計をしますが、「持続可能性」が最も大切だと考えています。だからこそ、高断熱高気密という技術は、これからの時代に欠かせないものなんです

設計は、性能と実感をつなぐもの

改めて考えてみると、
私がこの家で感じているのは、単なる「性能の良し悪し」ではありません。

経年変化によって深みを増す素材、
大工とともに作った床、
自分で手を加えた壁や建具。

快適性は確かに大切ですが、
それを支えるのは、性能という「理屈」だけではなく、
暮らしの中で積み重なる「実感」や「記憶」だと思っています。

設計という仕事は、その両方をつなぐ役割を持っています。
性能を確実に押さえること。
そして、その上で、時間が経っても意味を持ち続ける空間をつくること。

私はこれからも、その両方を問い続けながら設計を続けていくのだと思います。

朝日とともに目覚める家は、設計でつくれるか?

自然のリズムを住まいに取り込む、ということ

朝のやわらかな光で目覚めるとき、
あるいは夕暮れに、空がゆっくりと色を変える時間に、
ふと心がほどける瞬間があります。

住まいづくりでも、そんな自然のリズムを取り入れることができます。

けれど、ただ窓を設ければいい、ただ性能を高めればいい──
そんな単純な話ではありません。

どんな光を、どんなふうに迎えるか。
そのひとつひとつが、暮らしの豊かさを形づくっていきます。

朝と夕の光が、暮らしの質を支える理由

人間の体には「体内時計(サーカディアンリズム)」と呼ばれる仕組みが備わっています。
朝に光を感じることでリセットされ、一日のリズムを整えながら、
夜には自然と眠りに向かう流れをつくります。

スタンフォード大学の睡眠研究でも、朝と夜、それぞれの光環境が
心身のリズムに深く影響を与えることがわかっています。

けれど、心地よい目覚めや穏やかな眠りを育てるためには、
ただ光を浴びればよいわけではありません。

「どんな光を、どのタイミングで、どんなふうに取り込むか」。

その繊細な選択が、毎日の暮らしの質を静かに支えているのです。

パッシブデザインで性能と暮らしを両立させる設計

家づくりでは、自然のリズムを無理なく取り入れる工夫ができます。
たとえば、朝の光を取り込むために窓の配置を考えること。

しかし、単純に「東側に窓をつければよい」というわけではありません。
高断熱高気密住宅では、窓の種類や日射のコントロールが非常に重要です。
朝の光は、直射ではなく、やわらかく空間に拡がる間接光が心地よい目覚めを助けます。

パッシブデザイン無しで、建物性能を上げようとするとUA値のみを追求しがちです。
サッシの面積を小さくして数値を稼ごうとする傾向も見られますが、それでは本末転倒です。

確かに、東西の開口部を小さくすることは消費エネルギーを小さくするには有効です。
ですが、それだけでは暮らしが豊かにはなりません。

パッシブデザインによって各部の仕様を決め、
消費エネルギーを計算して比較することで、
東側に大きな開口を設けることも、一つの手段になると考えます。

設計段階では、こうした性能と暮らしのバランスを一つひとつ丁寧にすり合わせていきます。
敷地の特性、ご家族の暮らし方、求める光の質──
それらを静かに聞き取りながら、「その家だけの心地よい朝」をかたちにしていきます。

小さな習慣が、光と暮らしを育てる

設計だけでなく、暮らしの中にも、自然のリズムを整える小さな工夫を取り入れることができます。

  • 遮光カーテンを控えめにして、やわらかな朝の光を感じられるようにする
  • 朝起きたらカーテンを開け、自然光をしっかり取り込む
  • 朝の光の中で数分だけ深呼吸する時間をつくる

毎朝のこうした小さな習慣が、
体内リズムを整え、
心地よい目覚めとともに、一日のはじまりをやさしく支えてくれるのです。

性能だけではない、暮らしを包む設計へ

高断熱・高気密の技術に支えられた快適な性能と、
自然のリズムに寄り添う、やわらかな設計。

その両方を大切にした家づくりが、これからの暮らしにはきっと求められていくでしょう。

ただ性能を追いかけるだけでは得られない、
光や風と共に呼吸するような心地よさ。

幸設計スタジオでは、
そんな暮らしのリズムを大切にしながら、
一人ひとりに寄り添った住まいをご提案しています。

朝の光も、夕暮れの静けさも、
あなたの暮らしをそっと支える力になります。

まずは、どんな光と暮らしたいか──
一緒に想像してみませんか。


暮らしを包む設計だけでなく、
電磁波対策や生活環境全般のサポートも、
スタジオ・アース四街道として取り組んでいます。

光や風、そして見えない環境まで含めて、
あなたの健やかな毎日をそっと支えていきたいと考えています。

建物探訪 PHJ関東支部見学会レポート──現場で見た“あれこれ”について

東京23区にパッシブハウスを建てるには?

2025年3月26日、パッシブハウス・ジャパン関東支部の見学会(2025 Vol.1)に参加しました。設計はArchiAtelierMAの丸山晃寿さん、場所は東京都練馬区。
今回は、都市部──それも23区内で建てられたパッシブハウス(申請予定)ということで、設計・施工面での工夫や制約への対応に注目して見学してきました。

都市部でパッシブハウスを建てるということ

準防火地域での建築という条件の中、外壁に木材を使い、かつ高断熱・高気密を実現し、さらに構造といった複数の性能を両立させながら、快適性と意匠性のバランスも追求された設計で、都市部でのパッシブハウスの可能性を感じる住宅でした。

東京23区内 練馬区に建つパッシブハウスの外観。飫肥杉の縦張とそとん壁を組み合わせた落ち着いた外観意匠。
木製サイディングとそとん壁を組み合わせた、都市型パッシブハウスの落ち着いた外観。(東京都練馬区)

見学会では、第2部に参加。以下、私が印象に残った点をまとめておきます。


室内の体感と設計の工夫

  • 家族すべてに個室が確保されたプランで、全館空調の設計が建築設計ときれいに統合されていた
  • 見学当日は外気温が24℃まで上昇。しかし、エアコンは稼働せず、換気のみの運転。それでも室内は快適で、断熱性能によって前日までの蓄熱だけで不快感がまったくなかったのが印象的だった。

細部の工夫と素材の魅力

  • 防火の制限に対応するため、木製サッシと防火仕様の樹脂サッシを使い分けていたが、南面ファサードは自然に仕上がっていて違和感がなかった
  • 外壁は飫肥杉ファーサードラタン縦張とそとん壁かき落としという組み合わせで、とても落ち着いた表情をつくっていた
  • 室内仕上げは左官材。特に興味深かったのが、パーシモンEウォール柿渋仕上げ。消臭・抗菌など多機能性を持ち、素材としての面白さを感じた。
  • その他にも再生和紙など国産材を積極的に採用しており、こうした素材選びの工夫には強く惹かれるものがあった。わたしも天然素材素材を積極的に取り入れるようにしているが、それよりも深く研究されていてこれからの参考になった。
木製階段とモザイク調タイル壁が並ぶ空間。廊下から階段室へのつながりがスムーズにデザインされている。
廊下~階段室へのつながり。素材や仕上げの組み合わせが空間に変化を生んでいた

空間の質を高める工夫

  • 様々な種類のタイルがアクセント的に使われており、空間の質を上げていた
  • 階段上部の吹き抜け+ハイサイドライトからの光がとても印象的で、美しかった。
  • 再生和紙を使った建具、上部アーチの出入口など、和室がとても丁寧につくられていて、特に心に残った。
吹き抜け上部に設けられたハイサイドライトから自然光が差し込む室内。左官仕上げの壁面がやわらかく光を受け止めている。
ハイサイドライトからの光が、室内に静かな陰影を生んでいた

丸山さんの設計哲学と施主との関係性

この建物には、設計者・丸山さんの考えが丁寧に反映されていると感じました。性能や仕様だけでは語りきれない部分に、施主様との信頼関係や対話の積み重ねがにじみ出ていたように思います。強く主張するわけではないけれど、住まい全体に穏やかな一体感があり、印象に残る一棟でした


都市部でパッシブハウスを建てるには、さまざまな制約があります。それでもなお、こうした具体的な事例に触れることで、今後の可能性が広がっていく──そう感じさせられる見学会でした。

📎 関連記事建物探訪 パッシブハウスオープンウィークスでスズモクさんの4棟目を見学

パッシブハウスジャパン全国大会2025 参加レポート

1. はじめに

パッシブハウスジャパン全国大会2025に参加し、最新の技術・設計・市場動向について学びました。今年は特に、新築以外の事業戦略、パッシブハウスの多様化、そして施主のリアルな声が印象的でした。本レポートでは、注目したポイントを整理してご紹介します。

2. 夢建築工房:リノベーション戦略の可能性

特に興味深かったのは、夢建築工房が取り組む「買取再販リノベーション」戦略。新築にこだわらず、地域を限定してリノベーションを進めることで、街全体の価値を高めるというアプローチが印象的でした。

🔹 ポイント

✅ 1980年頃の物件を長期優良住宅認定レベルまで改修 → 買取の際に基礎の仕様をチェックし、10か月ほどで販売まで進める

✅ 設計時間の効率化 → 作業工数を記録・分析し、削減できる部分を社内で検討

✅ 地域貢献のためのマップ作成 → 居住者が推薦するお店の詳細なマップを作成し、設置後すぐになくなるほどの人気

この「地域密着型のリノベーション戦略」は、単なる建物改修ではなく、街づくりと設計を一体で考える発想として、大工仲間とも共有したい視点でした。たい。

3. PHアワード:多様なパッシブハウスの広がり

今年のPHアワードでは、より多様なパッシブハウスが登場し、「性能のその先」が問われる時代に突入していると感じました。

🏆 今年の大賞(2作品)

✅ 追分宿・平屋のPH(設計:丸山さん) → 無駄のない動線計画とシンプルなプラン

✅ 長岡PH(施工:池田組) → 瓦と自然素材を活用した和風デザイン、積雪2メートル対応で耐震等級2

🔹 印象的だった受賞作品

✅ 岩村パッシブハウス(共同住宅型の社員寮) → 社会的意義のある取り組み + 大型パネルを活用した施工

🎯 注目の設計ポイント

✅ 機能性 + デザインのバランス → 「性能が良いのは当然。その先にどのような魅力を持たせるか?」が重視される傾向

✅ 大型パネルを活用した施工 → 施工の効率化と精度向上

✅ 社会的な役割を持つパッシブハウス → 省エネ住宅としてだけでなく、地域や企業の課題解決の場としての活用

海外事例では、低所得者向けの共同住宅がPHの新しい社会モデルとして採用されていますが、日本での実現にはさらなる議論が必要だと感じました。

4. 施主クロストークと認知度向上の課題:パッシブハウスの「価値」をどう伝えるか?

「PHはフルカスタム、ストレスがないのでプライスレス。」という言葉がとても印象的でした。

施主クロストークでは、パッシブハウスの施主にとって、「ストレスがない」という価値は非常に大きく、その価値はまさにプライスレスとのこと。

PHJからは、どうすればPHがもっと広まるか? PHをどうやって一般の人に伝えるか?この問題についてもアイディアをお聞きしています。

PHの認知度向上の課題

課題①:体感しないと分からない快適さ

→ 宿泊体験できるモデルハウスの提案が効果的?

課題②:どの層をターゲットにするか?

→ PHはハイエンド層向けが中心。しかし、施工可能な工務店の有無も大きな要因

課題③:PHJメンバーができること

→ SNSで施主のリアルな暮らしを発信し、「本当に快適な住まいとは?」を伝える

「パッシブハウスの価値を伝えること」は、設計者・施工者の発信に加え、住んでいる施主からの発信は大きな影響力を感じます。住んでいる施主の声は、PHの価値を伝えるうえで大きな影響力を持ちます。「実際に住んでいる人の体験談」は、設計者や施工者の発信以上に説得力があると実感しました。

5. メーカー展示ブース

全国大会では、高断熱高気密住宅に欠かせないメーカーのブースが並びました。その中でも特に注目したのが以下の2つ。

ダイナガ:防蟻基礎断熱工法

基礎断熱工法はシロアリからの被害、防蟻対策がとても大切です。ベタ基礎下に敷く防湿シートが一般的ですが、今回は防蟻効果があるオプティEXシートに注目しました。基礎断熱工法に必要な資材が一式そろっていて、中日サニオンの佐藤さんからお勧めされていたことを思い出しました。

防蟻基礎断熱工法 


Zehnder:壁掛式全熱交換器

PHI認定の壁掛式のスケルトンモデルが展示されていました。さらに、PH基準以下の性能の住宅にも使える換気+冷暖房のモデルが今後登場予定とのことです。

壁掛式全熱交換機:CA_L925 

6. まとめ:「性能のその先」を考える時代へ

今回の全国大会では、「パッシブハウスのその先は何か?」 が強く問われていることを実感しました。

・PHに暮らしている施主目線からの提案は、パッシブハウスの価値を広めるためには、「高性能住宅としての理想」を語るだけでなく、

✅ 宿泊体験できるモデルを確保し、体感できる機会を作る
✅ ハイエンド層と一般層、それぞれに合った戦略を考える
✅ PHJメンバーが施主の声を活かしながら情報発信を強化する

また、夢建築工房の「地域を豊かにするリノベーション戦略」には、設計者として学ぶべき点が多くありました。

「今ある住宅をどう生かすか?」という視点を持ち、「高断熱高気密の技術の向上」だけでなく、「その先にある住まいの価値」を探求していきたいと思います。
こうした体験を通じて 「本当に快適な家づくりとは何か?」 を考え続けながら、設計に取り組んでいます。

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建物探訪 パッシブハウスオープンウィークスでスズモクさんの4棟目を見学

茨城・坂東でパッシブハウス(PH)を手がけるスズモクさんの4棟目のPHを見学してきました。
今回はPHオープンウィークスの一環としての訪問。実際に体感してみて、設計の工夫や空調の調整など、改めて学びがありました。

スズモクPH外観

建物概要

・延床面積 29.80坪
・UA値 0.16(W/㎡K)
・C値 0.1(cm²/m²)
・換気システム:1種換気(ローヤル電機)
・空調:ルームエアコン2台(壁掛け+床下エアコン)
・キッチン:循環式

開口部の設計と日射コントロール

・LDKの開口部は、南側にスマートウィン(佐藤の窓)+外付けブラインド(ヴァレーマ)を採用。
 → 敷地が西側に振れているため、日射取得のために南面の窓を活かす工夫。
西側には開口部なし。
 → 直射日光による室温上昇を抑える、パッシブデザインの考え方。

LDK全景:外付けブラインドでコントロールされた室内環境

設計時のシミュレーションが重要

こうした日射コントロールを適切に行うには、DesignPHを使ったシミュレーションが必須になります。
特に南西や北東からの日当たりは、シミュレーションを行って初めて具体的な影響を確認できます。
設計段階で正確な日射取得量や影の動きを把握することで、冬の日射取得を最大化し、夏の日射を適切に遮る設計が可能になります。

4棟目の経験がもたらす判断力

敷地を見ただけでPH認定が可能か、だいたい分かるようになってきた」とのこと。
4棟目ともなると、土地の形状や周辺環境を考慮しながら、PHの条件を満たせるかどうかが直感的に判断できるようになるらしい。経験の積み重ねが活きる部分ですね。

訪問時の体感 – 輻射熱の心地よさ

・PH申請予定の建物だったので、断熱仕様の詳細は聞いていませんが、室内に入った瞬間の快適さが別格でした。
・午後の訪問でしたが、外付けブラインドで日差しを調整し、室温が上がりすぎない工夫。
・床下エアコンの稼働音はほぼ感じず、運転しているかどうかも分からないくらい静か。
・シャツ1枚で十分暖かく、椅子に座っていても足元からじんわり伝わる輻射熱。
「十分断熱された部位が輻射暖房になる」という宿谷先生の話を実感する空間でした。

この「足元からじんわり伝わる暖かさ」が、まさにパッシブハウスの特徴。
エアコンの風を感じることなく、壁や床から伝わる輻射熱のおかげで、自然な暖かさに包まれる感覚 でした。
特に印象的だったのは、部屋全体の温度が均一だったこと。立っていても、座っていても、寒さを感じる場所がほとんどない。
これが適切な断熱・気密・日射取得のバランスが取れた空間 なんだと実感しました。

LDK全景

PHレベルの建物だからこその注意点

北側・西側の壁面でも、日射による室温上昇が起こる点に注意が必要。
・PHレベルの高断熱性能だと、直射日光が当たるだけで壁が蓄熱し、輻射熱の影響が大きくなる。
・窓だけでなく、壁の蓄熱や日射調整も含めた設計が重要になる。

👉 こうした問題を未然に防ぐために、DesignPHを活用したシミュレーションが不可欠。
シミュレーションを通じて、南西・北東からの日射がどれだけ影響を与えるかを確認し、適切な日射遮蔽計画を立てることができる。

北側窓:APW430+ブラインド

設計だけでなく、運営や経営の話も

スズモクさんとは、建物の話だけでなく、HPやYouTube運営、会社経営の話も。
私の悩みも聞いていただき、たくさんの気づきをもらいました。こういう対話が、次の設計や活動につながるのを実感。


私自身、パッシブハウスの可能性を探求しながら設計に取り組んでいます。住まいの快適さや省エネ設計に興味のある方は、ぜひ一度ご相談ください。

パッシブハウスの設計には、土地の特性や日射のシミュレーションが欠かせません。
私自身、こうした体験を通じて「本当に快適な家づくりとは何か」を探求しながら、設計に取り組んでいます。

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また、パッシブハウス設計のシミュレーションについて詳しく知りたい方は、以下の記事もおすすめです。

📖 関連記事
🔹 日当たりをシミュレーションする
🔹 パッシブハウス設計のためのDesignPHとSketchUp活用ガイド

🔹 2017年にPHを初体験した時の記事:パッシブハウス体験しました 第5回国際パッシブハウスデー

🔹 PHJ高橋建築さんのPHを見学した時の記事:建物探訪 秩父の高橋建築さんの高性能住宅を体感してきました

ご興味のある方は、お気軽にご相談ください!

エクセルギーで考える温熱環境:宿谷昌則先生の講演から

先日、PHJ関東支部のサブリーダーとして企画・運営した宿谷昌則先生の『人・建築・地球とエクセルギー』発刊記念セミナーを開催しました。新刊のコンセプトと同様に、講演でも数式を使わず、直感的に理解できる形でエクセルギーの視点が紹介されていました。

特に印象的だったのは、パッシブ型技術とアクティブ型技術の役割分担と、エクセルギーの原則から見る「断熱の新しい捉え方」です。

パッシブ技術の重要性:建築の基本性能を確保する

宿谷先生が強調されていたのは、建築の基本性能(パッシブ型技術)をしっかり確保することが最優先であり、アクティブ型技術はそれを活かす役割であるということ。

これは、まさにパッシブハウスの利点そのものです。

✅ 断熱・気密をしっかり確保することで、エアコンや空調の電気代を大幅に削減できる。

✅ 逆に、建築の基本性能が低いと、いくら設備を高性能にしても無駄が多くなる

例えば、エアコンの効率を上げるより、まず断熱・気密を整えたほうが、トータルで見て省エネルギーになるのです。

パッシブ型技術(断熱・気密)とアクティブ型技術(設備機器)の関係

パッシブ型技術を強化することで、アクティブ型技術の使用を最小限に抑えることができ、結果として一次エネルギーの消費を削減できます。
例えば、断熱・気密が優れた家では暖房・冷房の必要量が減り、電力やガスの消費が抑えられます。これは、エクセルギーを無駄にせず、エネルギーを最も有効に活用する設計アプローチと言えます。

エクセルギーとは?

エクセルギーとは、「エネルギーを有効に使える度合い」を示す概念です。エネルギーそのものは保存されますが、時間が経つとエネルギーの質(エクセルギー)が低下し、最終的には使えなくなります。

エネルギーとエクセルギーの違い

  • エネルギー(Energy) は変換しても消えません。(例:電気を使ってお湯を沸かす)
  • エクセルギー(Exergy) は「役に立つエネルギーの質」。エネルギーが広がるほど使えなくなります。(例:お湯が冷める)

エクセルギーの消費とエントロピー

エネルギーが使われると、エクセルギーが減少し、エントロピー(エネルギーの拡散・無秩序度)が増加します。

  • 例えば、熱いコーヒー(高エクセルギー)は冷めるとエクセルギーを失い、周囲の空気に拡散(エントロピー増加) します。
  • 建築でも、断熱が不十分だと、暖房のエネルギーがすぐに外へ逃げてしまい、エクセルギーの無駄が大きくなる

建築におけるエクセルギーの活用

🏡 断熱・気密を強化することで、エクセルギーの無駄を防ぎ、少ないエネルギーで快適な住環境を維持できる。
🏡 断熱材の役割は、熱エネルギーを有効に使うことで、エクセルギーの消費を抑えること。
🏡 建築設計の目的は、エクセルギーを最大限活用し、エネルギーの効率的な使い方を考えること。

エクセルギーの原則から見る「断熱の新しい捉え方」

講演の中で、宿谷先生が示したエクセルギーの原則に基づく考え方の転換が非常に印象的でした。

通常、私たちは壁の断熱性能を「熱を通しにくくする」ものと捉えることが多いですが、エクセルギーの視点では「加熱パネルを取り付けた状態」と考えることができるのです。

エクセルギーの原則

  • 断熱された壁は、壁からの放射熱によって室内を暖める役割を果たしている。
  • つまり、室内の人は、断熱壁からの熱放射を受けていることになる。
  • 断熱性能が低いと、熱が外に逃げるため放射も弱まり、室内の体感温度も下がる。

この考え方を理解すると、

✅ 断熱の目的は「熱を逃がさない」ことだけでなく、「壁そのものを放射熱源にする」ことでもある。

✅ 壁の断熱性能を上げることは、室内環境のエクセルギー効率を高めることにつながる。

これは、従来の「断熱=熱を遮る」という考え方から、「断熱=エネルギーを有効に活用する」という発想の転換になります。

まとめ & 今後の展望

今回の講演を通じて、エクセルギーの視点を取り入れることで、建築環境をより深く理解できることを再確認しました。

  • パッシブハウスの本質は、エクセルギーの考え方と親和性が高い。
  • 断熱気密をしっかりすれば、設備のエネルギー負荷を最小限に抑えつつ、快適な環境を維持できる。
  • エクセルギーの視点を取り入れることで、「断熱は加熱パネルである」という新たな捉え方が生まれる。
  • エネルギーは保存されるが、使える能力(エクセルギー)は消費され、最終的に使えない形(エントロピー)になり地球外へ放出される。建築設計においては、このエクセルギーの消費を最小限に抑えることが重要となる。
  • 今後も、エクセルギーの視点を設計や実務にどう活かせるか探求したい。

さらに、今回の講演をもって、PHJ関東支部のサブリーダーとしての役割を終えることになりました。これまで関わってくださった皆さまに感謝いたします。今後もパッシブデザインやエクセルギーの視点を大切にしながら活動を続けていきます。

過去にもPHJの仲間と「森のカフェ 軽井沢南ヶ丘」でエクセルギーを学ぶ機会がありました。パッシブ認定を受けた実際の建物でエクセルギーを体感しながらの学びは、まさに「理論と実践が一致する」経験でした。

➡ その時の建物探訪の様子はこちら

🏡 エクセルギーを活かした住まいづくりを考えている方へ 🏡

「パッシブ設計を取り入れたいが、どう進めればいいのか?」とお考えの方へ、エクセルギーの視点を活かした設計相談を受け付けています。

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ご興味のある方は、ぜひコメントやお問い合わせをお寄せください!

私たちが考える、自然と共生する設計の基本

自然と共生する設計は、単に「エコ」や「環境にやさしい」という言葉だけでは語り尽くせません。
私たちは、自然エネルギーを最大限に活かし、住む人の快適さと建物の持続可能性を両立させることを目指しています。その中でも特に注目しているのが、「日射取得」 の工夫です。


建物を設計する際、まず重要になるのが、敷地の日影を考慮したシミュレーションです。
このプロセスでは、太陽の動きを観察し、日射の角度や季節ごとの変化を検討します。そして、太陽光が効率よく差し込む窓の位置を慎重に決定します。

たとえば、周囲を建物に囲まれた敷地では、日射が届くポイントが限られることがあります。このような場合、ピンポイントで「日射取得」を確保する工夫が求められます。窓を設置する壁面の位置が建物全体の性能を左右するため、シミュレーションの結果をもとに、最適な配置を導き出します。


窓には日射取得の役割だけでなく、建築基準法を満たすための採光や換気を確保するという重要な機能もあります。
そのため、窓の配置を考える際には、自然エネルギーの活用と法規上の要件を同時に満たすことが必要です。これを実現するためには、設計者の技術と工夫が求められます。


自然と共生する設計は、単なるデザインの工夫や高性能な設備に頼るだけではなく、精密なシミュレーションを活用した自然エネルギーの利用が鍵となります。
今回ご紹介した日射取得を意識した窓の配置は、その一つの具体例です。
建物が自然と調和することで、住む人にとって快適で、環境にも配慮した住まいが実現します。

敷地と環境を活かす建築デザイン: シミュレーションの力

建築デザインのプロセスでは、シミュレーションが理想の形を見つけるために重要な役割を果たします。
理想の形を実現するには、好みのスタイルや建築法規など、さまざまな要件があります。しかし、シミュレーションは自然環境を十分に活かすために欠かせないツールです。

例えば、あるプロジェクトでは、周囲を建物に囲まれた敷地が課題となりました。

そこで、日影シミュレーションを活用することで、採光を確保できる建物配置を見つけることができました。

このように、周辺環境の影響を把握するためには、シミュレーションが欠かせません。

建物の外皮性能(断熱材の厚さ)やUa値だけでは、燃費の良い建物は実現できません。
例えば、冬季に十分な太陽光を取り入れるための南向きの窓配置や、夏季の強い日射を遮る庇(シェーディング)の設計は、シミュレーションを通じた確認があって初めて適切に行えます。
パッシブハウスの設計では、断熱や気密などを重視した5つの基本原則があります。この5原則に加え、太陽光をどのように取り入れ、遮るかというバランスも重要なポイントです。

こうしたプロセスを経て、自然環境を最大限に活かした建物配置を実現しました。
シミュレーションは、理想のデザインを形作るための強力なサポートツールです。技術を活かして、より快適で持続可能な住まいを目指していきたいですね。

本記事では、シミュレーションの重要性について概要をお伝えしました。具体的な実例については、追記していく予定ですので、引き続きご覧いただければ幸いです。

— #建築デザイン #シミュレーションの力 #パッシブハウス

厳しい規制の中で生まれる創造性:カウフマン建築が教えること

先日投稿しました建築家ヘルマンカウフマン氏の講演会の続きになります。
今回の記事では、竹中工務店との協力による日本の施工現場での実践例に注目しました。

一方、前回の記事では、ウッドステーションやモックの技術進化について触れています。それらの技術が背景にあることで、本記事で取り上げるパッシブタウン第5期街区の事例にも、さらに深い意義が生まれています。


(※前回の講演記事はこちら

施工技術と設計哲学:パッシブタウン第5期街区

 YKK不動産が推進する「パッシブタウン」プロジェクトの最終街区が公開されました。このプロジェクトは、富山県産材を87%使用し、脱炭素建築を目指しています。RCコア構造により地震力を軽減し、耐火性を備えた木質ハイブリッド構造が特徴。Power to Gas技術やプレファブ工法の活用による効率的な省エネ設計が、持続可能な社会への一歩として注目されています。 

出所:YKK不動産、竹中工務店

記事のリンクはこちらから

木質ハイブリッド構造でつくる最先端の脱炭素建築(※日経クロステックより要約)」

YKK Passivetown, Kurobe Hermann Kaufmann + Partner ZT GmbHより


環境と技術の最適解を求めて

カウフマン氏の日本の地震に対する法規や消防法への対応は、非常に大変だったとのことでした。(通訳の方が訳した「消防法」という言葉は、おそらく「防火規定」を指しているのでしょう)

講演中にカウフマン氏の基本図面と実施図面を比較する機会がありました。センターコアの占める割合や厚さ、カーテンウォールの厚さなどが大きく異なり、これらを比較することで、日本の規制が建築デザインに与える影響を具体的に理解することができました。またオーストリアのフォアアールベルク州にあるLifeCycle Tower (LCT ONE)との比較も行われ、コア(LCT ONEでは片側偏心コアでしたが)の割合の違いは一目瞭然でした。


カウフマン氏の設計では、スラブの薄さやカーテンウォールの軽やかさがとても魅力的ですが、日本の厳しい耐震・防火規定により、設計の見直しが必要となりました。その中で、竹中工務店と協力し、RCコアを増強しつつも木材の活用を最大限に引き出したハイブリッド構造という革新的な解決策が生まれました。

出所:YKK不動産、竹中工務店


建築設計において、与えられた条件の中で最適解を導き出すプロセスは、単なる制約への対応ではなく、新たな価値を創造する機会となります。このパッシブタウン第5期街区プロジェクトは、まさにその典型例といえるでしょう。このような厳しい制約の中から、新しいアイディアを生み出している姿勢がとても印象的でした。


施工中の雨とプレファブ工法の役割

また、カウフマン氏は講演では、施工中の雨による木材の濡れを極力避けることの重要性についても触れていました。木材は湿気を含むことで品質が低下する可能性があるため、建材の搬入スケジュールや現場の雨対策が設計と同じくらい重要だと強調しています。

オーストリアと比較し、『施工途中で雨が降っても雨漏りしない』という竹中工務店の施工技術を高く評価していました。この点は、日本の施工現場における優れた管理体制と技術力を象徴していると言えます。日本の施工現場では、雨のリスクを避ける工夫が投稿などで話題になるように、雨対策は日本の施工現場において、重要な管理項目の一つです。日本の施工体制の素晴らしいポイントの一つです。

迅速施工を実現するため採用されたプレファブ工法には、木材を湿気から守りながら作業効率を上げるという、カウフマン氏の哲学が反映されています。

出典:Hermann Kaufmann Architekten: Architecture and Construction Details

持続可能な技術としての可能性


カウフマン氏の設計は、シンプルなデザインと精緻なディテールなど、その意匠面に注目が集まりがちです。ですが、その設計を実現するために、直面した条件から逃げず、粘り強く問題解決を重ねるカウフマン氏の姿勢に強い印象を受けました。

竹中工務店の雨対策や迅速施工の技術は、プレファブ工法の可能性をさらに広げ、日本独自の建築価値をさらに深化させました。また、カウフマン氏が示した厳しい規制の中で創造性を発揮する設計哲学は、私たちの未来の建築を導く重要な示唆に満ちています。この技術の進化は、単なる効率化ではなく、持続可能な社会に向けた新しい価値創造の一環です。こうした建築の可能性を、私たちの生活や環境にどのように活用できるのか、一緒に考え続けたいと思います。

前回の記事はこちらからどうぞ