暮らしとともに育つ家──アップデートしやすい設計の考え方

住宅や建築の設計をしていて常々感じるのは、家が究極の一品製作品だということ。
家電や自動車はメーカーが巨額の開発費を投じて作る工業製品ですが、住宅は一品もののオーダーメイド。
同じ形の土地でも、敷地が変われば条件も変わり、まったく同じ家にはなりません。

暮らしをアップデートする

建物が完成して暮らし始めると、「もう少しこうしたい」と思う部分が出てくることがあります。
それを手を入れながら自分たちの暮らしに近づけていくことも、家を楽しむひとつの形ではないでしょうか。
住宅は、完成した時がゴールではなく、暮らしながら少しずつ完成に近づいていくもの。
家族の成長に合わせたり、好みに寄せたりしながら手を加えていくことが大切だと思います。

とはいえ、未完成の状態でお渡ししているわけではありません。
設計前にはしっかりヒアリングを行い、ご要望を反映します。
ただ、予算の関係ですべてが叶うわけではないのも事実です。

そこで、設計では 「後から変えにくい部分はしっかり作る」 ことを重視しています。
例えば、耐震等級や壁の中に隠れる断熱材など、建物の性能に関わる部分にはしっかり予算をかける。
一方で、内装や仕上げなど 後から変更しやすい部分は、暮らしの変化に合わせて手を入れられる ほうがいい。
そんな考え方で、アップデートしやすい設計を心がけています。

設計の工夫 〜シミュレーションの活用〜

後から変えにくい部分は、設計段階でしっかりと決める。
耐震等級や壁の中の断熱材など、建物の性能に関わる部分は後から手を加えるのが難しいため、設計時にしっかりと検討し、最適な形を追求することが重要 です。

そのために、パッシブ設計を確実に機能させるためのシミュレーション を活用しています。

まずは敷地環境を知る


最初に行うのは、パッシブデザインで大切な日射取得を左右する敷地環境の確認 です。
周囲の建物が敷地にどんな影響を与えるか、シミュレーションで確認します。
南側だけでなく、東・西側の建物の影響も大きいことがあるので、事前の予測と合わせて検討します。
「この方向なら日射を取り込めるはず」と思っていても、シミュレーションをすると意外な影響が見えてくることもあります。
数値や視覚的な分析をもとに、パッシブデザインに基づいて最適な建物配置や窓の設計を進める ことが、アップデートしやすい住まいの第一歩です。

住まいをアップデートしやすい設計を考えるためには、敷地環境を正しく把握することが大切です。
→ 詳しくはこちら『敷地と環境を活かす建築デザイン:シミュレーションの力

建物の性能を決める

次に行うのが、屋根・外壁・床・開口部などの外皮性能を決定する作業 です
ホームズ君新住協のQPex を活用し、断熱材の種類や厚さ、開口部の仕様を細かく計算。

設計の過程では、ホームズ君とQPexを行ったり来たりしながら、仕様を決めていく ことになります。
QPexは断熱材の種類や厚さ、開口部の仕様を入力すると、Ua値や暖冷房エネルギーの計算ができる ので、とても便利です。


特に、断熱性能は一度施工すると後から大きく変更できない部分 なので、設計段階でしっかりとした検討が必要です。
ここでのシミュレーションは、「将来的にメンテナンスしやすい設計」と「変えにくい性能を最適化する設計」のバランスを取る ために重要な工程になります。

室温シミュレーションで快適性を確認

次に、ホームズ君を使った室温シミュレーション を行い、計画した仕様が快適性を満たすかを検証します。
シミュレーション結果をもとに、開口部の配置や断熱仕様を微調整し、エネルギー効率と快適性を両立する最適なプラン を探ります

さらに、パッシブハウス・ジャパンの「建物燃費ナビ」も活用し、エネルギー消費量を確認。

次に 建物の性能を決定する作業。こうして 性能を数値で検証しながら設計することで、住み始めてからの快適性が確保される ことにつながります。

施工が伴ってはじめて性能が生きる

そして、どれだけ良い設計をしても、施工が適切でなければ性能は発揮されませんシミュレーション結果を現場で正確に再現できるかどうか も、住まいの性能を決定づける重要なポイントです。

このため、施工時にも適切な断熱・気密施工が行われているか確認しながら、設計の意図をしっかりと伝えることを心がけています。

家は、暮らしとともに成長する

家は、完成した瞬間がゴールではなく、暮らしとともに成長し、アップデートしていくものです。
設計の段階で 「変えられない部分はしっかり」「変えやすい部分は柔軟に」 を意識することで、住まいはより快適になります。
あなたの暮らしにフィットする家を、一緒に考えてみませんか?
まずはお気軽にご相談ください。

家を計画するなら、まずは敷地環境を知ることが重要です。
『日当たりをシミュレーションする:敷地編』を読む

あなたの住まいも、アップデートできます。まずは無料相談から始めませんか?
設計のご相談はこちら

”換気と住宅にまつわるお話 ~パッシブハウス・ジャパンより

先日、コロナウィルスの感染拡大を受け、パッシブハウス・ジャパンより
”換気と住宅にまつわるお話”がFacebookに投稿されました。
ご覧になっていない方に向けて再掲させていただきます。※一部、見出しを付けています
とてもわかりやすい内容ですのでご覧いただければと思います。

20200307追記

パッシブハウス・ジャパンのHPにも掲載されています。

特別寄稿  ~住宅と換気にまつわるお話~

 

 

以下貼り付け
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住宅と換気にまつわるお話

非営利型一般社団法人パッシブハウス・ジャパン

森みわ・松尾和也・竹内昌義

2020年3月4日

今回のコロナウィルスの感染拡大を受け、「住宅や建築空間の換気は十分なのか?」といった不安をお持ちの方が増えているように見受けられます。これまで住宅をはじめとする建築の換気設備について、あまり意識をした事が無い方が圧倒的多数だと思いますので、ここでパッシブハウス・ジャパンより、主に住宅を例として換気のしくみについて解説させて頂きます。

なぜ換気が必要なのか?

室内に人が滞在すると臭いが籠ったり、CO2濃度や湿度が上昇し、家具や建材からはホルムアルデヒドをはじめとするVOCが発生したりすることから、健康的な住環境を確保するため、日本では建築基準法により24時間換気設備の設置が義務付けられているのは皆さんもご存知かもしれません。

具体的には、1時間に建物内の気積の半分の空気の入れ替えが必要で(これを0.5回/hと表します)、2時間に1回、建物内の全ての気積分の空気が入れ替わる計算となります。

換気のしくみ 日本の一般的住宅場合

日本の通常の住宅(一般的な既存建築、または施主が特に何もこだわらずに建てた新築)において、この要求を満たすための換気設備というのは基本、トイレや浴室の天井等に設けられた排気ファンと、それに対応する居室の壁に取り付けられた自然給気口と呼ばれる穴ぼこです。

匂いや湿気が発生するトイレや浴室から、排気ファンで空気を引っ張れば、自然と居室の穴ぼこから新鮮空気が入ってくるであろうという、希望的観測に基づくコンセプトと言えます(これを業界では三種換気と呼びます)。

この換気方式を成立させるためには、排気ファンで空気を引っ張った際、建物内が負圧状態になる事が条件になるのはお判り頂けるでしょうか?ストローに穴が空いていては、何時まで吸ってもジュースが口元まで上がってこないのと同じで、もし家じゅう隙間だらけで、高気密とは無縁な作りであったら、恐らく新鮮空気はトイレの窓の隙間等(よりによってそこにガラスルーバー窓?!)から入り込んで、トイレの臭いは取れたけれども居室の空気は入れ替わらないという現象が起きます。

日本の一般的住宅での換気の現状ー三種換気について

大半の気密性能が伴わない三種換気の住宅では、特に2階の自然給気口からは新鮮空気が入ってこないばかりか、場合によっては自然排気口になっている家もある程です。

更に冬期になると、居室の壁の穴ぼこから冷たい外気がスースーと入ってきて不快であるという事で、住まい手がこの穴ぼこを塞いでしまうケースが多発します。断熱性能の伴わない家を、一生懸命温めようとする結果、換気と暖房が両立しなくなり、住まい手は空気の質よりも、空気の暖かさを選択してしまいがちなのです。

「日本の伝統家屋はもともと隙間だらけで勝手に換気がなされ、大変理に叶っていた」という意見は、重要文化財級の伝統家屋のお話であり、現代の一般的な建築(即ち、相変わらず隙間だらけではあるものの耐震性能の向上により伝統家屋ほどスカスカでもない建築)においては、この勝手な換気は成立していないケースが大半と認識して頂くべきでしょう。

一種換気・二種換気って?

そもそも換気があまり機能していない現代の日本の家が、省エネルギー性や快適性向上の観点から近年、高気密高断熱化の傾向にあり、その過程で計画的な換気の重要性が理解され始めました。現在では熱交換技術の発達もあり、排気側だけでなく、給気側もファンで引っ張る“一種換気”というシステムも導入事例が増えています。

これらの建築では、施工後に実際の換気風量を測定し、各部屋に必要な給気量または排気量が確保されているかを確認する必要があり、ドイツのパッシブハウス認定でもこれが義務付けられています。

また、余談ですが医療施設などでは新鮮空気を給気側のファンで室内に押し込み、建物内を若干の加圧状態にする事によって、外部から埃などが入り込まないようにする“二種換気”なる方法も以前から採用されています。

三種換気のチェック方法

今皆さんがお住まいの住宅で、換気性能に関して不安がある方は、まず三種換気の場合、居室の自然給気口が塞がっていないかをチェックしてみてください。

排気ファンに繋がる吸い込み口にフィルター等が設けられている場合は、埃等で目詰まりしていないかもチェックします。

浴室やトイレ、廊下など、排気経路の窓が常に開いている、または床が隙間だらけだと、居室の自然給気口からは新鮮空気が入りませんので、注意が必要です。

それでもやはり気になる方は市販のCO2センサーを購入してみることで、人が滞在している部屋できちんと換気が出来ているかを確認することが出来ます。就寝中も寝室でCO2濃度が1000ppmを超えない状態が理想です(但し小さいお子さんと川の字で寝ている家庭ではCO2発生量が多すぎるため、1500ppmが妥当)。

一種換気のチェック方法

一種換気の住宅で、竣工時に換気風量チェックを行っていない場合は、今から測定の依頼をするのも不安解消に効果的でしょう。パッシブハウス・ジャパンでは風量調整レポートの書式を無償配布しておりますので、お問い合わせください。

今は暖房シーズンですので、これらの対策無しに、窓を常に開放する事は過剰換気(即ち過乾燥)のリスクと暖房用消費エネルギー増大の観点からあまりお勧め出来ません。

住宅の空調について

さて、換気の話は以上ですが、冷暖房期には室内を快適な温度に保つために、空調を行います(床暖房等の輻射暖房のケースはこれに当てはまりません)。

通常のルームエアコンの仕事は、室内の空気を加温もしくは冷却し、それをまた室内に放出するというもので、換気機能は一切ありません。ルームエアコンを一部屋に1台ずつ設置するような、日本の住宅で一般的なやり方では、その部屋の中の空気をぐるぐる回しているだけですが、床下エアコンやダクト式エアコンのように、1台のエアコンで住宅内の複数の部屋を暖めようとする設計では、複数の部屋の空気がぐるぐると回ります。

住宅の断熱性能が向上すると、そもそも1台のエアコンで家一軒が空調出来てしまうため、このような方式に移行していきます。

ビル空調のしくみ

また、ホテルやオフィスのような大型施設では、もともと断熱性能とは無関係に、ビル空調方式と言って複数の部屋から集めた空気を空調し、また複数の部屋に空気を再分配しています。

このやり方はダイヤモンドプリンセス号のようなクルーズ船に限った手法ではなく、非住宅建築ではごくごく一般的な手法なのです。この換気機能と空調機能は、全く異なる目的のために設計されており、目的が異なるため、換気に必要な空気の送風量と、空調に必要な空気の送風量とは、全く次元が異なります。

簡単に言うと、先ほど述べた0.5回/hの換気量に必要な空気の送風は、建物を空調する(例えば冬は室温20℃以上、夏は25℃以下等に維持する)ために必要な空気の送風量よりも圧倒的に少なく、その差は、建物の断熱気密性能の低下によってどんどん大きくなります。

その結果、もしもビル空調方式で、換気と空調という二つの機能を融合し、同じ送風ファンで供給する設計とする場合、そのシステムが扱う送風量の、恐らく3割が換気用の新鮮空気、残りの7割は空調用にぐるぐる循環する空気、という事になります。

これを言い換えると、必要換気量の3倍の量の空気を空調機に通すという意味です。この空調用にぐるぐる循環する空気の経路に、ウィルス等を除去する電気的なフィルター等を取り付けている事例もまれに見かけますが、まだまだ一般的ではありません。

パッシブハウスの空調のしくみ

一方、換気風量のみで空調するという一見無謀なテーマに20年間以上前から取り組んでいるのがドイツ発祥のパッシブハウスです。

これはもともとウィルス感染対策が目的ではなく、純粋に健康的で省エネルギーな建築を追い求めていった結果、断熱気密性能の担保に加え、風や太陽といった自然エネルギーを活用する、いわゆる“パッシブデザイン”を駆使することで、冷暖房需要を極限まで減らせることに着目し、換気装置に補助熱源が取り付けられたという経緯でした。

パッシブハウス性能にまで至らなくても、近年の国内の高性能住宅では、必要換気量の1.5~2倍の空気の送風量で全館を空調出来る状態にはなりつつあります。建物の断熱気密性能が向上すると、これまでよりも少ない循環風量で設定室温に達する事が出来るということです。

まとめ 

繰り返しになりますが、気密性能の伴わない建物では、従来型の三種換気であっても必要な換気量を確保できていないこと、冷暖房期に空調用の空気が建物内を循環する割合は、建物の断熱気密性能が不足する場合程大きくなる事を皆さんにご理解頂きたいと思います。

最後に コロナウイルスへの対策として

また今回のコロナウィルス感染への対策として、換気量に意識が向きがちですが、換気回数を上げるとその分室内の水分量は減り、暖房期には室内が過乾燥に陥る傾向もあるので十分注意が必要です。感染予防には過乾燥は禁物だからです。

免疫力の低下によりウィルスに感染しやすくなっては本末転倒です。是非とも適切な換気量且つ十分暖かい家の中で過ごし、生活習慣の見直しで体温を上げる工夫も取り入れながら、皆さんの免疫力を高めて頂きますようお願いいたします。

また、宅内での飛沫や接触による感染の予防のため、手洗いとうがいの習慣もお忘れなく!!

そして体調がすぐれない時は無理をせず、休息を取りましょう。それが皆さんのご家族や周りの人に迷惑を掛けないためにも一番重要な事かも知れません・・。

非営利型一般社団法人パッシブハウス・ジャパン

森みわ・松尾和也・竹内昌義

建物探訪 森のカフェ 軽井沢南ヶ丘 

先日、森のカフェ 軽井沢南ヶ丘に建物探訪してきました。今年は暖冬ですが丁度寒冷前線の影響で軽井沢は―5℃との事前情報。パッシブハウスを体験するにはちょうど良いタイミング。

ただの見学ではなく、寒冷地でのパッシブハウスの室内環境を実際に体験しながら、宿谷先生の講義を受けるという贅沢なツアー。厳冬期の住まいの暖かさを、理論だけでなく肌で感じながら学び直す機会となりました。

森のカフェ 軽井沢南ヶ丘はパッシブ認定を受けた本物のパッシブハウス。設計者はオーナーで、建築士の菊池さん。建物の性能はパッシブ認定で証明済み。それに加え、ディテールはもちらん、インテリアの分野でも活躍されているだけあり色彩のコーディネートが素晴らしい。

リビングの一面がドーンと本棚になっているのですが、一部が窓になっており目線が抜けて外の景色が見えるせいか、圧迫間が無い印象。事前に写真で拝見してたよりも軽やかに感じます。

外観はいたってシンプルですが、隣地との関係や、軽井沢独特の斜線規制等、クリアするべきことが沢山あり苦労されたそうです。

パッシブ認定を受けるにあたり、そのためのディテールも。

引き算されたシンプルな形ほどデザインに時間が必要な事はすべて一緒だなー とフムフムひとりで納得。

エクセルギーの視点で考える住まいの快適さ

宿谷先生の講義では、寒冷地での住まいの暖かさをエクセルギーの視点で解説。数値的な性能だけでなく、私たちがどのように温かさを感じるのかという「体感」も重要であることを改めて学びました。

「包まれるような温かさ」──これは、菊池さんご夫妻が外出から帰宅したときに感じるものだそうです。それこそが、まさにエクセルギー的な暖かさ。宿谷先生は、この体験こそが重要だと話していました。

この勉強会は室内環境をシミュレーションソフトで結果を求めるだけで終りにせず、壁の中でどのような現象が起きていて、私たちがどのように受け取っているかを勉強しています。数値だけでなく人が感じる感覚を大切にする学びは新鮮。今までの知識をアンラーンしているような学びがありますがとても楽しい講義です。

美味しい食事と心地よい時間

そして菊池さんのご主人が腕を振るうランチで心とお腹に栄養補給。いまはカフェの営業はお休みしているそうですが、特別に。

サンドイッチのパンをトーストの違いで楽しませてもらったりと心配りを感じます。コーヒーも丁寧な淹れたてで美味しかったです。豆はなんだったのかな?勉強で余裕が無くて聴き忘れてしまいました。

お勧めはホットワイン。ぶどうジュースがベースで、ノンアルコールでも甘すぎず満足。軽井沢までクルマで来ても、ドライバーも楽しめると思いますので是非!

また学びの旅へ

皆で記念撮影。画像は菊池さんからお借りしました。

会に誘ってくれたのはPHJの仲間「これすま=これからの住まい」の丸山さん。設計者だけの勉強会も楽しいですね。

毎日PCの前なので、気分転換と勉強ができて楽しかった。またどこかに行きましょう!

最後に、菊池さんご夫妻には、貴重な場を提供していただき、心から感謝しています。ありがとうございました。



2025年更新:宿谷先生のエクセルギー講座に再び参加しました。
そこで学んだ新しい知見や考え方をまとめています。
最新のエクセルギー講座についてはこちら

BIS認定試験に合格

BIS認定試験に合格しました。

何歳になっても試験は緊張するし、合格すると嬉しいものです。ちなみにBISは北海道でうまれた、断熱気密や暖房・換気に関する技術者です。寒冷地に特化したした資格です。温暖な千葉では氷点下になることはほとんどありませんが、断熱気密などの理屈は同じはず。

千葉では少し間違っていてもどうにかなる?けど、北海道の気候では命取りになる厳しさがあり、しっかりとした技術、基本を知ることは必要と考えた次第です。いや、間違った知識では温かい家にはなりません。UA値は必要ですがそれだけでは温かい家にはならないのです。

この試験を受けなかったら、暖房度日数、暖房設備容量、灯油消費量を手計算するなんて事は無かったでしょう。普段使っているシミュレーションソフトの理屈をほんの少しでも理解できたので良かったと思ってます。

テキストとして使われた “北の住まいの熱環境計画 2015年” もとてもよくまとまっていて、温熱の勉強を始めてからつぎはぎ状態の知識も整理できました。あちらこちらから聞いた知識がこの一冊に!です。以前の現場で悩んだ事についてもまとまっていて、あの時この一冊があれば。。。と思う点もあります。

BIS認定 あらためて北海道で知りたいこと

無事テストは合格しましたが、始まりの第一歩。どうやって実務で生かして生きましょうか。北海道の実務者の皆さんが、寒冷地での技術をオープンにしてくれたように広めていかないとね。技術はオープンソースでひろまる時代ですから。

特にパッシブ換気については是非取り入れたい技術。建物内の上下の自然温度差によって生じる換気動力が主動力になるので、動力が不必要なのは魅力的です。

以下は個人的の目標。テストでまだまだ理解できていないことも見つかり、まだまだ勉強することがたくさん。

BISの本拠地、北海道での極限の状況を体感したいと思っています。やはりテストの合格だけでなく実地での体感が大切。

岐阜の森こうすけさんが開催されている北海道断熱修行の旅 来年は参加したいと考えてます。

 

2020年 明けましておめでとうございます。

明けましておめでとうございます。

事務所は1月6日(月)より始業しています。

本年も「自然の力」を理解し活かした家づくり、建築に関わって生きたいと考えています。

2020年もどうぞよろしくお願いいたします。

シックハウスは終わっていなかった

パッシブ技術研究会が主催する一般向け勉強会、林基哉 先生の講演を聴き、改めてシックハウス対策について考えました。

シックハウス対策としてF☆☆☆☆建材を使って、必要な換気扇をつければ建築基準法上は問題ありません。

事実、シックハウス対策が義務化された頃から内装仕上、小屋裏材等は急速にF☆☆☆☆化が進みました。そして24時間換気設備を設ければシックハウス対策は終わったと考えている人も少なくないと思います。

持ち込みの家具等には規制が無いので注意が必要くらいの意識はありましたが、そう、私もその一人でした。

ですが基準法をクリアした建物でもシックハウスは起きるとのこと。

思いがけない場所から化学物質を引っ張ってきてしまったり

”臭い”もシックハウスを誘引する一つの因子になるそう。

特に気密化された建物では室内環境に注意が必要と改めて再認識。

 

建物性能をあげていくと使用部材が多くなっていきますし、構造も複雑に。

その結果、意図しないシックハウスが生まれてしまうことも。

 

高断熱、高気密、換気はトータルで計画しないとバランスがとれないとダメなんです。

”この装置をつければ全て解決”って仕組みはないんです。

 

そして今回の勉強会の楽しみの一つとして、会場が自由学園明日館でした!

フランク・ロイド・ライトが設計した建築です。

小さな教室でしたが窓枠などライトのデザインに感動…

天井も低めですが、勾配天井になっていて圧迫感はありません。

その勾配に誘導されて、自然と目線が正面に向かい、黒板に目線が誘導されるように感じましたが、実際はどうなんでしょうかね?

高気密高断熱ではない名建築で、高気密高断熱の事を考える豊かな時間でした。

先人に学ぶ 断熱&耐震改修 寺子屋勉強会 in町田

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建物の断熱性能で弱点になりがちなのは窓。

アルミと樹脂の複合サッシでも十分だという声も聞こえますが、やはりそれより上の性能があるサッシを取り入れたいですね。

海外製サッシについては高性能だと知っていましたが、採用したことはもちろん、取付け施工も見たことがありませんでした。

ですから高本さんが主催する断熱&耐震改修寺子屋勉強会in町田に参加して勉強してきました。

今回勉強会で使用したのはロシア・サハリン州の窓枠メーカー「カールヴィ」です。

 

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参加してわかったことは、海外製サッシを施工するには一工夫、一手間が必要になるけれど、特殊な材料を使うことなく取付が可能なこと。

そのためには施工技術を正しく理解することが必要となるのですが、その技術が北海道にあるのです。

 

北海道では断熱気密工事についてBISという資格があり、知識が整理され、その全てが公開されていて誰でも自由に使うことができるのです。

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高本さんはBIS資格を取得していて、汎用性のある施工計画していました。今回の取付けに使用した資材はタイベック、気密シート、気密テープ、発泡ウレタンで特殊な資材を使用しませんでした。

 

施工については特殊な作業はありませんが丁寧な作業が必要になります。

ですが手練れてくるとスピードも上がりそうです。

 

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「カールヴィ」についてですが、フレーム下地にスチール材を利用してあるので耐久性があり、またバールでも壊れないほどの防犯性能があるそうです。

また輸送コスト分を工夫することができれば、コスト面でも国産サッシと勝負することができるそう。

 

断熱気密の技術をオープンにしている北海道。

その技術を正しく理解すれば、国産、海外を問わず臨機応変な断熱気密工事、施工計画が可能となるはず。

必要なことは正しい知識です。

先人の北海道で集められた知識が選択で迷ったときの「行き詰ったら原点に帰れ!」の原点となりそうです。

エコハウスが当たり前になるように

日本エコハウス大賞、公開審査に参加してきました。

今回、リノベーション部門で奨励賞を頂いていたので最前列の席を確保していただきました!奨励賞はプレゼンテーションも表彰式も無いので、大賞候補者のプレゼンテーションを緊張すること無く応援することができました。

大賞候補4作品はエコハウスの定型とは外れた個性的な作品ぞろい。建物性能は十分に確保されていて当然で、+αを提案している住まいでした。大賞以外の住まいについても見所が沢山あり、受賞者の方々と意見交換することもできました。

審査員の方々の質問でも気づきがあり、ゲストで参加されていた建築家の堀部さんの感想が、ピリッとしていて。。。

今回、応募する機会に恵まれ良い経験になりました。色々気づく事が多かったですし、まだまだやることが沢山あります。受賞された方々は沢山の取り組みをされていると思います。限られた条件の中で、ベストな解決策を提案できるように今後もコツコツと前進していきたいと思います。

このエコハウス大賞の成り立ちは、2020年の性能表示義務化に向けて義務的に法律を守るだけで無く、エコハウスを通してさらに豊かな暮らしを提案していく目的で始まっています。

この流れが大きくなり、エコハウスが当たり前になり、豊かな暮らしの器としての住まいが増えていき、暮らしの中でもう少し幸せを感じることが増えると良いなと考えています。

今回の日本エコハウス大賞 受賞作品の掲載されたビルダーズはこちらです!

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じつは○○年前の基準なんです

今年の猛暑の中、エアコンが大活躍だったと思います。

寝るときの冷房を我慢していた人も今年の熱帯夜には敵わず。。。エアコンを使ったという話も聞きました。暑くなってからエアコンの故障に気が付き!猛暑のためエアコンの取り付け待ちで1ヵ月以上待ちなんて笑えない話も。

 

これから冬に向かっていくと今度は暖房としてエアコンを使う機会が増えてきます。

寒くなってから慌てないように今のうちからエアコンの点検をしてみるのも良いのではないでしょうか?私も仕事の合間に天気の良い日にエアコンのフィルターを外し、水洗いしました。

エアコンって1台で冷房と暖房をかねることができる素晴らしい機械なんです。ですがエアコンを嫌いな人が多いんですよね。それには理由もあるのですがそれはまたの機会に。

暖房器具は種類が沢山

暖房は冷房と違いファンヒーター、灯油ストーブなど器具の種類が豊富です。

ですが灯油ストーブ等は水蒸気を発生させ、その水蒸気が冬の悩みとなる結露の原因にもなっています。

室内の空気環境も悪くなるので定期的な換気も必要になります。

そうそう、小さなお子さんがいると火傷の心配もありますね。。。

アラジンのブルーフレーム等、情緒的にはとても好ましいのですが機能面ではエアコンにかないません。

私もパーフェクションストーブの大ファンですが、メインはエアコン、パーフェクションは非常用のストーブとして待機しています。断捨離したらの声も聞こえてきますが、まあ、それは。。。。

エアコンのを選ぶときの目安って?

※パナソニックさんのカタログより引用

さて、今回はエアコンを購入する際の目安のお話です。

エアコンを購入するにあたって選定の目安となるのが帖数めやす(設置部屋の広さ)です。

カタログに載っているこのような表です。

 

この基準がつくられたのは何年まえ?

この帖数めやすですが基となっている基準はいつ頃に制定されたと思いますか?

なんと50年以上前に制定されて以降は改正されていないのです。

50年以上前の建物というと建物に断熱材は入っていません。そうなんです。めちゃくちゃ寒い無断熱の家が基になっているのです。

カタログの帖数めやすでエアコンを選ぶと、断熱されていない建物の部屋の大きさだけで選定すると言うことになるのです。

なので現在建てられている住宅の断熱材がしっかりと入った住まい対して、帖数めやすでエアコンを選ぶと必要よりも大きな能力のエアコンを選ぶことになってしまうのです。

断熱材の仕様、日射ことを考慮して選定するとほとんどんの場合、帖数めやすのエアコン選びよりも小さな能力のエアコンを選定することができます。

エアコンの能力は小さくなれば、おのずとランクが下がるので購入時の費用も少なくなります。また適切な大きさのエアコンを選ぶことは、エアコンのエネルギー効率を考えると効率の良い運転が多くなり、省エネにもつながってくるのです。

このことは、住まいの性能、暑さ寒さに対する体感によって一口に言いきれないのですが、帖数めやすのエアコン選びの真実の一つです。

 

エアコンを選ぶときはカタログの帖数めやすだけではなく、このようなエアコン選びができる専門家、工務店、建築士に相談すると良いと思います。

そういったところならば温熱環境のシミュレーションソフトもありますし、簡易的な計算でも十分に参考になると思います。

きっと、エアコンの選定だけでなくエアコンと建物の関係、断熱や気密との関係も知ることができると思います。

 

今日の一冊。エアコン以外にもとても参考になる本です。住まい手さんが読んでいたら不勉強な実務者は敵わないと思います。私もまだまだ勉強中です。

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建物探訪 秩父の高橋建築さんの高性能住宅を体感してきました

埼玉・秩父で数多くの高性能住宅を手がける 高橋建築(株) のオープンハウスに参加しました。
猛暑の中でもエアコンの風を感じない快適な室内環境、秩父の風景に馴染む美しいデザイン、そして“ハワイの木陰”を目指した設計思想…。
見学を通じて、高橋建築の 確かな技術と設計哲学 を実感しました。
今回のオープンハウスで得た気づきや設計の工夫について、詳しくレポートします。

秩父の自然に溶け込むパッシブハウス

オープンハウスが開催された建物と遠くに見える名物の断層「ようばけ」

高橋建築(株)の代表高橋さんは数多くの高性能住宅を建てられているので高気密高断熱への知識や経験が豊富です。今回のオープンハウスも今まで高橋さんが積み上げてきたパッシブハウスのノウハウがつまった住まいとなっていました。

当日はクルマで伺ったのですが、遠くから見えてきた建物が秩父の山の稜線や名物の断層「ようばけ」をバックに景観になじんでいます。

これは建物に付属するカーポートも木の外壁できれいにつくられているのがその理由の1つでしょう。アルミのカーポートだとどうしても景観となじまな雰囲気になってしまいます。

猛暑でも快適な室内環境

当日の外気温は36度。ですが室内に入ると、冷房で急激に冷やされる嫌な感じでは無くジンワリと汗が引いていきます。普通の性能の家だとエアコンに扇風機を追加して身体に当たる風で涼しさを得ることが多いのですが、この建物では身体に風が当たる感覚がほとんど無しで心地良い涼しさを感じます。

高性能住宅では夏になると湿度が上がってしまい蒸した感覚を感じることもあるのですが、そんな感覚も全く感じません。

天井面を冷やす画期的な手法

後日、高橋さんからサーモ画像が送られてきました。2階の室内を撮影した画像ですが青→赤の順で温度が高くなっています。よく見ると天井面が青くなっていますね。天井と壁の隅の部分が一番温度が低くなっていて、まるで冷気のカーテンが降りているようです。しかもエアコンが見えません。この仕組みは高橋さんのblogで!
普通の性能の家の2階天井面は直射日光で温められた屋根の熱で熱くなってしまいます。その熱くなった天井面が室内を温めてしまうのです。ですが、この建物は天井面を冷やすことに成功しています。冷気は暖気と比べると重いので冷気が自然落下してくるので涼しく感じる仕組みになっています。説明するのは簡単ですがこれを実現するのは大変だったみたいです。その苦労話は直接高橋さんへ!

ハワイの木陰を目指した快適設計

高橋さんはこの建物を設計するときに”ハワイの木陰”を目指したと話されていました。実は高橋さんも私もハワイの木陰を経験したことがないのですがきっとこんな感じに違いないと思います。

景色を楽しむ設計の工夫

屋根勾配が「ようばけ」の勾配とほとんど同じ!

この建物は大きな吹き抜けがあるリビングからの景色が最高に美しく、吹き抜けの東側の窓からは名物の「ようばけ」を観ることができます。

ですが、パッシブハウスの設計では建物の東側の窓は小さめがセオリーとなっていて、この建物ではあえてセオリーに従っていません。

この事を高橋さんにお聞きすると、今回の敷地は東側には化石が発見される有名な断層「ようばけ」が位置しているので、あえてセオリーを無視して、「ようばけ」が見えるように東面に大きな窓を設けたそうです。

性能と暮らしのバランス

設計にあたって、セオリーを守って建物性能の為に暮らしの楽しみを奪ってしまうようなことをせずに、2つの要素を比較検討して、必要ならば建物性能をむやみに追求しないようなバランスを保っているように感じました。これも数多くの高性能住宅を作ってこられた高橋さんならではの技術だと思います。

職人技が光る室内の造作

室内の造作家具や建具も高橋さん自ら造作されているので落ち着いた雰囲気が心地良いです。杉の無垢材でつくられているので経年変化が楽しみな雰囲気です。造作カウンターも厚板の杉の無垢材で造られているので、お客さんも喜ばれるそうです。

高橋建築のこだわりと実力

”有名ハウスメーカーさんと競合しても大丈夫”と笑って話す高橋さん。建物を体感してみると、高橋さん以外に頼む理由が見つかりません。

一般公開に前日に伺ったので高橋さんはエアコンのセッティングの真っ最中。そんな忙しい中いつもの笑顔で迎えてくださいました。PHJの仲間と言うことで質問にも丁寧に答えていただき感謝しています。

オープンハウスで体感した価値

高橋建築の家づくりを体感し、ただ数値が高いだけではない「本当の快適さ」を知ることができました。

私も高橋さんが目標とされている”木陰のような涼しさ”を目標にしたいと思います。

オープンハウスを開催してくださったお施主さま、高橋建築(株)さま、貴重な機会をありがとうございました。