たかが倉庫、されど倉庫 :像刻家 前川秀樹さんとハーフビルド

「DALDA」──ウィグル語で「隠し場所」を意味するこの倉庫は、像刻家・前川秀樹さんの制作活動を支えるために生まれました。作品のための材料や道具が増え続けるなかで、それらを安心して収められる空間が求められたのです。

倉庫という用途では、通常は「できるだけシンプルに・できるだけ大きく」という考え方が一般的です。しかし今回の計画では、あえて建物を二つに分け、中央に通り土間を設けるプランをご提案しました。通路が生まれることで単なる箱ではなく、建物そのものに「奥行き」と「抜け感」が加わります。道具を収める場所であると同時に、人が通り抜ける体験を伴う空間となり、倉庫のイメージを越えた魅力が備わりました。

前川秀樹さんのblogです。 LOLO CALO HARMATAN

建設方式は「ハーフビルド」。構造体や屋根といった要となる部分はプロの大工さんが担当し、仕上げは施主である前川さんご自身が行いました。ハーフビルドの魅力は、コストを抑えつつも建築に「自分らしさ」を刻み込めることです。

前川さんは像刻家としての感性を存分に発揮し、室内の塗装や細部の仕上げ、照明やスイッチに至るまで手掛けられました。既製品に頼らず、他の用途のパーツを転用するなど、独創的な工夫も随所に見られます。こうして仕上がった空間は、倉庫でありながら大きな作品そのもののような存在感を放っています。

DALDAのもう一つの魅力は、周囲の風景とのつながりにあります。通り土間を抜けると、当時は隣地に栗林が広がっていました。 倉庫を利用するたびに、ふと目の前に自然の景色が現れる──そんな体験が空間に奥行きを与えてくれます。

DALDAは、倉庫という用途に始まりながらも、建物を二分する通り土間の提案、ハーフビルドという建設方式、そして施主である像刻家・前川秀樹さん自身による仕上げによって、独自の空間へと発展しました。

像刻だけでなく創作活動に興味があり尊敬している前川さんにご縁をいただき、感謝しています。

DATA

所在地:茨城県土浦市

構造:木造

竣工:2010年

施工:ヨシタケ

仕上げ:施主ハーフビルド

撮影:小川幸起


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