千葉県産サンブスギを活かした住まいづくり

地域材の可能性と課題

地元産木材を活用することは、環境への配慮だけでなく、地域経済を支える重要な取り組みです。地元で調達することで輸送距離が短縮され、環境への負荷が軽減されます。例えば、輸送中のCO2排出量を抑えることが可能です。特に千葉県の「サンブスギ」は美しい木目と温かみのある質感が特徴で、床材や化粧材として高く評価されています。

しかしながら、現状では千葉県内で山長さんのように豊富にJAS認証材を製造・出荷できる製材所がないため、大型パネル建築などの構造計算が必要な場合にサンブスギを構造材として利用することは難しいのが実情です。その結果、サンブスギは主に床材や化粧材としての活用にとどまっています。

千葉県産材の可能性を広げるために

千葉県内には、地域材を活用した構造材やJAS認証材を製造する製材所がいくつか存在していると考えられます。ただし、具体的な製材所を特定するためには、千葉県の林業関連団体や木材協会に問い合わせることが必要のようです。

また、「ちばの木認証制度」を利用している事業者を調べることも、地域材を活用した製品を見つける一つの方法です。

「ちばの木認証制度」は、千葉県産材の利用を促進するための制度で、地元の森林資源を活用する取り組みを支えています。

この制度を活用することで、地域の製材所からJAS認証材や構造材を調達する選択肢が広がり、地元の森林資源をより効果的に活用できる可能性があります。

サンブスギの魅力とその活用

現状ではサンブスギは構造材としての利用が難しいものの、床材や化粧材としての魅力は抜群です。杉材は広葉樹系の材料と比較して柔らかいので足触りが良く、夏はさっぱりとした感触で、冬は若干暖かく感じられる特性があります。ただし、柔らかい分、傷つきやすい点には注意が必要です。その美しい木目や赤身の耐久性は、室内空間に自然の温もりをもたらします。

特に、サンブスギの選別工程では、一工夫が求められます。赤身材、シラタ材、源平材が混合された状態で届く材料を一度バラシて、それぞれの特性に応じて適材適所に振り分けます。

この一工夫により、材の特性を最大限に活かすことができます。例えば、赤身材は油分が多く耐久性が高く、水回りや廊下の床材に最適です。一方、リビングの床材には明るい色合いの赤身材や白太材を選び、空間全体に開放感をプラスしています。選別作業は手間がかかりますが、混合状態で購入する方がコスト面で有利であるため、この作業が仕上がりの質を左右します。個人的にはシラタと赤身が混じった源平材も魅力的だと感じます。

地域材を使う意義

地元産木材を活用することは、環境負荷の軽減や地域経済の活性化に繋がります。また、地域材を使用した住まいは、その土地の風土や文化に根ざしたデザインを実現することができます。

例えば、サンブスギを使用した家は、千葉県の風土に適した心地よい住まいを提供します。その一方で、地元の林業や製材所を支えることにも貢献します。

未来への展望

地域材を活かすためには、製材所や木材関連団体との連携を深めることが重要です。JAS認証材や構造材の供給体制が整えば、サンブスギの利用範囲を広げることができるでしょう。

また、千葉県産材を使用した住まいづくりを推進することで、地域の持続可能な発展にも寄与します。さらに、山武市が掲げる「森林づくりマスタープラン」は、地域の森林資源を守り活用するための重要な指針となっています。このような取り組みが、地元産材の利用促進と地域経済の発展につながることを期待しています。私たちはこれからも、地域の資源を活かした設計を通じて、自然と共生する住まいを提案していきます。

厳しい規制の中で生まれる創造性:カウフマン建築が教えること

先日投稿しました建築家ヘルマンカウフマン氏の講演会の続きになります。
今回の記事では、竹中工務店との協力による日本の施工現場での実践例に注目しました。

一方、前回の記事では、ウッドステーションやモックの技術進化について触れています。それらの技術が背景にあることで、本記事で取り上げるパッシブタウン第5期街区の事例にも、さらに深い意義が生まれています。


(※前回の講演記事はこちら

施工技術と設計哲学:パッシブタウン第5期街区

 YKK不動産が推進する「パッシブタウン」プロジェクトの最終街区が公開されました。このプロジェクトは、富山県産材を87%使用し、脱炭素建築を目指しています。RCコア構造により地震力を軽減し、耐火性を備えた木質ハイブリッド構造が特徴。Power to Gas技術やプレファブ工法の活用による効率的な省エネ設計が、持続可能な社会への一歩として注目されています。 

記事のリンクはこちらから

木質ハイブリッド構造でつくる最先端の脱炭素建築(※日経クロステックより要約)」

YKK Passivetown, Kurobe Hermann Kaufmann + Partner ZT GmbHより


環境と技術の最適解を求めて

カウフマン氏の日本の地震に対する法規や消防法への対応は、非常に大変だったとのことでした。(通訳の方が訳した「消防法」という言葉は、おそらく「防火規定」を指しているのでしょう)

講演中にカウフマン氏の基本図面と実施図面を比較する機会がありました。センターコアの占める割合や厚さ、カーテンウォールの厚さなどが大きく異なり、これらを比較することで、日本の規制が建築デザインに与える影響を具体的に理解することができました。またオーストリアのフォアアールベルク州にあるLifeCycle Tower (LCT ONE)との比較も行われ、コア(LCT ONEでは片側偏心コアでしたが)の割合の違いは一目瞭然でした。


カウフマン氏の設計では、スラブの薄さやカーテンウォールの軽やかさがとても魅力的ですが、日本の厳しい耐震・防火規定により、設計の見直しが必要となりました。その中で、竹中工務店と協力し、RCコアを増強しつつも木材の活用を最大限に引き出したハイブリッド構造という革新的な解決策が生まれました。


建築設計において、与えられた条件の中で最適解を導き出すプロセスは、単なる制約への対応ではなく、新たな価値を創造する機会となります。このパッシブタウン第5期街区プロジェクトは、まさにその典型例といえるでしょう。このような厳しい制約の中から、新しいアイディアを生み出している姿勢がとても印象的でした。


施工中の雨とプレファブ工法の役割

また、カウフマン氏は講演では、施工中の雨による木材の濡れを極力避けることの重要性についても触れていました。木材は湿気を含むことで品質が低下する可能性があるため、建材の搬入スケジュールや現場の雨対策が設計と同じくらい重要だと強調しています。

オーストリアと比較し、『施工途中で雨が降っても雨漏りしない』という竹中工務店の施工技術を高く評価していました。この点は、日本の施工現場における優れた管理体制と技術力を象徴していると言えます。日本の施工現場では、雨のリスクを避ける工夫が投稿などで話題になるように、雨対策は日本の施工現場において、重要な管理項目の一つです。日本の施工体制の素晴らしいポイントの一つです。

迅速施工を実現するため採用されたプレファブ工法には、木材を湿気から守りながら作業効率を上げるという、カウフマン氏の哲学が反映されています。

持続可能な技術としての可能性


カウフマン氏の設計は、シンプルなデザインと精緻なディテールなど、その意匠面に注目が集まりがちです。ですが、その設計を実現するために、直面した条件から逃げず、粘り強く問題解決を重ねるカウフマン氏の姿勢に強い印象を受けました。

竹中工務店の雨対策や迅速施工の技術は、プレファブ工法の可能性をさらに広げ、日本独自の建築価値をさらに深化させました。また、カウフマン氏が示した厳しい規制の中で創造性を発揮する設計哲学は、私たちの未来の建築を導く重要な示唆に満ちています。この技術の進化は、単なる効率化ではなく、持続可能な社会に向けた新しい価値創造の一環です。こうした建築の可能性を、私たちの生活や環境にどのように活用できるのか、一緒に考え続けたいと思います。

前回の記事はこちらからどうぞ

プレファブシステムの実践:モック千葉工場での経験とサンブ杉の可能性

1年前にFacebookでプレファブシステムについて投稿しましたが、あれからの経験や考えを少し更新しつつ、改めて振り返りたいと思います。特に、モック千葉工場での実践を通じて、プレファブ工法の可能性と現場での課題を深く実感しました。

モック千葉工場では、親会社である山長グループの紀州材を使用しています。その品質管理の高さには非常に感銘を受けました。プレファブ工法における安定した材質の提供は、施工の精度と効率に直結し、大きなメリットをもたらします。しかし、私は地元千葉県のサンブ杉をもっと活用できないかと考えています。

そこで、サンブ杉をプレファブ工法に適用するための方法を模索してきました。特に、山長の紀州材と同等の品質管理を実現できる千葉県内の製材所を見つける必要があると感じています。もしサンブ杉がその基準を満たせば、地元資源を使ったサステナブルな建築の可能性がさらに広がります。

この取り組みが、地域経済の活性化にも貢献することは間違いありません。今後も地元の工務店や職人との連携を深め、地域資源を最大限に活かした建築に取り組んでいきたいと思います。

詳しくはこちらの記事もご覧ください:
1年前の記事ですが、今でも大切な経験です) Facebook投稿リンク

木造技術の進化と可能性 ~ ヘルマン・カウフマン氏の視点


先日、建築家ヘルマン・カウフマン氏(以下H.K氏)の講演会に参加してきました。
2018年にも同氏の講演を聴講しましたが、今回は6年ぶりの再講演です。(※2018年の講演記事はこちら

今回の講演テーマは以下の通りです。

「木造建築の未来 ~ 木造技術とモダン建築の融合:地域経済を拓く伝統と革新」

H.K氏の審美的な建築事例はもちろん魅力的でしたが、講演中に特に気になったいくつかのキーワードについて掘り下げてみたいと思います。

大工の仕事からスタート

H.K氏の講演では、フォアベルク州で主流となっている「住戸ユニットタイプ(3Dボリューム)のプレファブ建築」が紹介されました。このシステムは、大工の負担を軽減するだけでなく、若い世代の大工が仕事に就くきっかけにもなっているとのことです。工場内の環境は、デザイン性が高く、洗練された働きやすい場の印象を受けました。また、フォアベルクでは、住戸ユニットの陸上運搬も日本より大きなサイズが可能であるという点も興味深いです。

ちなみに、日本で運搬可能なサイズについては、ワンルームタイプの短辺がプランニングに影響を与えることが考えられます。
※日本で運搬可能なサイズ(道路交通法の制限内)
短辺:2,400mm
長辺:5,400mm(4トンユニック積載)、7,200mm(10トンユニック積載)
高さ:約2,700mm

日本ではどうだろうと考えた際、思い浮かぶのは千葉のウッドステーションやモックさんの千葉工場です。現在、日本では2Dボリューム(大型パネル)が主流で、モックの工場でも大型パネルを製作しています。

私自身も大型パネルを導入した経験がありますが※FB投稿です、建方の際に大工さんの重労働が軽減されるだけでなく、品質管理や工程管理がより正確になり、非常に良いシステムだと感じました。さらに、ウッドステーションやモックさんが導入しているシステム全体は、フォアベルク州の技術水準に非常に近づいていると感じました。これは木材の品質管理に限らず、製造工程や作業環境、大工の負担軽減に至るまで、フォアベルク州で実践されている技術やプロセスに近いものが日本でも実現しつつあります。

2018年の講演当時、ウッドステーションやモックさんの技術はまだ存在していませんでした。

それが今、これらのシステムが現実となり、実際に稼働していることに深い感慨を覚えます。
未来の可能性として描かれていた技術が、数年の間にここまで着実に発展し、現実のものとなっている様子を目の当たりにすると、木造建築の進化のスピードと、その背景にある「伝統と革新」の力強さを改めて実感させられます。

私自身も、この進化の一端に触れ、大型パネル技術を採用できたことに、静かな喜びを感じています。時代の流れと共に、私たちの仕事も少しずつ進化し続けていることを実感し、これからも建築の可能性を広げていければと願っています。

また、フォアベルク州では混合林が主流で、モノカルチャー(トウヒの単一林)は伐採後に全伐になってしまうため、環境への影響が大きく、望ましくないとの話がありました。ただ、少し聞き取りが難しく、十分に消化できなかった部分もあり、少し残念です。

次回は、黒部パッシブタウンについての話を書いていきたいと思います。