エクセルギーで考える温熱環境:宿谷昌則先生の講演から

先日、PHJ関東支部のサブリーダーとして企画・運営した宿谷昌則先生の『人・建築・地球とエクセルギー』発刊記念セミナーを開催しました。新刊のコンセプトと同様に、講演でも数式を使わず、直感的に理解できる形でエクセルギーの視点が紹介されていました。

特に印象的だったのは、パッシブ型技術とアクティブ型技術の役割分担と、エクセルギーの原則から見る「断熱の新しい捉え方」です。

パッシブ技術の重要性:建築の基本性能を確保する

宿谷先生が強調されていたのは、建築の基本性能(パッシブ型技術)をしっかり確保することが最優先であり、アクティブ型技術はそれを活かす役割であるということ。

これは、まさにパッシブハウスの利点そのものです。

断熱・気密をしっかり確保することで、エアコンや空調の電気代を大幅に削減できる。

✅ 逆に、建築の基本性能が低いと、いくら設備を高性能にしても無駄が多くなる

例えば、エアコンの効率を上げるより、まず断熱・気密を整えたほうが、トータルで見て省エネルギーになるのです。

パッシブ型技術(断熱・気密)とアクティブ型技術(設備機器)の関係

パッシブ型技術を強化することで、アクティブ型技術の使用を最小限に抑えることができ、結果として一次エネルギーの消費を削減できます。
例えば、断熱・気密が優れた家では暖房・冷房の必要量が減り、電力やガスの消費が抑えられます。これは、エクセルギーを無駄にせず、エネルギーを最も有効に活用する設計アプローチと言えます。

エクセルギーとは?

エクセルギーとは、「エネルギーを有効に使える度合い」を示す概念です。エネルギーそのものは保存されますが、時間が経つとエネルギーの質(エクセルギー)が低下し、最終的には使えなくなります。

エネルギーとエクセルギーの違い

  • エネルギー(Energy) は変換しても消えません。(例:電気を使ってお湯を沸かす)
  • エクセルギー(Exergy) は「役に立つエネルギーの質」。エネルギーが広がるほど使えなくなります。(例:お湯が冷める)

エクセルギーの消費とエントロピー

エネルギーが使われると、エクセルギーが減少し、エントロピー(エネルギーの拡散・無秩序度)が増加します。

  • 例えば、熱いコーヒー(高エクセルギー)は冷めるとエクセルギーを失い、周囲の空気に拡散(エントロピー増加) します。
  • 建築でも、断熱が不十分だと、暖房のエネルギーがすぐに外へ逃げてしまい、エクセルギーの無駄が大きくなる

建築におけるエクセルギーの活用

🏡 断熱・気密を強化することで、エクセルギーの無駄を防ぎ、少ないエネルギーで快適な住環境を維持できる。
🏡 断熱材の役割は、熱エネルギーを有効に使うことで、エクセルギーの消費を抑えること。
🏡 建築設計の目的は、エクセルギーを最大限活用し、エネルギーの効率的な使い方を考えること。

エクセルギーの原則から見る「断熱の新しい捉え方」

講演の中で、宿谷先生が示したエクセルギーの原則に基づく考え方の転換が非常に印象的でした。

通常、私たちは壁の断熱性能を「熱を通しにくくする」ものと捉えることが多いですが、エクセルギーの視点では「加熱パネルを取り付けた状態」と考えることができるのです。

エクセルギーの原則

  • 断熱された壁は、壁からの放射熱によって室内を暖める役割を果たしている。
  • つまり、室内の人は、断熱壁からの熱放射を受けていることになる。
  • 断熱性能が低いと、熱が外に逃げるため放射も弱まり、室内の体感温度も下がる。

この考え方を理解すると、

断熱の目的は「熱を逃がさない」ことだけでなく、「壁そのものを放射熱源にする」ことでもある。

壁の断熱性能を上げることは、室内環境のエクセルギー効率を高めることにつながる。

これは、従来の「断熱=熱を遮る」という考え方から、「断熱=エネルギーを有効に活用する」という発想の転換になります。

まとめ & 今後の展望

今回の講演を通じて、エクセルギーの視点を取り入れることで、建築環境をより深く理解できることを再確認しました。

  • パッシブハウスの本質は、エクセルギーの考え方と親和性が高い。
  • 断熱気密をしっかりすれば、設備のエネルギー負荷を最小限に抑えつつ、快適な環境を維持できる。
  • エクセルギーの視点を取り入れることで、「断熱は加熱パネルである」という新たな捉え方が生まれる。
  • エネルギーは保存されるが、使える能力(エクセルギー)は消費され、最終的に使えない形(エントロピー)になり地球外へ放出される。建築設計においては、このエクセルギーの消費を最小限に抑えることが重要となる。
  • 今後も、エクセルギーの視点を設計や実務にどう活かせるか探求したい。

さらに、今回の講演をもって、PHJ関東支部のサブリーダーとしての役割を終えることになりました。これまで関わってくださった皆さまに感謝いたします。今後もパッシブデザインやエクセルギーの視点を大切にしながら活動を続けていきます。

過去にもPHJの仲間と「森のカフェ 軽井沢南ヶ丘」でエクセルギーを学ぶ機会がありました。パッシブ認定を受けた実際の建物でエクセルギーを体感しながらの学びは、まさに「理論と実践が一致する」経験でした。

その時の建物探訪の様子はこちら

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「パッシブ設計を取り入れたいが、どう進めればいいのか?」とお考えの方へ、エクセルギーの視点を活かした設計相談を受け付けています。

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建物探訪 森のカフェ 軽井沢南ヶ丘 

先日、森のカフェ 軽井沢南ヶ丘に建物探訪してきました。今年は暖冬ですが丁度寒冷前線の影響で軽井沢は―5℃との事前情報。パッシブハウスを体験するにはちょうど良いタイミング。

ただの見学ではなく、寒冷地でのパッシブハウスの室内環境を実際に体験しながら、宿谷先生の講義を受けるという贅沢なツアー。厳冬期の住まいの暖かさを、理論だけでなく肌で感じながら学び直す機会となりました。

森のカフェ 軽井沢南ヶ丘はパッシブ認定を受けた本物のパッシブハウス。設計者はオーナーで、建築士の菊池さん。建物の性能はパッシブ認定で証明済み。それに加え、ディテールはもちらん、インテリアの分野でも活躍されているだけあり色彩のコーディネートが素晴らしい。

リビングの一面がドーンと本棚になっているのですが、一部が窓になっており目線が抜けて外の景色が見えるせいか、圧迫間が無い印象。事前に写真で拝見してたよりも軽やかに感じます。

外観はいたってシンプルですが、隣地との関係や、軽井沢独特の斜線規制等、クリアするべきことが沢山あり苦労されたそうです。

パッシブ認定を受けるにあたり、そのためのディテールも。

引き算されたシンプルな形ほどデザインに時間が必要な事はすべて一緒だなー とフムフムひとりで納得。

エクセルギーの視点で考える住まいの快適さ

宿谷先生の講義では、寒冷地での住まいの暖かさをエクセルギーの視点で解説。数値的な性能だけでなく、私たちがどのように温かさを感じるのかという「体感」も重要であることを改めて学びました。

「包まれるような温かさ」──これは、菊池さんご夫妻が外出から帰宅したときに感じるものだそうです。それこそが、まさにエクセルギー的な暖かさ。宿谷先生は、この体験こそが重要だと話していました。

この勉強会は室内環境をシミュレーションソフトで結果を求めるだけで終りにせず、壁の中でどのような現象が起きていて、私たちがどのように受け取っているかを勉強しています。数値だけでなく人が感じる感覚を大切にする学びは新鮮。今までの知識をアンラーンしているような学びがありますがとても楽しい講義です。

美味しい食事と心地よい時間

そして菊池さんのご主人が腕を振るうランチで心とお腹に栄養補給。いまはカフェの営業はお休みしているそうですが、特別に。

サンドイッチのパンをトーストの違いで楽しませてもらったりと心配りを感じます。コーヒーも丁寧な淹れたてで美味しかったです。豆はなんだったのかな?勉強で余裕が無くて聴き忘れてしまいました。

お勧めはホットワイン。ぶどうジュースがベースで、ノンアルコールでも甘すぎず満足。軽井沢までクルマで来ても、ドライバーも楽しめると思いますので是非!

また学びの旅へ

皆で記念撮影。画像は菊池さんからお借りしました。

会に誘ってくれたのはPHJの仲間「これすま=これからの住まい」の丸山さん。設計者だけの勉強会も楽しいですね。

毎日PCの前なので、気分転換と勉強ができて楽しかった。またどこかに行きましょう!

最後に、菊池さんご夫妻には、貴重な場を提供していただき、心から感謝しています。ありがとうございました。



2025年更新:宿谷先生のエクセルギー講座に再び参加しました。
そこで学んだ新しい知見や考え方をまとめています。
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